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『全盲の弁護士が語る』判例から学ぶ障害者雇用の実践

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進の本質と組織変革のポイント

『全盲の弁護士が語る』判例から学ぶ障害者雇用の実践

「障害者雇用」を法定雇用率の達成だけで終わらせていませんか?
本コラムでは、障害当事者であり法律専門家でもある大胡田誠氏の講演をもとに、障害者雇用促進法の「差別禁止」と「合理的配慮」の原則を、具体的な裁判事例を通じて深く解説します。
障害を「社会のバリア」と捉える社会モデルの視点に立ち、多様性(DE&I)を力に変える組織変革のポイントを、具体的な判例検討を通じて深く学びます。

※資料の「障がい者」の表記を法律に合わせて「障害者」としています。

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障害者雇用やDE&I(多様性・公平性・包括性)の推進において、このような不安や課題を抱えていませんか?

  • 法定雇用率の達成方法や、具体的な採用の進め方がわからない
  • 「合理的配慮」の提供義務に対して、どこまで対応すべきか不安がある
  • メンタルヘルス不調や中途障害を抱える社員への適切な復職支援を知りたい
  • 障害者雇用を「義務」ではなく、組織の創造性や生産性向上に繋げたい

本コラムでは、全盲の弁護士・大胡田誠氏の知見をもとに、最新の法改正や重要な裁判事例から学ぶ「合理的配慮」の実践ポイントを徹底解説します。単なる法令遵守を超えた、多様性を力に変える組織づくりの秘訣を学びましょう。

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1. 障害者雇用を巡る最新の法改正と企業への影響

障害者というと「自分とは縁遠い存在」だと感じる方もいるかもしれませんが、実は、皆さんの身近にも多くの障害者が暮らしています。国内には、身体障害者約436万人、知的障害者約109.4万人、精神障害者約614.8万人、合計約1,160.2万人の障害者がいます。
これは総人口の約10%にあたり、「10人に1人」が何らかの障害を持っている計算になります。日本の四大姓である佐藤、鈴木、高橋、田中の合計人数(約700万人)よりも、障害者の総数ははるかに多いのです。
にもかかわらず、私たちが日常的に障害者と接する機会が少ないのはなぜでしょうか。
それは、日本の社会の中に、障害者が社会に出て活躍することを阻むさまざまな「バリア」が残っているためです。このバリアには、建物や交通機関などの物理的なものだけでなく、健常者の心の中にある「心のバリア」も含まれます。
この現状を変えるために、障害の捉え方を根本的に変える必要があります。それが「医学モデル」から「社会モデル」への転換です。

医学モデルでは、障害をその人の心身の機能障害(目が見えない、足が動かないなど)と捉え、個人の問題として訓練やリハビリで克服すべきものと考えられていました。
一方、社会モデルでは、障害を多様な人が生活していることを想定せずに作られた社会の不備と捉えます。問題は個人の側ではなく社会の側であり、社会を変えることでバリアを取り除かなければならないという考えに繋がります。

2016年に改正された障害者雇用促進法は、この社会モデルの考え方に基づいており、企業に対し、雇用現場のルールを変革することを強く求めています。改正の柱は次の二つです。

1-1. 障害者差別禁止

事業主は、障害者に対して、障害のない者と均等な機会を与えなければなりません。また、賃金、教育訓練、福利厚生、その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、不当な差別的取扱いをしてはならないと定めています。厚生労働省のガイドライン「障害者差別禁止指針」(※注1)では、例えば、以下のような具体的な禁止事項が示されています。

・募集・採用時
  • ①障害者であることを理由として、障害者を募集または採用の対象から排除すること
  • ②募集または採用にあたって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと
  • ③採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること
・採用後
  • ①障害者であることを理由として、障害者に対して一定の手当等の賃金を支給しないこと
  • ②一定の職務への配置に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと
  • ③障害者であることを理由として、障害者を一定の役職への昇進の対象から排除すること

※注1:厚生労働省「障害者差別禁止指針」

1-2. 合理的配慮の提供義務

合理的配慮とは、障害者が、障害のない者と平等に社会に参加するために必要となる手助け、施設の改良、補助手段の提供、ルールの変更などのことで、障害のある労働者を雇用するすべての事業主には、障害のある労働者に対して合理的配慮を行うことが義務付けられています。
「合理的配慮の提供」は、障害者を優遇するものではなく、障害があるために生じたマイナスをゼロに戻すための措置です。
企業は、障害者からの申し出があった場合、障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりませんが、措置を講じることが「事業主に対して過重な負担を及ぼすことになるときには、この限りではない」とされています。
厚生労働省のガイドライン「合理的配慮指針」(※注2)では、様々な障害の種類ごとに必要な合理的配慮の例が挙げられていますが、例えば、視覚障害者に対する合理的配慮として次のようなことが挙げられています。

・募集・採用時
  • ①募集内容について、音声等で提供をすること
  • ②採用試験について、点字や音声等による実施や試験時間の延長を行うこと
・採用後
  • ①業務指導や相談に関し、担当者を定めること
  • ②拡大文字、音声ソフト等の活用により業務を遂行できるようにすること
  • ③出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
  • ④職場内の机等の配置、危険箇所を事前に確認すること
  • ⑤移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること
  • ⑥本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること

※注2:厚生労働省「合理的配慮指針」「障害者差別禁止指針」

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2. 重要判例から学ぶ合理的配慮の実践

判例を通して、合理的配慮の観点から企業に求められる適切な対応のポイントについて、実践的に学びます。

事例1:精神疾患を隠して入社した社員の解雇の有効性

Y社に入社したXは、入社前にうつ病に罹患していたことがあったが、Y社の採用に応募していた当時には何ら生活に支障はなく、就職に不利にもなると考えたため、採用面接の際にはそのことを言わずに面接を受け、採用された。
しかし、勤務開始後に、Xのうつ病は悪化し、欠勤を繰り返すようになってしまった。
Xは病院に行くこともままならず、Y社に診断書なども提出することができない状態となった。
Y社はXが無断欠勤をしたとして諭旨解雇した。この解雇は有効か。

・争点1:精神疾患の治療を受けていたことを隠して入社したことは経歴詐称などの懲戒事由と同視すべきか

労働者が積極的に虚偽を述べた場合を除き、消極的に言わなかっただけの場合、直ちに経歴詐称などの重い懲戒事由と同視するのは厳しいとされます。
精神疾患のネガティブな評価を避けることは、現在の社会環境においてやむを得ない側面があるためです。
ただし、合理的な配慮を求めるためには、労働者側も情報を開示する必要があり、社会全体がネガティブな評価をしないよう変わる必要があります。

・争点2:Xを無断欠勤として諭旨解雇することは許されるか

最高裁の判例(ヒューレットパッカード事件(最判平成24年4月27日)など)によれば、本人の状況を把握せず、いきなり解雇するのは権利濫用で無効となる可能性が高いです。
企業は、まず状況をヒアリングし、休職をさせたり、治療支援をしたりするなど、解雇回避の努力を尽くさなければなりません。

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事例2:シフト調整を求められたバス運転手への不当な対応

バス会社Y社に勤務するバス運転手であったXは、腰椎椎間板ヘルニアの手術の後遺症で「排尿・排便異常」の身体障害が残ったため、勤務シフトがランダムに割り当てられると対応できない状態となった。そのため、Y社に対し午後の遅いシフトで乗務することを求めた。
しかし、Y社は話し合いを拒否し、「通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告し、Xは、欠勤せざるを得ない日が増えた。
そのため、Xは他の同僚社員との間で昇進や給与に差をつけられるようになった。Y社の対応は妥当か。

・争点1:Y社の対応は合理的配慮の観点からどう考えるべきか

まず、Y社がXの申し出に対し話し合いを拒否した点は、指針に示される配慮のプロセスに反しています。
合理的配慮の申し出を受けた場合、企業は、真摯に交渉に応じる必要があるでしょう。
そして、本件でXが求めている身体の状況に配慮した出退勤時刻の調整は、Xの身体の状況に照らせば、必要かつ相当な合理的配慮といえます(阪神バス仮処分事件(神戸地裁尼崎支決平成24年4月9日))。

・争点2:過重な負担との関係をどう考えるべきか

また、この事例は運転手が190人程度いる会社であり、シフト調整は実現可能であったことから、「過重な負担」にも当たらないと判断されました。

・争点3:合理的配慮を欠いたままで同僚と昇進などに差をつけることは妥当か

合理的な配慮を欠いた結果、能力を発揮できない不利な状態に置かれ、その上で昇進などに差をつけられたことは不当な差別に該当します。

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事例3:中途失明した総合職社員の配置転換

カラオケ機器の販売、カラオケ店の運営を目的とするY社に勤務する総合職のXは、主に営業職として活躍していたが、中途で視覚障害を負い、営業職としての業務に支障が生じた。
しかし、Xはすぐに視覚障害者支援センターに通って視覚障害補助のソフトを用いたパソコンなどに習熟し、事務職としての作業が可能となったため、Y社に対して、事務職などに配置転換すれば働ける旨を申し出た。
しかし、Y社はこの配置転換を行わず、職務に耐えられない身体の状態であるとして解雇した。この解雇は有効か。

・争点1:Y社はXを他の部署に配置転換するべきか

職種を限定せずに雇われた総合職の場合、特定の業務ができなくなっても、他に現実的に配置可能な業務があり、労働者側がその提供を申し出ているのであれば、会社は配置転換に応じるべきです(片山組事件(最判平成10年4月9日)など)。

・争点2:Xが求める配置転換をせず行った解雇は有効か

厚生労働省の指針でも、中途障害の場合の配置転換が必要な合理的配慮の一つとされています。配置転換という解雇回避の措置をとらずに行った解雇は、権利濫用として無効になる可能性があります。 企業は、人生の中途で障害を持った労働者については、従前の業務をどうすれば遂行できるのかを一緒に考え、もし従前の業務が難しい場合には、他の業務に配置転換し、そこで活躍してもらう可能性を模索することが求められています。

これらの事例検討から見えてくるのは、企業が障害者を「排除」するのではなく、「何とかしてその人に寄り添い、その人の力を存分に発揮してもらう」という姿勢が、社会において強く求められているということです。 そして、この姿勢こそが、企業のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進の本質に繋がります

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3. 多様性に対して寛容な会社こそがクリエイティブな会社

アメリカの社会学者リチャード・フロリダ氏は、クリエイティブな活動が行われている環境には、以下の3つの「T」が共通して存在すると述べています。

  1. Talent(才能ある人材)
  2. Technology(技術力)
  3. Tolerance(多様性に対する寛容さ)

フロリダ氏は、クリエイティブな場所ではLGBTQの人口比率が高いことなどを指摘し、多様性に対する寛容な環境こそが、クリエイティブな活動の基盤になっていると結論付けています。
障害者雇用を考えることは、まさにこの「多様性に対する寛容さ」を社内に根付かせることにほかなりません。
障害のある社員とともにうまく付き合い、頑張ってもらうためには、社員同士が以下のような関係を築くことが不可欠です。

  • 社員同士がお互いを認め合う
  • 社員がお互いに支え、支えられる関係である
  • 喜びも失敗も共に分かち合える関係である

このような、お互いに配慮し、能力を最大限に引き出し合うインクルーシブな職場環境を構築することこそ、真の意味でのDE&I推進であり、企業の持続的な成長と創造性を高める鍵となります。

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4. DE&I推進における障害者雇用の位置づけ

私たちは、自分とは異なる立場の存在、すなわち障害者、外国人、あるいは異なる価値観を持つ同僚と、どうコミュニケーションをとるべきか、どう接するべきか悩むことがあります。
以前、ある精神科医が「心はどこに存在するのか」という問いに対して、「人と人との間にある」と答えるのを聞いたことがあります。 人が「心」と感じるものは体のどこかにあるものではなくて、誰かのことを思ったときに、その人との間に生じる感覚だというのです。 もし、街中で障害を持つ人を見かけたら、一瞬、その人のことを思ってみてください。 そんなひとつひとつの瞬間が、社会を変えていく一歩になり、お互いの心を豊かにしてくれるきっかけにもなるのだと思います。
企業が障害者雇用に取り組み、多様性に対して寛容な組織を目指すことは、社員一人ひとりがこの「心」を育む機会となり、誰かのことを思えば思うほど、自分の心も豊かになっていくという連鎖を生み出します。 法的な義務の達成を超えた、真の組織変革と、社員の豊かな職業人生のために、この「寛容さ」と「思いやり」を軸としたDE&I推進が求められています。

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監修者情報

大胡田 誠(おおごだ まこと)

大胡田 誠

おおごだ法律事務所 弁護士

プロフィール
  • 全盲で司法試験に合格した日本で3人目の弁護士。
  • 先天性緑内障により12歳で失明する。筑波大学附属盲学校の中学部・高等部を卒業後、慶應義塾大学法学部を経て、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)へと進み、8年の苦学を経て、2006年に5回目のチャレンジで司法試験に合格。
  • 2019年におおごだ法律事務所を開業。一般民事事件や企業法務、家事事件のほか、障がい者の人権問題にも精力的に取り組んでいる。
  • 株式会社土屋 社外監査役(2022年-)
  • 主な著書として、『全盲の僕が弁護士になった理由〜あきらめない心の鍛え方〜』(日経BP社) ※2014年に松坂桃李主演でドラマ化、『今日からできる障害者雇用(弘文堂)』などがある。
所属・役職
  • 日弁連 障がいのある人に対する差別を禁止する法律に関する特別部会委員(2009年-)
  • 公益社団法人 東京都盲人福祉協会 理事(2014年-2018年)、同会監事(2018年-)
  • 公益社団法人 NEXT VISION 理事(2017年-) 公益社団法人 日本盲導犬協会 評議員(2018年-)
  • 株式会社土屋 社外監査役(2022年-)
  • 社会福祉法人視覚障害者支援総合センター 理事(2025年-)

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