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外国人が日本で働くために必要な支援とは?
日本で働く外国人はどんどん身近になってきました。実際に日本で働く外国人の方のリアルな声はどのようなものなのでしょうか。また、実際に外国人就労支援に携わるキャリアコンサルタントが心がけていることは何なのでしょうか。日本で働くにあたっての文化の違い、外国人受入企業や支援者が認識しておくべきルールや手続きを共有します。
※本コラムは2023年9月15日に実施したキャリアコンサルタントNPO生涯学習オンラインタイムの内容をコラムとして編集したものです。
常見 治彦(つねみ はるひこ)
【外国人労働者を1人でも雇ったら読む本】を出版。
新井 伸子(あらい のぶこ)
2009年キャリアコンサルタントの資格を取得後、愛知、静岡、長野県内の大学でコミュニケーション、キャリア開発の授業を年間80枠担当。
小澤 浩一(おざわ こういち)
労働衛生コンサルタント(保健衛生)登録後、労働安全衛生の観点からキャリアとメンタルヘルスに着目しての活動を行っている。
また、資格試験へのチャレンジを続けており、取得した資格は140を超える。
西脇 奈保子(にしわき なおこ)
現在はキャリアコンサルタント課に所属し、キャリアコンサルタント養成講座・2級技能検定対策講座・更新講習を担当。講座の企画・運営・営業・講師採用や育成にも取り組む。
朴 海燕(ぱく かいえん)
日本で大学院を卒業し、2017年に株式会社LEC東京リーガルマインドに入社後は、法人向け研修講座の企画マーケティング全般や新規事業開発を担当、2019〜現在は外国人雇用や外国人のビジネススキルアップに役立つ講座やセミナーを多数企画・開発。「外国人雇用支援センター」での副センター長の活動を通して、外国人材が今まで以上に日本国内で活躍できるような社会になることを目指す。
1.外国人就労支援について
西脇:LECキャリアコンサルタントの西脇です。今日はセミナーで話していただいた常見先生、実際にキャリアコンサルタントとして外国人の就職支援に携わっていらっしゃいます新井伸子先生、サポーターの小澤先生、そして日本でLEC社員として活躍中の朴さんにも参加していただきます。朴さんは、外国人留学生として日本に来てからLECに就職した経験を持っています。今日はその経験についてお話しいただきます。まずは朴さんから自己紹介をお願いします。
朴:東京リーガルマインドの朴と申します。出身は中国の吉林省で、大学から日本に留学し、その後大学院を終えて日本で活動しています。私自身も外国人であり、留学生として日本に滞在を始めてから就職し、日本に滞在して10年になります。ちょうど今年の6月に永住権を取得しました。私の場合、日本留学から現在の就職まで、外国人ならではの様々な経験がありますので、その辺りについてお話しできればと思っています。主に外国人の雇用に関する資格取得や永住権取得など、外国人が日本で働きやすい環境を整備するためにLECに入社しました。その関係で入社3年目から今に至るまで外国人雇用に関する専門知識を学べる民間資格の立ち上げや、日本で働くために必要なビジネス基礎マナーや講座の立ち上げにも関わっています。
新井:新井伸子と申します。名古屋でキャリアコンサルタント養成講座の講師をしています。私が住んでいる愛知県はブラジル人が多く住んでいる地域で、キャリアコンサルタントとしては彼らの支援が主な活動です。公共案件でのキャリア支援なども行っています。具体的には、日本での就職を希望する方の支援や、最近では人材不足、特に運転手不足に対応するため外国人の方々を支援しています。
実務で思うこととして、外国人の就職支援は、継続的な支援がまだ不足していると感じています。ビジネスマナーや履歴書の書き方などを教えることもありますが、日本側の言語力や働く環境に関する課題もあります。今日の在留資格に関する話は何回勉強しても苦手な部分ですので、専門の方の話を聴きたいと考えていました。よろしくお願いします。
小澤:小澤浩一と申します。試験対策講座や養成講座の講師をしています「キャリアコンサルタント合格のトリセツ」という書籍も出版しております。また、安全衛生関係の研修講師としても活動しており、日本の安全衛生の課題として高齢化と外国人労働者の安全衛生への取り組みが挙げられますね。特にベトナムからの労働者とのコミュニケーションにおいて、言葉の壁が課題となっています。海外の労働者の就労に関心があり、キャリアコンサルタントの試験対策にも取り組んでいますが、外国人の論点は試験にも出てくるんですよね。本日もよろしくお願いいたします。
西脇:ありがとうございます。ちなみに、2021年の1級キャリアコンサルティング技能検定の論述試験では、中国からの留学生の就職支援に関する問題が出題されました。このような問題は2級試験でも出題されることがあります。今後も厚生労働省がこの分野に注目していることから、外国人労働者の増加が予想され、私たちの活躍の舞台はますます広がるでしょう。今日のサロンもその一環として行われています。
2.外国人の就職活動体験 日本で就職することの難しさ
西脇:朴さん自身が就職活動していく中で、大変だったことをまとめていただいています。朴さんから少しお話をしてもらった後、新井先生や常見先生、常見先生も含めてコメントをいただけたらと思います。
朴さん、日本に来て困ったところ苦労したところ、どうしようかと悩んだのはどんなところでしたか?
朴:実は大学院を修了してからLECに就職するまで、1年のブランクがありました。
大学院在学中に内定をもらいましたが専攻していた経済学と関連性のない会社ということで就労ビザが下りなかったんですね。
日本人が日本で就職する際は、どの大学で何を学んでも異なる職業を選んでも問題ありませんが、外国人に対しては基準が厳しくなります。たとえば、経済を学んだ場合は、その知識を生かせる仕事でなければビザが取得できないといった制約があります。また、内定先は新興の中小企業で、信用性が未確立であり、そのためビザが取得できなかったという背景もあります。
就職活動当時の話をしますと、そもそも日本の就職の仕組みの理解が全然足りませんでした。中国ですと卒業してから仕事を探して内定をもらったら翌月から入社します。日本の就活の仕組みを理解しておらず、12月末頃から就職活動を始めてしまいました。それでも内定をもらえたのは良かったです。
内定をもらって安心して中国へ帰国し、3月初旬に日本に戻り、内定先企業から「就労ビザ大丈夫?」と連絡があって初めて就労ビザに切り替えないといけないことに気づき、慌てて申請準備を始めました。3月は入管の繁忙期です。入管でのビザ申請にも1日かかり、朝9時ぐらいに行って夕方4時ぐらいにやっと手続きが終わりました。
学生ビザの時は3週間で承認されましたが就労ビザは時間がかかりました。入社式には出られず1ヶ月後に通知書が来て入管に呼び出され、「今回、ビザは下りません。選択肢としてはそのまま帰国するか、就活中ということなら特定活動というビザの種類があるので、そこに切り替えてからもう一度就職活動できますよ」と伝えられました。本当に絶望ですよね。入管の前ですごく泣いていた記憶があります。
自分がまず日本の就職の仕組みを全然理解せず勝手に動いたというのが1番の原因でしたが、大学や内定先企業のサポートがあればとも思います。ただ、その辺のフォローが充実していなかった時代でした。内定先の企業も初めて外国人を採用し勝手がわからないケースでした。
ビザが取れず就職できませんでしたとは家族にも言えず、中国にそのまま帰るわけにはいきませんでした。日本での就職を目指して就職活動を一からはじめました。LECに入社したのは、自分のこの痛い経験もあって外国人をサポートできる日本の制度を作りたいと思ったからです。
常見:こういうケースは本当に多いんですよね。朴さんの苦労が感じられます。
日本での就職活動は海外の方にとって特に厳しいもので、そのサポートは大学や内定先企業が組織的に行わなければならないことを感じます。外国人を初めて雇う会社だと、サポートの経験がないため本人に丸投げのことが多いのですが採用や就労ビザの申請などは会社と本人が協力して行うべきだと考えます。現在でも小規模企業では個人に費用負担を任せる場合があり、この点でまだまだ改善の余地があると感じます。
西脇:ありがとうございます。新井先生、ご感想やご自身で経験されたことはありますか?
新井:キャリア支援の分野で活動していると、言語の壁は大きな課題です。日本語の質問も多く寄せられるため、日本語講師の資格を取得しました。
このようにキャリア面と日本語面の両輪で外国人をサポートすることが重要であり、日本で自分らしく生きていくことは容易ではないと感じています。また、大学のキャリアセンターでも働いていますが、特に外国人に特化した仕組みがあるわけではありません。日本人も留学生も同じように自分で頑張ってというスタンスです。留学生を支援する仕組みを充実させる必要があるのかなと思いながら経験談を聞かせていただきました。本当に苦労されたんだなと思います。
朴:言葉の壁で、先ほど先生方がN1※の重要性に触れられていましたが、私は漢字圏ということもあり日本語学校を卒業した際に既にN1を取得していました。しかし、【源泉徴収票】の言葉も初めて聞き、内容など全く理解できず、入管からの追加書類提出の際にも苦労しました。同じような状況の人を支援したいと思ってキャリアコンサルタントの資格を取得しました。
※N1とは日本語能力試験のレベル評価基準でN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあります。いちばんやさしいレベルがN5で、いちばん難むずかしいレベルがN1です。
小澤:朴さん、お疲れ様でした。技能実習に参加している方々もいますが、現在の国の状況から考えると日本における外国人労働力の確保や受け入れの仕組みを見直さなければならないと感じます。
キャリアコンサルタントとして、制度を理解することが重要だと思います。今回サロンにご参加いただいている方の中には外国人への支援に携わるために資格を取得している方も多くいます。今後、どのように実務でサポートを行っていくかが重要ですね。
3.キャリアコンサルタントとしてできること
西脇:朴さん、お話ありがとうございました。
朴さんが苦労されたお話を聞いて、私たちキャリアコンサルタントとして何ができるのか、何をすべきなのか考えていきたいと思います。
朴:私がキャリコンとしてサポートできることは、外国人も安心して働ける環境を作ることです。そのためにまず企業側の制度の理解が大切ですね。企業側が初めて外国人を採用する場合、外国人採用に関する制度や手続きについての知識が不足していることがよくあります。人事や総務担当者がこのような事柄について専門的な知識を持ち、サポートできるようにすることが重要だと思います。
あとは先ほど新井先生もおっしゃっているように、言葉の壁は外国人が必ずぶつかる最も大きな壁です。コミュニケーションの難しさを考慮し、易しく説明したり、簡単な日本語で配慮したサポートを提供したりすることがキャリアコンサルタントとしてできることだと思います。外国人の日本語能力や理解力に配慮した就労支援や定着支援などを行うことができるでしょう。
また、日本人と外国人の相互理解が必要です。インドネシア人、ネパール人、ミャンマー人など文化も宗教を異なる外国人が増えてくると考えられます。多様性を尊重し、異文化に配慮しながら、日本人も異なる文化を尊重し、守ってほしい礼儀作法などを予め共有しておく必要があるでしょう。企業内や大学の留学生支援、人材紹介会社などで、こうしたサポートを行うことが求められると考えられます。
生活面のサポートも外国人が日本で生活する上で必要ですね。住居について、保証人のない外国人は入居が許可されないという大家さんやマンション管理会社が多いです。住居探しの際、保証人の探しや住居の手配や銀行口座開設など、外国人の生活面でのサポートがキャリアコンサルタントとしてできればと考えています。
日本の税金の制度や書類の読解など、情報収集において困る外国人も多いです。これらの領域でもサポートが必要ですね。プライベートにも関わる点なので企業が対応するのは難しいこともありますが、キャリアコンサルタントならば対応できるかもしれません。
最後に外国人だけでなく、日本人にも言えることですが、キャリアデザインのサポートも重要です。自分の就職活動が制度面で不十分であったように、自己理解・仕事理解が不足していると、望むキャリアと企業の要求とのミスマッチが起こりがちです。キャリアコンサルタントの役割は、こうしたミスマッチを解消するためにアドバイスを行うことです。
外国人にとっても、早い段階でキャリアプランを明確にすることが重要です。そのために、キャリアコンサルタントは彼らに対して適切なステップやアドバイスを提供できるはずです。このようなサポートは、外国人がより良いキャリア形成を達成するために重要であり、キャリコンサルタントにとっても最も重要な仕事の一つだと考えています。
新井:外国人のキャリアデザインのサポートについて、就職前のサポート事業はそれなりに存在します。日本での就職にはある程度のルールや履歴書の書き方などですね。ただ、外国人は労働力としてとらえられていることもあり入社後のキャリアデザインを描くことは難しいことがあります。派遣会社などでも、派遣社員に将来の計画を立てさせることが難しいといった話も聞かれますが、日本人だけでなく外国人労働者にもキャリアデザインのサポートができるといいですね。
私が考えているのは、災害時などに使用される易しい日本語を活用した、簡易的なジョブカードのようなものを作ることです。これが実現できれば、外国人のキャリア支援にも良いと思います。
西脇:確かにそうですよね。「価値観」は何かを書くようにと言われても日本人でも難しいですよね。
新井:そうそう価値観って難しいですもんね。そういったところを易しい日本語で伝えられたらいいなと思っています。
西脇:常見先生、企業側の立場も詳しく理解しておられると思いますが、朴さんの話も含めて、いかがでしょうか。
常見:朴さんの話は生の声で、現状を的確に表現していると思います。個性を生かすことが重要だと感じています。朴さんの経験が、今までどのようなことを経験してきたかを示しています。永住権の取得などの経験は、新たに入社する人にとって心強いキャリアパスになると思います。このようなモチベーションをサポートすることが企業にとっても重要です。
技能実習でも1年目から3年目までの課題は全く異なりますね。最初は分からないことや仕事を覚える必要がありますが、モチベーションが高く、取り組んでくれます。しかし、2年目や3年目になると、仕事の性質が変わってきます。終わりが見えてくると働き方が変わってきたりだとか。そういったモチベーションの方面でもキャリアコンサルタントとして関われる範囲は多岐にわたると感じました。
西脇:外国人がキャリアコンサルタントに相談できるかは難しい課題もあるかとおもいますが、企業の中で意識を変えていくことが重要ですね。
常見:そうですね。ただキャリアコンサルタントに相談することは難しい場合もあります。在留資格によっては生活支援が必要なこともあります。特定技能や技能実習などついては関連する生活面のサポートや、費用負担のルールが存在します。一方、朴さんのように学生として来日し、就労ビザを持つ方にとって、逆にサポートが不十分な場合もあります。
このような状況では、困惑することがあります。企業内でキャリアコンサルタントの資格を持つ人が、企業文化を変えることで理解を深めることができます。その結果、会社の評価制度にも影響を与えるでしょう。キャリアコンサルタントが外からサポートするだけでなく、企業内で活躍するという方法もあるのではと思います。
西脇:小澤先生、ご意見はいかがですか。
小澤:キャリアコンサルタントの役割についてよくわかりました。あとはサポートにかかるお金の面も考えています。常見先生のように行政書士としてやあるいは社労士としてなのか。あるいは企業がキャリコンにお金を出す可能性もあるのか。今後の展望を注視していきます。
西脇:外国人支援を希望する方々には、まず公共分野の情報を確認していただくことが重要ですね。公共分野には多くの機会がありますので、そこでの参加を考えることがキャリアコンサルタントとしての1つの選択肢になります。さらに、常見先生が話された基礎知識をしっかりと学ぶことも重要です。
この後、朴さんからのご案内もありますが、LECでは外国人支援を希望するキャリアコンサルタントの方々に役立つコンテンツを提供しています。これらの準備を整えて、公共分野の募集に応募する準備を整えておくことが重要です。
4.LECの取り組み
朴:LEC法人事業本部で外国人のサポートとして、いくつかの商品もリリースしましたので紹介します。
まずは「外国人雇用管理主任者」の講座です。受け入れ側の理解を深めるための内容で、外国人を雇用するにあたって最低限知っておくべき行政の知識や社会保険労務面の情報を網羅しています。この内容は6時間あるコースのうちの4時間の一部で、外国人雇用管理主任者資格の対策講座を行っています。
外国人向けに「日本で働くためのビジネス基礎講座」も実施しています。こちらは日本の文化理解やビジネスマナーを簡単な日本語をテロップ付きの動画で解説しています。この講座はちょうど9月にリリースされました。外国人にも紹介できるようにしています。
「外国人人材育成/グローバル人材育成研修」も実施しています。こちらは外国人と日本人が一緒に参加できる集合研修メニューです。外国人の受け入れ支援や職場での円滑なコミュニケーションに役立つ研修メニューを用意しています。
他にも弊社では月に1回程度、企業様向け情報発信セミナーも開催しています。外国人雇用関連の制度は頻繁に変更され、変化が多い分野です。最新情報を迅速にキャッチし、企業や専門家の皆様にお届けするためにセミナーを実施しています。企業様へは無料でご案内しておりますし、弊社会員の方々は無料でご参加いただけます。ぜひセミナーに参加し、知識を深めていただければと考えています。
また、実際に企業が外国人を活躍させている実例、好事例を中心に「企業様向け外国人雇用ジャーナル記事」を公開しています。どのような企業がどのような人材をどのように活躍させているのかをご紹介しています。
5.まとめ
西脇:お時間になりました。最後に各先生からの一言をお願いしたいと思います。まずは常見先生からお願いします。
常見:外国人の個々の事情は多様で深いです。キャリアコンサルタントとして、そのニーズに寄り添えることが重要です。身近な人に話して話が広がることが何かのきっかけになればと思います。
新井:キャリアコンサルタントとして、だけではなく、まずは地域の隣人として、困っている人に声をかけることが大切です。共に働く外国人のために何か行動できることを考えていきましょう。
小澤:本日はありがとうございました。外国人支援は、キャリアコンサルタントにとって新たな活躍の舞台、ビジネスチャンスにつながる可能性もあると思いました。
朴:ありがとうございました。外国人人材をうまく活用することは会社の寿命を延ばすためにも重要だと感じています。私たちキャリアコンサルタントにはたくさんの可能性があります。引き続き一緒に取り組んでいきましょう。
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