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やさしい日本語とは?外国人雇用におけるやさしい日本語の重要性について解説
やさしい日本語は、日常生活で使われている言葉を外国人にも分かるように配慮した簡単な日本語のことをいいます。 日本国政府は、多文化共生社会を進めるにあたり、「やさしい日本語」を共通の言語にすることを進めています。これから1000万人を超える外国人が、2040年頃には日本で生活していると予想されています。その多くが、成人まで自国で教育を受けてから来日します。 これからの日本を作っていく上で、違う文化圏から来た外国人にも理解しやすい表現で構成していく言語が求められます。 それが、「やさしい日本語」を推進していく背景にあります。
1.やさしい日本語の基本とその必要性
やさしい日本語は、日本で増えている外国人とのコミュニケーションを円滑化することを目的に普及が進められており、2026年度以降は、すべての自治体が、外国人向けの広報を「やさしい日本語」対応にすることで準備が進められています。 元々1995年に阪神淡路大震災が起きた際に被害を受けた外国人たちが、日本語の放送や案内板などの意味を理解できず必要な情報を得られないことで苦労したという事実が、「やさしい日本語」が生まれたきっかけです。その当時「至急避難してください」という表現が伝わらなかった教訓から「すぐににげてください」という表現が使われるようになりました。 日本在住の外国人のうち約60%強は、難しい表現を使わずに小学生3年生までに習う表現で話しかければ理解できるというデータから、政府は、「やさしい日本語」を普及させることを決めました。
1-1.定義と背景の理解
やさしい日本語は、漢字の使用は、小学校の3年生レベルで留め、なるべくわかりやすい表現で、外国人に伝えるものです。日本国政府は、2019年以降多文化共生社会を進めることを国家方針としており、外国人とのコミュニケーションを円滑に進めるためには、「やさしい日本語」を多くの人が理解し、活用することが期待されています。 実際、すべての地方自治体の広報担当者は、「やさしい日本語」の学習が義務付けられており、この流れは民間企業にも広がっていくと予想されます。すでに300万人を超える外国人が長期的に日本に在留し、その数は、15年後には、1100万人前後まで増えるとされています。外国人との共生を考える上で最も重要な要素が「言葉」の問題です。 漢字の数を抑えて、なるべくわかりやすい表現の日本語を使用することで、多文化共生社会の実現が可能となるのです。まさに、「やさしい日本語」が、多文化共生社会の共通言語となります。
1-2.多文化共生社会への寄与
多文化共生社会は、国籍や民族など異なる人々が、互いの文化的な違いを認めあい、対等な関係を築こうとしながら、地域の構成員として共に生きていく社会のことです。多文化の交流により相互理解が深まり、日本人と外国人の協力が強化されることが理想とされています。 相互理解のためには、コミュニケーションが成立し、外国人と日本人との対話が行われることがポイントです。 外国人が多数日本で暮らすようになるにつれて多様性が重視され、文化や価値観の違う人たちと共に社会を生きるために様々な工夫が求められます。相互理解を促すためのコミュニケーションツールがやさしい日本語なのです。
2.やさしい日本語を理解する目的と効果
これから2040年代に向けて外国人労働者の数は増え続け、1100万人を超えることが予想されていますが、様々な国の人たちと日本人とをつなぐコミュニケーションツールが「やさしい日本語」となります。日本国政府が、多文化共生社会を進めるにあたり、「やさしい日本語」を重視しておりますので、当然外国人労働者を雇用する企業の管理者も、「やさしい日本語」を理解し、使いこなす必要があります。 外国人労働者が多く働くことになる特定産業は、政府が人手不足が著しく日本人の採用が難しいと位置づける産業であり、その特定産業では、日本語によるコミュニケーションが必須とされています。 2024年成立の入管法改正により育成就労と特定技能が、この特定産業を支える柱となる在留資格であり、継続した日本語教育が必須となります。企業側が経費を負担し、日本語教育を進めていく必要があり、まさにやさしい日本語の完全取得は避けることのできない道となります。日本語教育の参照枠のB1レベルまで日本語力を引き上げなくては、永住権につながる「特定技能2号」への変更申請も認められません。 やさしい日本語の完全取得が、外国人労務管理の1丁目1番地と位置づけられるのです。
2-1.非日本語話者へのコミュニケーション能力向上
非日本語話者が、業務上問題のないレベルまで日本語力をレベルアップするためには、平均で500時間から600時間かかるといわれています。初級に300時間、中級に300時間が基本ですが、一部の外国人労働者については、初歩の日本語教育を受けた段階で来日するので、平均すれば500時間前後で済むと想定されます。 ただし、大半が試験対策のマークシートによる多肢選択式の学習で、仕事において会話したり、メールを日本語で作成するようなトレーニングはしていません。 文部科学省が進める日本語教育の参照枠では、「読む」「書く」「聞く」「話す」のすべての力をバランスよく向上させていく教育を重視します。企業の中で働き、仕事の成果を報告するためには、話すことと書くことは必要であり、それらの能力を向上させるための教育が必要になります。
2-2.情報アクセスの促進と社会参画の強化
外国人労働者は、企業内で成果をあげて、組織のために貢献することも求められる一方で、生活者として日本の中で生活をする中で直面する言葉の問題にも対応しなければなりません。日本に暮らす外国人は、言葉の壁の問題から生活に必要な情報にアクセスすることが難しく、様々な公的なサービスの利用ができないまま過ごすケースや、ゴミの正しい分別の方法がわからないために地域住民とトラブルを起こすこともあります。 やさしい日本語を完全に理解できるようになれば、少なくとも最低限の行政サービスを受けることができる体制も採られていますので、日本語教育の継続的な実施は大きな意味があります。 継続的に日本語教育を実施し、日本語教育の参照枠のA2(初歩レベルの上)まで理解できれば、やさしい日本語を使ってコミュニケーションが可能となり、日本社会において社会参画を促すこともできます。外国人社員を雇用するということは、会社のみならず、地域社会で外国人家族が孤立してしまわないようサポートしていくことも求められるのです。
3.やさしい日本語理解研修の成果と展望
日本社会で働くことを決意した外国人労働者は、最低限の日本語は理解できようになります。ただし、日本人が幼児期から大学卒業するまでに学ぶ日本語力に比べれば、格段に落ちるレベルです。そのため、日本人の側が歩み寄る必要があるのです。 外国人を企業に貢献する人材に育てあげるために、管理者である日本人が「やさしい日本語」とはなにかを知るべきです。 少なくとも中学生になってから学習するような難しい漢字の単語はコミュニケーションの中でも避けるべきで、「法令順守」という表現は、「ほうりつをまもります」というような表現にして伝えます。また、主語を省いた表現も厳禁です。「いつものとおりやっておいて」というような抽象的な表現は、外国人のミスにつながり、最悪労災につながることもあります。 やさしい日本語は、主語、目的語と述語がわかりやすく、外国人でも理解できる表現です。 業界ごとに使う単語や言い回しも違いますので、外国人を雇用し、日本語で指示を出す立場にある管理者は、やさしい日本語の研修を受けることが必要な時代です。
3-1.研修を通じて得られるスキル
やさしい日本語理解研修に関しては、日本人とは違う教育を受けてきた外国人が、どのレベルの表現であれば理解できて、どこからは難しく感じるのかが分かるようになるということです。漢字圏から来た人を除いて、漢字を使った言い回しは難しく、ミスを招くリスクがきわめて高くなります。漢字を使うときはルビをふるとか、ひらがなを使用して説明するなどの配慮が求められます。 研修で一番重視することは、外国人労働者と円滑にコミュニケーションを行うためのストラテジー(戦略)をつかむことです。 まず、外国人労働者の入社時の日本語能力を正しく知り、何がどこまで理解できて、どこからが難しく感じるのかを把握します。そのうえで、日本人であれば理解できる指示内容をどのようにやさしく言えば外国人労働者にわかってもらえるかをトレーニングします。実際、業務の中で頻繁に使用する言い回しを列記し、それをやさしく伝える訓練をしていきます。
3-2.多文化理解に基づく対話能力の強化
企業によって必要とする人材が異なるのは当然ですが、どの国から来た外国人かによって対応の仕方も変えていく必要があります。また、宗教の影響による価値観の違いもありますので、同じ国の出身の外国人労働者であっても、扱いは変えなければならないケースもあります。 外国人を雇用するということは、日本語の理解と運用能力の向上という視点だけではなく、日本の文化を正しく伝えるということも重要になります。 これは、外国人に日本の文化を一方的に押し付けるのではなく、文化の違いに「折り合いをつける」ことが必要になります。例えば、イスラム教徒の外国人労働者を雇用した場合、社食に豚肉の定食しかないので食べるように言えば、拒絶され、ハラスメントそのものになってしまします。文化の違いから受け入れ不可能になる場合は何があるかなど、事前に理解しておくことが大切なのです。お互いの違いを理解することにより。対話能力は強化されていきます。
3-3.導入事例と成功事例の紹介
やさしい日本語の教育推進の成功事例の一つが愛知県にあるT社式の日本語教育です。 大手自動車企業の城下町という環境下で、T市に住んでいる、または勤務している外国人住民が、今の自分の日本語レベルを把握するためにオリジナルの日本語能力判定制度を作りました。判定に使われるタスクは、T市の市民として生活する中で必要とされる日本語を対象としています。外国人住民の言語使用調査に関する調査結果をもとに、買い物や医療、団地での付き合い方など地域での活動、職場での活動、子供のいるひとにとっては教育関係の場面を想定して策定されています。 この判定制度は、何のためにどんな日本語を使えるようになりたいのか、日本語学習の目標を確認し、学習の手ごたえを得るための指標となっています。
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まとめ
日本は、2020年代に入り急激に変わろうとしています。政府の予想を超える少子高齢化の進展により、2040年代までに数多くの労働者が来日し、日本人とともに働く時代になります。日本で教育を受けたのではなく、海外で教育を受けて成人してから日本に来る外国人が増えるということで、日本国政府は、多文化共生社会を進めるための施策を次々に打ち出しています。
2024年の入管法改正により、30年以上続いてきた技能実習制度にも終了することとなり、育成就労制度が新しく登場することになります。この制度は、特定技能制度と一体化するような運用が図られ、求められる日本語能力の基準と技能レベルをクリアした外国人のみが、「特定技能1号」に移行できます。さらに、期間の定めなしで働ける「特定技能2号」に移行するためには、日本語教育の参照枠のB1(自立した日本語能力レベル)に到達する必要があり、外国人労働者が500時から600時間継続して日本語学習を続けていかなくてはいけない水準となりました。
外国人労働者を多く必要とするのは、人手不足に悩む特定産業であり、介護や建設など100万人単位で外国人材に頼らなけば、事業の継続が困難になるケースもでてきます。
日本人と共に働く業務になるので、コミュニケーションに求められるのは日本語であり、外国人のミスを防ぐ意味でも「やさしい日本語」の活用が求められています。外国人労働者とコミュニケーションを成立させるためにも、管理する日本人側が「やさしい日本語」の意義を理解し、自らそれを使い業務の円滑化を図ることが時代の要請といえるでしょう。
監修者情報
佐藤 正巳(さとう まさみ)
プロフィール | 成城大学経済学部経営学科卒業後、大手精密機械メーカーの販売会社に入社し、営業を経験。その後、2年3か月間アメリカに留学し、経営学と比較文化論等を学ぶ。帰国後、出版社の編集者として2年間勤務し、その後、健康用品販売会社を立ち上げる。経営者として、2006年まで会社のマネジメントを行う。2008年に行政書士としての活動を始め、入管業務を中心として数多くの案件を手がける。その後、2016年に社会保険労務士としても活動をはじめ、就業規則の作成や外国人の雇用管理に関する業務を行う。2019年には、東京都社会保険労務士会に自主研究グループとして外国人雇用管理研究会を立ち上げ、毎月セミナーを開催。 |
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著書 |
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