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改正入管法でなにが変わる?外国人労働者を雇う企業の対応は?
2019年4月1日、「特に人手不足が深刻な14業種で、国内の人材不足を解消しよう」という趣旨で施行された改正出入国管理法は、人材の確保に困難を感じている企業にとって、大きな転換となります。
少子高齢化による人材不足を補う担い手として注目されている特定技能外国人労働者。
この特定技能外国人労働者について解説します。
- おすすめの方
- 今後外国人材の採用を検討している企業の方
- 既に技能実習生を受け入れている企業の方
- 外個人材の採用に関わる「日本語学校」や「人材紹介会社」の方
1.入管法(出入国管理法)とは?
外国人を採用しようと思ったときに、日本での就業に制限がない外国人と、そもそも正社員では採用できない外国人がいるのをご存知でしょうか?
入管法(主入国管理法)では、日本企業で正社員として採用できる外国人と、正社員としては採用できない外国人の在留資格の種類について詳しく定めています。もし外国人の採用を検討している方は、在留資格に注意が必要になります。
1-1 なにに関する法律?
入管法とは、正式名称を「出入国管理及び難民認定法」といいます。
入管法は、本邦における、全ての日本人と外国人の出入国の管理、及び、全ての外国人の在留の管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とします(入管法1条)。
現在に至るまで、社会情勢に合わせて数回にわたり改正が行われています。
- 1982年の入管法改正:戦前から日本に住んでいる韓国・朝鮮・台湾人の特例永住権を認定
- 1980年代後半〜1990年の入管法改正:不法入国者・就労者が社会問題化したことにより、在留資格の明確化や不法就労者の雇用主への厳罰化を規定
- 2009年の入管法改正:在留カードの交付開始
- 2019年の入管法改正:新たな在留資格(特定技能の創設)
※2018年12月8日に改正入管法が成立し、2019年4月1日に施行されました。
1-2 外国人が日本国内で働くのに必要な「在留資格」
外国人が日本国内で働くにあたり、日本人と同じようにどんな仕事でもできる在留資格は以下の4種類があります。
① 永住者:日本での永住許可を受けた者
② 日本人の配偶者など:日本人の配偶者・実子・特別養子
③ 永住者の配偶者など:永住者の配偶者・日本で出生し引き続き在留している子
④ 定住者:日系三世、外国人配偶者の連れ子など
これら4種類は日本人と同じく、自由に就職・転職活動を行うことができます。逆を言えば、上記の4種類以外の在留資格では、在留資格で許可された範囲内での就労か、そもそも就労できないものになります。
工場の製造ラインで製品の袋詰めをするような「単純作業」は、上記の4つの在留資格を持った外国人であれば従事することができます。
原則として日本での就労が認められていない在留資格
① 文化活動:日本文化の研究者など
② 短期滞在:観光客・会議参加者など
③ 留学:大学、専門学校、日本語学校などの学生
④ 研修:研修生
⑤ 家族滞在:就労資格などで在留する外国人の配偶者・子
上記5種類の在留資格は原則として日本での就労が認められていません。しかし、実際には留学生などがアルバイトをしている姿を見かけることも多いのではないでしょうか。
実は基本的には就労が許されていない在留資格でも「資格外活動」を申請し、許可されれば上記の在留資格でもアルバイトを行うことが可能になります。
ですが、例えば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持った外国人は、デザイナーやエンジニアとして働くことはできますが、単純作業に従事することは認められていません。もしそのような単純作業を行う業務を、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持った外国人にさせてしまうと「不法就労」として外国人も会社も罰則を受けることになりますので、注意してください。
2.2019年に入管法が改正
2019年4月以降の入管法では、新たに単純労働で正社員で就労可能な在留資格「特定技能」が創設されました。
日本国内における人材確保が困難な状況にある14の特定産業分野において、外国人の雇用が可能となりました。
この在留資格「特定技能」には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
「特定技能1号」は、特定の産業分野(業種)に属する相当程度の知識、または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格のことです。在留期間は5年と定められており、家族の帯同ができません。
「特定技能2号」は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格のことです。在留期間は無制限で家族の帯同が可能になります。
2-1 入管法改正の背景
特定技能を創設したことで、日本国内において人手不足が深刻とされている特定の産業分野では、一定の専門性・技能がある外国人を即戦力として受け入れることが可能となりました。
もともとあった「技能実習制度」というものがあります。本来の目的は、我が国(日本)で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域への移転を図り、当該開発途上地域の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという国際協調の推進であったはずですが、現実には海外からの「労働力の確保」になってしまっています。
「労働力の確保」という主旨を実現させるべく、「技能自習」の年限と受入れ人数枠を拡大してきています。にもかかわらず、建前上は「技能等の適正な修得、習熟又は熟達」であるかのように装っていますが、現実とのギャップが大きくなってきていました。
そこで今回の改正で注目すべきは、特定技能者制度の創設により、今までは技能実習生が補ってきた単純労働につき、外国人労働者に従事させることが可能になったいう点です。いままでは身分系の在留資格・技能実習生以外で単純労働はできませんでしたが、これにより幅広い業務に外国人材の従事してもらえるようになりました。
また、特定技能には技能実習からの移行が可能です。
技能実習生は最長で5年しか日本に在留できず、その後は必ず母国へ帰らなければなりませんでした。ところが、技能実習から特定技能への移行が可能になったことで、母国に帰らず引き続き働いてもらうことが可能になりました。
このように、人手不足のに対して、外国人材の受入れを拡充することで対応していこうという動きがみられました。
2-2 最新の入管法について(内容・変更点)
2019年4月以降の入管法では、新たに就労可能な在留資格「特定技能」が創設されています。
日本国内における人材確保が困難な状況にある14の特定産業分野において、単純労働で技能実習生以外で外国人の雇用が可能となりました。
在留資格が適用される業種「特定産業分野」は、人材不足が懸念されている以下の14分野です。
・介護
・ビルクリーニング
・素形材産業
・産業機械製造業
・電気・電子情報関連産業
・建設
・造船・舶用工業
・自動車整備
・航空
・宿泊
・農業
・漁業
・飲食料品製造業
・外食業
※ただし、特定技能2号を取得できる分野は「建設」「造船・舶用工業」のみです。
2-3 企業にとってのメリット・デメリット
メリット
入管法改正を活用し、特定技能外国人労働者を受け入れることは「労働不足の改善」、「地方の人材不足解消」が挙げられます。
◆労働不足の改善
新たな労働力として外国人労働者を受け入れることによって、単純労働での人手不足が解消され、倒産のリスクも軽減されるといわれています。
◆地方の人材不足解消
日本全体の人口は減少傾向にありますが、都市部の人口は増加しています。
過疎化した地方で、介護や農業などの分野における人手不足を、外国人労働者によって補填することができるようになります。
また、若い外国人労働者による社会保険料厚生年金保険料の納付や、日本国内での消費活動も拡大し、景気が上向きになる動きも予想されています。
デメリット
入管法改正により多くの特定技能外国人が日本の流入することにより「雇用環境の悪化」、「治安の悪化」などのデメリットも生じます。
◆雇用環境の悪化
技能実習生や特定技能外国人が働く現場は人材不足の業種です。人手不足の現場は、長時間で重労働など過酷な労働環境にも関わらず低賃金で、日本人を募集しても集まりにくく、離職率も高いです。労災も増えており、死亡や重篤な障害の残る場合もあります。建設業で物が落下した、食品製造工場で腕や指を挟まれた、など安全衛生教育が必須の危険な現場も少なくありません。
3.改正後の入管法を踏まえて企業が対応するべきこと
外国人労働者を受け入れる際、企業は外国人労働者が最適な労働環境で働けるようにさまざまな対応が必要です。
◆受け入れ体制の整備
言語や生活様式の違い等から、日本人にとって常識と思えることであっても外国人が知っているとは限りません。そこで、外国人が働きやすいように、社員全員を対象とした事前のセミナーを行ったり、外国人を対象として事前のガイダンスを行うことが、外国人が社内に溶け込み、業務への適用をスムーズにするために必要となります。
◆日常生活のフォロー
外国人労働者が安心して職務に専念するためには、日常生活のフォローも欠かせません。
役所の手続きや病院へ行くとき、賃貸物件を借りるときなど、企業の手助けが必要となります。
◆日本語能力向上の勉強の推進
特定技能外国人の多くは日本語能力N4〜N3で、けっして日本語が不自由なくできるわけではありません。日本語学習の機会提供が必要になります。
◆支援機構との連携
外国人労働者を雇用する場合、「ハローワーク」や「外国人雇用サービスセンター」、「民間派遣業者」を利用していましたが、「特定技能1号・2号」の外国人労働者を採用するためには、登録支援機関・受入れ機関との連携が必要です。
支援機関と綿密に連携し、基準をよく確認しながら受け入れを進める必要があります。
基準をクリアしていない場合、出入国在留管理庁から指導・改善命令を受けることがあります。
◆社内制度の見直し
日本人労働者だけでなく、外国人にも分かる就業規則や雇用契約書を明示し、外国人労働者に納得して働いてもらうことが大切です。
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4.学習を通して、外国人の労働力を活用できる組織に
外国人社員の採用と戦力化に関するメリットや、在留資格や文化の違いなどにより考えられるリスクについてノウハウを学ぶことで、より広い市場から優秀な人材確保を行うことができるようになり、経営基盤の強化や、グローバル人材の確保とダイバーシティの浸透によるイノベーションの可能性を高めることに繋がります。
5.まとめ
「外国人労働者をどの程度受け入れるのか」、「人手不足が解消された場合、受け入れた外国人労働者をどうするのか」、「日本人雇用への影響は?」など、さまざまな課題は多くあります。
しかし、外国人労働者の受け入れなしでは5年後10年後の日本経済を維持できない状況に追い込まれています。
人材不足を解消して日本を豊かにするためには、外国人労働者との共生に向けた企業姿勢を構築することがが大切です。
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監修者情報
飯塚 匡春 いいづか まさはる
社会保険労務士法人ADEPT(アデプト)代表 行政書士飯塚匡春事務所 代表 入国管理局認定申請取次行政書士 |
保険会社で7年勤務後、行政書士、社会保険労務士を取得。2013年開業する。 2019年社会保険労務士法人ADEPT(アデプト)を設立。 企業の労務管理、保険手続き、助成金の申請代行を行っている。 また、労働行政に5年間勤務している経験を生かして、日本で働く外国人の就労ビザ申請手続きを中心に外国人雇用に関する労務相談、外国人を雇用するときに必要になる雇用契約書、就業規則、諸規定の整備を専門としている。 |