• マネジメント
  • 公開日:

健康経営を支える「コンパッション」
──思いやりは経営資源になる

健康経営を支える「コンパッション」──思いやりは経営資源になる

現代のビジネス環境では、急激な変化や高まるプレッシャーの中で、多くの社員が心身ともに疲れを感じています。たとえば、「頑張っているのに成果が出ず、モチベーションが下がる」「急な業務変更に翻弄され、ペースが乱れる」 といった状況です。実際、厚生労働省の令和5年労働安全衛生調査によると、10人に8人が、仕事で強い不安や悩みなどのストレスを感じていると報告されています。
こうした状態が続くと、メンタル不調や離職リスクが高まるだけでなく、挑戦意欲が低下を招き、組織の成長にも悪影響を及ぼします。だからこそ、メンタルヘルスへの取り組みは、企業の未来を支える重要なテーマなのです。
今回は合同会社コンパッション・リーダーズ代表の筆者が、「コンパッション」の概念を取り入れるメリットについてご紹介します。

チームマネジメントや職場の関係構築で、こんなお悩みはありませんか?

  • メンタル不調や離職が増えている
  • 管理職が忙しく、部下と向き合う余裕がない
  • モチベーションやエンゲージメントが上がらない
  • 心理的安全性づくりの進め方がわからない
  • 健康経営の具体的な仕組みに悩んでいる

本コラムでは、健康経営を推進するうえで重要な「コンパッション(思いやり)」の実践方法と、心理的安全性や生産性の向上を支援する研修についてもご紹介します。

\今すぐ内容確認したい方はこちらから/
集合研修「健康経営を支えるコンパッション・メンタルヘルス研修」をみる

1.そもそも「健康経営」とは何か?

健康経営とは、従業員の健康を守ることを経営の重要な柱と捉え、戦略的に取り組む経営手法です。ここでいう「健康」とは、身体的な面だけでなく、メンタル面や職場での安心感も含まれます。 たとえば、休暇制度や健康診断の充実だけでなく、日常的に安心して働ける職場づくりも大切です。企業にとって従業員は大切な資産です。その健康を守ることは、生産性の向上や離職防止など、経営成果にも直結します。

2.健康経営が注目される社会的背景

現在、健康経営が注目される背景には、働く人を取り巻く環境の変化があります。長時間労働やメンタル不調、人材不足といった課題に加え、コロナ禍を経て働き方が大きく変わりました。

リモートワークの普及で柔軟な働き方が広がる一方で、孤立感やストレスを抱える人も増えています。また、少子高齢化で労働力人口が減少する中、一人ひとりの健康と活力を維持することは、企業の存続にも直結するテーマになっています。

健康経営を支える「コンパッション」──思いやりは経営資源になる

3.健康経営を推進するための「コンパッション」

健康経営を理念だけで終わらせないために、職場における関わり合いが欠かせません。そこで力を発揮するのが「コンパッション」です。
コンパッションとは、自分や相手の困難や課題に気づき、積極的に力になろうとする姿勢を指します。日本語では「思いやり」と訳されます。

従業員は業務のプレッシャーや変化の多い環境の中で、知らず知らずのうちにストレスを蓄積します。自らストレスに気づき対処することも大切ですが、管理職や同僚が互いの状況に気づき、思いやりのある眼差しで必要なサポートを行うことで、 心身の不調や離職のリスクを減らすことができます。

さらに、コンパッションが根づいた職場では心理的安全性が高まり、率直な意見交換や助け合いが促進されます。その結果、組織全体の生産性やエンゲージメントの向上にもつながります。

職場におけるストレスマネジメントの取り組みを適切に行う第一歩として…
eラーニングの一部を無料でお試しいただけます。

無料トライアルeラーニング
「ストレスマネジメントとは?(初級)」を見る

4.コンパッションの3つの流れ:組織に循環する思いやりの力

コンパッションは、単に「他者に優しくすること」ではありません。実はコンパッションには3つの流れがあり、いずれも健全な組織運営に欠かせない要素です。

①自分に思いやりを向ける(セルフ・コンパッション)

最も基本となるのが、自分自身に思いやりを向ける「セルフ・コンパッション」です。困難や失敗に直面したとき、「自分はダメだ」と厳しく責めるのではなく、「よく頑張っているね」「今はつらい時期なんだ」と、 自分に寄り添う姿勢を指します。このようなセルフ・コンパッションは、従業員のセルフケア力を高める重要な土台となります。

健康経営を支える「コンパッション」──思いやりは経営資源になる

②他者に思いやりを向ける

同僚や部下など、周囲の人に向ける思いやりです。相手の表情や言動から小さな変化に気づき、「困っていることはないか?」と声をかけたり、必要な支援を申し出たりする姿勢が求められます。 これは単なる「優しさ」にとどまらず、業務上の信頼や協力を築くうえでも欠かせない行動です。

健康経営を支える「コンパッション」──思いやりは経営資源になる

③他者からの思いやりを受け取る

意外と見落とされがちなのが、他者からの思いやりを受け取る姿勢です。同僚からの「大丈夫?」「無理しないでね」といった言葉や、ちょっとした手助けに対して「ありがとう」と素直に受け止められるかどうかがポイントです。 真面目で責任感の強い人ほど、「自分が頑張らなければ」と思い込み、助けを求めない傾向があります。しかし、サポートを求めることもまた、大切なスキルなのです。

健康経営を支える「コンパッション」──思いやりは経営資源になる

この3つの思いやりが職場の中で循環することで、安心して助け合える関係が生まれます。一人ひとりが心に余裕を持って働けるようになり、チーム全体の信頼や協力も自然と深まっていきます。

5.コンパッションが組織に与えるメリット<3選>

コンパッションを土台とした関わりが職場に広がることで、個人の働きやすさだけでなく、組織全体にもさまざまなプラスの効果がもたらされます。ここでは、代表的な3つの効果をご紹介します。

①メンタルヘルスケアの向上:「燃え尽き」を防ぐ土壌づくり

仕事に真剣に取り組む人ほど、ストレスやプレッシャーを抱えやすいものです。職場にコンパッションがあると、「つらいときは助けを求めていい」「自分を追い詰めすぎなくていい」という安心感が生まれます。 その結果、限界を迎える前に自らをケアする習慣が育ち、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐことができます。

②心理的安全性:安心して本音を話せる関係づくり

コンパッションが根づいた職場では、「困っていることを話しても大丈夫」「受け止めてもらえる」という信頼感が育まれます。これにより、ミスの報告や相談、アイデアの共有がしやすくなり、組織全体にオープンな対話が定着していきます。

③従業員エンゲージメント:仕事に意味とつながりを感じられる

思いやりがある職場では、感謝やねぎらいの言葉が自然と交わされます。「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感できることで、仕事への前向きな意欲や組織への信頼感が高まります。 結果として、従業員の定着率の向上につながり、離職率の低下も期待できます。

組織の活性化に向けて必要とされるエッセンスを網羅的、かつ体系的に学びたい方へ…
eラーニングの一部を無料でお試しいただけます。

無料トライアルeラーニング
「コミュニケーション能力で高める組織マネジメントを学ぶ」を見る

6.経営者・管理職が率先して取り組むべき理由<3選>

コンパッションは組織全体にとって重要な力ですが、特に影響力の大きい経営者や管理職こそ、率先して実践する意義があります。トップが実践することで職場の空気は変わり、コンパッションが「文化」として根づいていきます。 ここでは、管理職自身にとっての具体的なメリットを3つの視点からご紹介します。

①リーダー自身のストレスが減少する

忙しい日々の中で、管理職自身が自分の状態に無自覚なまま無理を重ねてしまうことは少なくありません。セルフ・コンパッションを実践することで、自分の気持ちやストレスに敏感になり、 「今は休息が必要だ」「誰かに相談しよう」といった適切な対処ができるようになります。これは、燃え尽きを防ぎながら、持続的に力を発揮し続けるための大切な土台になります。

②リーダーシップが強化される

コンパッションを育むことで、他者の感情や背景に丁寧に目を向けられる、温かさを持ったリーダーになれます。ただし、それは「甘さ」ではありません。相手や組織の成長のために、耳の痛いフィードバックを伝えることで、 メンバーからの信頼度が高まります。
実際、アメリカのリーダーシップ開発機関Potential Projectが15カ国・3,600人以上を対象に行った調査では、「コンパッション」と「厳しさ」の両方を備えたリーダーは、 そうでないリーダーに比べて部下からの信頼が2倍以上高かったという結果が出ています。※1

脚注1:Rasmus Hougaard & Jacqueline Carter, Compassionate Leadership: How to Do Hard Things in a Human Way, Harvard Business Review Press, 2022. Appendixより。
調査対象は15カ国・3,610人のマネージャーと従業員。調査結果の一部では、コンパッションと厳しさのバランスが高いリーダーは、信頼度が2.2倍、パフォーマンスが2.1倍、エンゲージメントが1.9倍と報告されている。

③意思決定の質が向上する

重要な判断を求められる場面ほど、リーダーには冷静さと的確な判断力が求められます。コンパッションを通じて身につく「自分を落ち着かせる力」は、緊張やプレッシャーの中でも心を安定させ、感情に左右されない意思決定を可能にします。 たとえ困難な状況に直面しても、慌てず本質を見極め、最善の選択をするための土台となるのです。

eラーニングの一部を無料でお試しいただけます。

無料トライアルeラーニング
「リーダーシップとは?(初級)」を見る

7.実践に向けて何から始めるか

コンパッションの重要性は理解していても、「実際にどう始めればいいのか」「何をすれば職場に根づくのか」と迷う方も多いかもしれません。ここでは、経営者・管理職が組織の中で取り入れやすい「最初の一歩」をご紹介します。

①まずはリーダーが、自分自身へ意識を向ける

コンパッションの第一歩は、他者に何かをする前に、「自分を大切に扱う」ことから始まります。忙しさの中で無理をしていないか、つらい気持ちを無視していないか、自分の心の声に耳を傾けてみてください。
一日の終わりに「今日もよく頑張った」と自分に声をかけるだけでも、セルフ・コンパッションの第一歩になります。リーダーが自身の感情に気づき、落ち着いた状態でいることは、それだけで職場の安心感をもたらします。 そんな上司の姿が、部下の昇進意欲を後押しすることにもつながります。

②声かけから始める

コンパッションは、特別なスキルや資格が必要なものではありません。たとえば、部下や同僚に「最近どう?」「何か困っていることない?」と声をかけることだけで、「自分のことを気にかけてくれている」と感じられるきっかけになります。
「声をかけても迷惑かもしれない」とためらう方もいるかもしれませんが、大切なのは完璧な言葉ではなく、「関心を持っている」という姿勢です。

③仕組みで職場に「安心して話せる時間と空気」をつくる

業務に追われる日々の中では、立ち止まって話す余裕が持ちづらいものです。だからこそ、意識的に「話せる場」をつくることが大切です。
たとえば、1on1ミーティングの中で業務報告だけでなく「最近どんな気分で働いているか」といった感情や状態に目を向ける問いかけを加えてみてください。ちょっとした工夫が、対話の質を高め、信頼の土台となっていきます。

④チーム全体で学ぶ機会を持つ

個人の努力だけでは限界があります。職場全体でコンパッションについて学ぶ時間を持つことも有効です。
「感情との付き合い方」「人の話の聴き方」「自分を整える方法」など、心理的安全性や相互理解を深めるためのテーマをチームで共有し、学ぶことは、持続的な行動変化につながります。
コンパッションの実践は、一気にすべてを変える必要はありません。「ちょっと立ち止まって、自分や周囲の人の気持ちに目を向ける」そんな小さな習慣が、職場全体に思いやりの循環を生み出す第一歩になります。

eラーニングの一部を無料でお試しいただけます。

無料トライアルeラーニング
「リーダーシップとは?(中級)」を見る

8.コンパッション導入の難しさ

コンパッションは、健康経営を推進するうえで大きな可能性を秘めたアプローチです。しかし、実際の現場では「思いやりが大切だとわかっていても、なかなか実践できない」と感じている方も少なくありません。
ここでは、組織でコンパッションを根づかせる際に直面しやすい、主な難しさを取り上げます。

①忙しさや業務優先の風土

日々の業務に追われる中で、心に余裕を持ち、人に丁寧に関わることは簡単ではありません。
たとえば「相手の様子に気づいたけれど、声をかける時間がなかった」「一人ひとりに寄り添いたいけれど、それより先に数字を出さなければならない」といったジレンマが起こります。
職場全体が「成果がすべて」という空気に包まれていると、自然な思いやりの行動が後回しになってしまいます。

②コンパッションの誤解:「甘やかし」との混同

コンパッションは、単なる「優しさ」や「甘やかし」ではありません。
しかし現場では、「思いやりを向けることは厳しさを失うこと」と誤解されることが少なくありません。 特に成果主義が強い文化の中では、「厳しく接しなければ部下は育たない」「やさしくすると緩む」といった固定観念が根強く残っています。
こうした難しさがあるからこそ、私たちの講座では、 まず「セルフ・コンパッション」から始めます。
セルフ・コンパッションは、どんな立場の人にも必要なものであり、多くの方にとって取り組みやすい入口です。 自分の心と体の状態に気づき、いたわることができれば、日々の働き方にも自然と余裕が生まれます。

講座の後半では、お互いに思いやりの言葉を送り合う体験を通じて、「人に思いやりを向けること」のあたたかさと力強さを実感していただきます。 小さな関わりの積み重ねが、職場全体の空気を変えることに気づく時間になるはずです。
また、経営者や管理職の方は、職場の雰囲気を大きく左右するキーパーソンです。ご希望があれば、部下との関わり方や対話力を高めるための内容も、別途ご提案いたします。

\今すぐ内容確認したい方はこちらから/
集合研修「健康経営を支えるコンパッション・メンタルヘルス研修」をみる

LEC東京リーガルマインドは貴社の人材育成を成功させるため、集合研修・eラーニング研修・試験対策研修・ブレンディング研修まで、様々なプランをご用意しております。詳細資料のご請求やお見積りのご依頼は、お気軽に法人事業本部まで。

9.「思いやり」が職場に根づくとき、健康経営は動き出す

健康経営を本当に機能させるためには、制度や施策だけでなく、職場の日常における人間関係の質が問われます。
どれほど福利厚生が整っていても、日々の会話に冷たさや緊張感が漂っていれば、人は心から安心して働くことはできません。
そこで鍵となるのが「コンパッション(思いやり)」です。
自分自身にも、相手にも、温かなまなざしを向け、必要に応じて行動することは、特別な性格やスキルではなく、誰もが育むことのできる人間的な力です。

現場には、忙しさや誤解、余裕のなさなど、思いやりが届きにくくなる壁も存在します。だからこそ、最初の一歩は「無理なく、できることから」始めることが大切です。
自分を整え、相手に関心を向け、ひと言声をかける――そのような小さな行動が、やがて組織の文化を変えていきます。
思いやりが「特別な誰か」に任されるのではなく、「当たり前の空気」として根づいていくことが、誰もが健やかに働ける職場づくりの土台となり、 健康経営の真の実現につながっていきます。

こちらもおすすめ【コラム記事】

監修者情報

合同会社コンパッション・リーダーズ

植田 早紀(うえだ さき)

研修講師

プロフィール
  • 研修分野:ビジネススキル研修
  • 保有資格:米国CTI認定 プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)、一般財団生涯学習開発財団認定 ワークショップデザイナー
  • 講師領域:人材開発、組織風土の醸成、コミュニケーション、リーダーシップ開発、メンタルヘルスケア
  • 経歴
  • 合同会社コンパッション・リーダーズ代表
  • 外資系製薬会社で13年間勤務。開発、営業(マネジャー)、マーケティング、学術、人事といった様々な部署・立場を経験。営業時代は、グローバル全社員の中から選出されるハイ・フライヤー・アワードを受賞。 2022年に独立し、研修講師のほか、コーチングやコンパッションの個人セッション提供、短大講師など、様々な形で「人の成長」に関わる。分かりやすい説明と参加者同士のディスカッション・対話から、「明日、現場で役に立つ研修」を心がけている。

三神 良子(みかみ りょうこ)

研修講師

プロフィール
  • 研修分野:ビジネススキル研修
  • 保有資格:米国CTI認定 プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ、国際コーチング連盟 プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
  • 講師領域:人材開発、組織風土の醸成、コミュニケーション、リーダーシップ開発、メンタルヘルスケア
  • 経歴
  • 合同会社コンパッション・リーダーズ代表
  • 大学卒業後、金融機関に勤務。営業、カスタマーサービス、教育チームでの仕事に従事。部下や研修受講生の育成にやりがいを見出し、働きながらコーチの資格を取得。 2019年に独立して、コーチングの個人セッションの提供や、コンパッション、成人発達理論といった心理学の講座を主催。受講し終わった後、明るく前向きで、次の一歩を踏み出したくなるプログラム作成、ファシリテーションが持ち味。

LEC東京リーガルマインドのおすすめ研修

チームの連携を強化したい皆様向け

ストレスマネジメントに関心がある皆様向け

リーダーのための自己調整力向上プログラムなら

研修のラインナップ

eラーニングマネジメント研修

まずはお問い合わせください!

LEC東京リーガルマインドは貴社の人材育成を成功させるため、集合研修・eラーニング研修・試験対策研修・ブレンディング研修まで、様々なプランをご用意しております。詳細資料のご請求やお見積りのご依頼は、お気軽に法人事業本部まで。

PAGE TOP