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【2025年最新対応】下請法改正でどう変わる?価格決定方法の見直し、支払遅延防止の強化など解説

令和7(2025)年5月16日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」が成立(令和8年1月1日から施行)しました。 協議に応じない一方的な価格決定行為や手形支払のような価格転嫁を阻害する商慣習を一掃したり、二次請け・三次請け・四次請け…と多段階の取引が行われている場合にもサプライチェーン全体として適正化(価格転嫁が適切になされること) されるよう事業計画を国が認定・支援する仕組みを導入したり、といった法改正について解説します。
- おすすめの方
- 従来は下請法の対象取引ではなかったが、法改正によって下請法や下請中小企業振興法の対象になる取引を行っている企業の調達担当者
- 多段階のサプライチェーンに組み込まれている企業の経営者や委託元との交渉責任者
- 過去に、下請法に基づく勧告や指導を受けた経験がある企業の経営者・法務担当者
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1.下請法改正の背景と目的:中小企業庁が目指す取引の適正化
近年、人手不足への対応として賃上げが広く行われています。春闘において6、7%の賃上げ(ベースアップ)が決まったり、30万円を超える初任給を出す企業が出たり、と大企業ではインフレ率を超える賃上げが実施されています。
人件費高騰を賄えるだけの利益を出していたり、潤沢な内部留保があったり、という点で積極的な賃上げと言えます。
他方、中小企業では、最低賃金の引上げへの対応であったり、転職を減らすための防衛的賃上げであったり、という点で、利益を圧迫、
さらには人件費の高騰での資金繰り悪化を伴う苦しい状況です(最近では、「人手不足倒産」という言葉まであります)。
BtoCの業界では値上げによって労務費を回収する形ですが、BtoBの場合には発注元・委託元の大企業との価格交渉によって労務費の回収を行う必要があります。
さらに、原材料費やエネルギーコストも上昇しており、今後の継続的な賃上げのためには、発注者と受注者との関係を上下ではなく対等なものへ変えること、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させることが必要です。
下請法・下請中小企業振興法は、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的として、独占禁止法を補完する法律として制定されています。
独占禁止法に違反しているか否かは個別の状況を審査して認定する必要があるために、違反認定するまでにかなりの時間がかかります。
これに対して、下請法は、一定の取引・資本金区分を対象として、当該取引の発注者(委託元)は原則として「優越的地位にあるもの」として扱って、迅速・効果的に違反認定を行います。委託元には取引内容の明確化(書面交付)
や支払期日を定める義務が課され、代金減額や不当な返品、買いたたき等の禁止行為を行った場合には、(その行為が実質的には下請事業者に不利益でなかったとしても)下請法違反とされます。
<下請法の適用対象となる取引(改正後は、下記4つに運送委託が追加される)>
- ①製造委託
- 物品を販売し、または物品の指導を請け負っている事業者(委託元)が、規格・品質・形状・デザインなどを指定して、 他の事業者(下請・受託中小事業者)に物品の製造や加工などを委託すること
- ②修理委託
- 物品の修理を請け負っている事業者(委託元)が、その修理を他の事業者(下請・受託中小事業者)に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、 その修理の一部を他の事業者(下請・受託中小事業者)に委託したりすること
- ③情報成果物作成委託
- ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者(委託元)が、 他の事業者(下請・受託中小事業者)にその作成業務を委託すること
- ④役務提供委託
- 他社から運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)を請け負った事業者(委託元)が、 請け負った役務の提供を他の事業者(下請・受託中小事業者)に委託すること
公正取引委員会は、委託事業者が下請法に違反した場合、それを取り止めて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)を求めるとともに、再発防止などの措置を実施するよう勧告・公表を行っています。
勧告に至らない事案であっても、委託事業者に対し改善を強く求める指導を行うことができます。
勧告・公表に至る件数は、年間で10件程度(令和5年度は13件)と少ないですが、指導件数は8,000件を超える膨大な数(令和5年度は8,268件)となっており、
実務上は、指導の段階で委託元が取引の適正化に向けて迅速に対応することが促されています。
なお、中小企業庁長官は、違反親事業者に対して行政指導を行うとともに、公正取引委員会に対して措置請求を行うことができます(措置請求とは、中小企業庁長官が、公正取引委員会による勧告が相当と考えられる事案について
、調査結果とともに公正取引委員会に通知し勧告を行うよう求めること)。これに加えて、
今回の法改正によって、国土交通省などの事業所管省庁が委託事業者に対して指導・助言を行う権限が追加されました(いわゆる面的執行の強化:下図参照)。
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
2.下請代金支払遅延等防止法とは?押さえておきたい基本ポイント
親事業者・下請事業者の定義と資本金要件
(改正前)従来の下請法の適用対象となるのは、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つでした。 それぞれの取引について、資本金区分に関する要件が以下のように微妙に異なっており、注意が必要です。
<資本金区分>
①製造委託・②修理委託
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
③情報成果物作成委託・④役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に係るもの
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
③情報成果物作成委託・④役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に係るもの以外
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
上記の資本金区分を充たす取引について、親事業者には(1)の定める義務が課され、(2)の禁止行為を行った場合には公正取引委員会から勧告を受けます。
- (1) 義務 ※ア・イに違反した場合には50万円以下の罰金(刑罰規定あり)
- ア 書面の交付義務
- イ 書類作成・保管義務
- ウ 下請代金の支払期日を定める義務
- エ 遅延利息の支払義務
- (2) 禁止行為
- ア 受領拒否の禁止
- イ 下請代金の支払い遅延の禁止
- ウ 下請代金の減額の禁止
- エ 返品の禁止
- オ 買いたたきの禁止
- カ 物の購入強制・役務の利用強制の禁止
- キ 報復措置の禁止
- ク 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
- ケ 割引困難な手形の交付の禁止
- コ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
- サ 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
※ 下請法は、迅速・効果的な下請事業者の救済のために、実質的な不利益があるか否かは審査せず、形式的に
ア〜サの行為に当たれば違反認定されます。ただし、コやサは「不当な」という要件が入っているため、個別事情が勘案されます。
例えば、金型を下請事業者に無償で保管させて保管に伴うメンテナンスなども行わせる行為(大前提として、金型の保管料は親事業者が負担すべき、とされます)や部品の発注を長期間行わない状況で金型の保管を無償で行わせる行為が公正取引委員会から禁止行為に当たるとして勧告を受けることがあります。
これは「コ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に当たるか否かの話なので、ある程度、実質審査が行われます。
量産期間中に下請事業者が金型を一時的に保管する費用であれば、下請事業者に負担させてもよいと評価されます。
また、対等な交渉状況の下で、見積もり段階から下請事業者が無償保管に合意している場合には、違反に当たらないと認定されます。
※ 資本金要件があるために、最初の委託元が大企業で、その後、二次請け・三次請けを経ていく場合、下請法の適用対象は限定されてしまいます。
例えば、資本金10億円のA自動車メーカーが資本金3億円超のB部品メーカーへ部品の製造・納品を発注し、その後、B部品メーカーは資本金5,000万円のC素材メーカーへ発注し、さらに、
C素材メーカーは資本金2,000万円のD町工場へ発注した、という事例では、
AB間、CD間の取引は製造委託にあたりますが、資本金要件を満たさず、下請法の適用対象にはなりません。
BC間の取引のみ「資本金3億円超の委託元が資本金3億円以下の下請事業者へ発注」として適用対象になります
(仮に、D町工場の資本金が1,000万円以下であったなら、CD間の取引も「資本金1,000万円超3億円以下の委託元が資本金1,000万円以下の下請事業者へ発注」として適用対象)。
対象取引と適用範囲の拡大
下請法の対象取引として「運送委託」が追加された、という解説を第1章ですでに行っていますが、適用範囲の拡大について詳しく見ていきましょう。
まず、今回の法改正によって、呼称が大きく変わります。下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」でしたが、これが
「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となります。つまり、
下請企業という呼び方から「受託事業者」へ変わります。その結果、下請中小企業振興法も「受託中小企業振興法」
という名称へ変わります。親事業者という呼び方も「委託事業者」へ変わります。先ほどまでは、親事業者・下請事業者という言い方にしていましたが、以下、「委託事業者(又は委託元)」・「受託(中小)事業者」と呼称します。
もっとも、法令名は下請法・下請中小企業振興法のままで解説します。
法改正によって「運送委託」が適用対象に追加されます。従来から適用対象となっていた「④サービス提供としての運送」と、法改正で新たに適用対象となった「運送委託」との違いが分かりにくいので、解説します。
「運送委託」は典型的には、家電量販店が販売した製品を顧客の自宅へ送り届ける際に、宅配業者へ発注する場合です。委託事業者(先の例では販売者)にとって、物品の移動は販売に伴う付随的なものです。
これに対して、「サービス提供としての運送」は、運送業務を請け負った会社(委託元)が、海上運送やトラック運送など一部の運送を別の運送会社(下請・受託中小事業者)に委託する場合です。
委託事業者(先の例では配送業者)にとって、物品の移動は自社で提供しているサービスの本体です。従来からも、物流の二次請け・三次請けの段階では下請法の適用対象となっていましたが、
製造元・販売元からの運送依頼そのものを「運送委託」として下請法の適用対象とすることで、規制対象を拡大したのが今回の法改正です。
ただし、資本金区分、従業員要件などが必要なので、全ての運送委託が適用対象となるわけではありません。運送委託は資本金3億円超で分ける区分に当たるので、
委託事業者の資本金が1000万円以下の小規模であったり、受託事業者の資本金が3億円を超える大規模であったりする場合には適用対象になりません。
従来から、下請法の適用を免れるために、委託事業者が(事業規模は十分に大きいのに)資本金を1,000万円以下へ減資する抜け道がありました。
この抜け道をふさぐために、資本金3億円超で分けていた適用対象については「従業員300人超」を、資本金5,000万円超で分けていた適用対象については「従業員100人超」を、それぞれ新たな適用対象として定めました。
<従業員数の基準>
①製造委託、②修理委託+③情報成果物作成委託・④役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に係るもの
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
③情報成果物作成委託・④役務提供委託のうち、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に係るもの以外
出所)「下請法・下請振興法改正法案の概要」(公正取引委員会・中小企業庁、令和7年3月)をもとにLEC作成
※ 資本金区分では下請法の適用対象になっていなかった取引が、改正後、従業員要件の新設によって適用対象になる、というケースが増えることが想定されます。そして、
適用範囲を大きく広げる改正事項であるために、様々な論点が考えられます。
例えば、従業員にはアルバイトや期間雇用が含まれるのか、期限の定めのない従業員に限られるのか、さらに正社員に限るのか(企業のHPや採用サイトでは正社員人数のみ記載されていることが多い)という論点や、
どの時点をもって人数を計るのか(取引ごとにカウントするのか、それとも4月1日時点でカウントしたら、その年度は固定するか)、取引先に対して従業員数を訊いたものの人数を教えてくれなかったり虚偽の人数が伝えられたりして適用を免れる事案にはどう対応するか等々。
これらについては、来年の施行日までに通達や政令で指針が示されるものと思われます。
3.改正法の主な変更点:価格改定・単価見直し・手形支払いの禁止など
正当な価格決定と協議義務の強化
改正前から、買いたたきや代金減額が禁止行為となっていましたが、これは、予め契約書・発注書で定めていた価格を基準としており、インフレが基調となった近年では、受託事業者の保護にとって不十分でした。
労務費の上昇、原材料・エネルギーコストの高騰によって、受託事業者が委託元に対して価格転嫁の協議を求めた場合、委託元は誠実に交渉に応じる義務があります。
そこで、改正法は、受託事業者からの協議要請に対して、委託元が交渉を拒否したり、「予算が足りない」「前例がない」などの一方的理由を述べるだけで価格転嫁の幅を不当に低くしたり、といった行為を禁止行為として新設しました。
受託事業者は、自社の人件費の増加状況や、仕入れ原料の価格変化、光熱費の高騰など具体的資料を用いて、委託元へ示すことによって価格転嫁が認められやすくなります。
ファクタリング取引への影響
手形支払いについては、令和6(2024)年11月1日以降に支払う取引について、交付から満期日までの期間が60日を超えるものは禁止行為の「割引困難な手形」に該当するおそれがあるとして行政指導の対象になる、との通達が出ていました。
今回の改正では、期間に関係なく手形支払いが一律で禁じられることになりました。なお、令和4(2022)年11月に、紙の手形を決済する手形交換所は業務終了し、現在では、電子化された手形・小切手のデータを使って決済する電子交換所へ移行されています。
この電子交換所も令和9(2027)年4月には運用を終了する予定です。そのため、本改正を契機に、業者間の取引で支払手形(約束手形)が用いられることはほぼ無くなると予想されます。
ここで、ファクタリング取引への影響についても解説します。ファクタリング(factoring)とは債権を売却することを意味します。
受託事業者は委託元に対して代金債権(売掛金債権)を有しています。資金繰りのために、すぐに現金が必要な場合、ファクタリング会社(債権の買取り・回収を専門とする会社)へ債権を売って現金化することがよく行われます。
債権譲渡は自由なので、債務者(委託元)に知らせたり、承諾をもらったりせずに、
自由に売却できます(「2者間ファクタリング」と呼ばれる)が、審査に手間と時間がかかり、手数料が高いというデメリットがあります
(ファクタリング会社が、受託事業者の経営危機・資金繰り悪化のリスクを負う形になるため:下図参照)。
そこで、多くの中小企業では、委託元の承諾を得た債権譲渡(3者間ファクタリング)を行います。
振込先をファクタリング会社へ変更して、支払期日に委託元がファクタリング会社へ代金を振り込む形となるのですが、
受託事業者が現金を得るタイミングが従前の支払期日より後となるような取引は下請法違反となります(下図の③④の順序が重要)。
3者間ファクタリングを行う際、ファクタリング会社としては、受託事業者への支払いタイミングが従前の支払期日よりも遅れないようにすることが求められます。
その他の改正事項
受託事業者の保護をより充実化させるために、遅延利息が発生する場面が追加されました。従来、支払期日から遅れた場合、委託元に対し、その下請代金を支払うよう勧告するとともに、遅延利息を支払うよう勧告することとされていますが、
委託元が代金を減額していた場合については遅延利息の定めがありませんでした。
改正法によって、代金の額を減じた場合にも、起算日から60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、遅延利息を支払わなければならない、と定められました。
また、大半の下請法違反の事例が、指導段階で是正されて勧告に至らない形で決着するのが実際です。そのため、いったんは受領拒否をしたり、支払遅延をしたり、という違反行為があったものの、
指導を受けた後に受領したり支払ったりすると、是正はされた形になって、勧告を出せるのか規定上、不明確でした。そこで、是正はされたとはいえ、禁止行為に該当する行為があった場合には再発防止策などを勧告できるよう、規定が明確化されました。
あとは細かい改正事項ですが、
専ら製品の作成のために用いられる木型や治具についても製造委託の対象物として追加されたこと、書面等の交付義務において電磁的方法による提供が(受託事業者の承諾を必要とせずに)行えるようになったこと、
の2点が改正されました。後者は委託元の事務処理が軽減されるので、委託元側の利益に資する改正です。
4.下請中小企業振興法の改正:多段階取引の支援と振興の充実
下請中小企業振興法(改正後は「受託中小企業振興法」へ名称変更)は、一定の要件を満たす取引について、委託・受託事業者間の関係を対等なものとするための「振興基準」を定める等の措置を採ることで、受託事業者の育成・振興を図る法律です。
対象となる取引の種類や、受託事業者の資本金要件は下請法に類似するものが定められていましたが、
改正によって、下請法と同様、運送委託の取引も対象に追加されました。もっとも、従業員の大小関係さえあれば委託・受託事業者間の取引が広く適用対象に入ることになったので、
取引の種類にかかわらず基本的には従業員数に着目すればよいことになります。
具体的には、製造業や建設業、運輸業などにおいて、受託事業者の従業員が300人以下(又は資本金が3億円以下)で委託元の従業員が受託側よりも(1人でも)多ければ適用対象となります(委託元の資本金が受託側より1円でも多い場合にも同様)。
サービス業においては、受託事業者の従業員が100人以下(又は資本金が5000万円以下)で委託元の従業員が受託側よりも(1人でも)多ければ適用対象となります(委託元の資本金が受託側より1円でも多い場合にも同様)。
<具体的な措置>
① 受託事業者と委託元が守るべき基準として、経済産業大臣が以下の1〜8について「振興基準」を定める。
- 下請事業者の生産性の向上及び製品・情報成果物の品質・性能又は役務の品質の改善に関する事項
- 発注書面の交付その他の方法による親事業者の発注分野の明確化及び親事業者の発注方法の改善に関する事項
- 下請事業者の施設又は設備の導入、技術の向上及び事業の共同化に関する事項
- 対価の決定の方法、納品の検査の方法その他取引条件の改善に関する事項
- 下請事業者の連携の推進に関する事項
- 下請事業者の自主的な事業の運営の推進に関する事項
- 下請取引に係る紛争の解決の促進に関する事項
- 下請取引の機会の創出の促進その他下請中小企業の振興のため必要な事項
② 上記①の「振興基準」に関して、事業所管大臣から事業者へ指導・助言を行う。例えば、価格交渉促進月間において、価格交渉・価格転嫁の交渉状況について受託事業者へヒアリング調査を行い、評価が低い(芳しくない)委託事業者に対して、各大臣から指導・助言を行う。
③ 価格交渉促進月間で調査した結果を企業リストとして社名入りで公表。
④ 受託事業者・委託元が双方で協力して作成する「振興事業計画」について、事業所管大臣が認定して金融支援措置を用意。
中小企業庁による支援策(多段階取引への対応)
サプライチェーン上で二次請け・三次請けが発生していて、3つ以上の取引段階がある場合、従来は「振興基準」や「振興事業計画」を二社間で定めて運用していました。
例えば、A自動車メーカーがC部品メーカーへ部品の製造・納品を発注し、その後、B部品メーカーはC素材メーカーへ発注し、さらに、C素材メーカーはD町工場へ発注した、という事例では、AB間、BC間、CD間それぞれで計画が作られ、交渉が行われるだけで、3次請け・4次請け…と
下層になっていくにつれて価格転嫁が困難になっていく、という問題がありました。
そこで、改正法は、サプライチェーン全体の取引適正化を図るために、「3つ以上の取引段階全体について振興事業計画を定めることができる」
としました。先の例では、D町工場の設備改良のための資金をB部品メーカーが融通したり、C素材メーカーの生産効率化をA自動車メーカーが支援したり、といった支援が期待されます。
主務大臣の権限強化
先ほど解説したように、下請中小企業振興法では、事業所管大臣による指導・助言によって価格転嫁が行われ、より対等な取引関係となることが期待されています。しかし、実際には、委託元が何度も指導・助言を受けているのに一向に価格転嫁が進まない事案もあります。
そこで、より強い権限として、大臣名義で「勧奨」を出すことができるよう改正されました。
「勧奨」とは、状況が改善されない委託元に対して、下請Gメンの調査結果や業界特有の商慣行の分析などを踏まえて、どのようにすれば価格転嫁が進むのか、要因分析をして、具体的な取組みを示して、その実施を促すことを意味します。
各業界団体(例えば、日本自動車工業会や日本建材・住宅設備産業協会、全国銀行協会、日本フードサービス協会など、2024年12月3日現在で29業種79団体)は、それぞれが自主行動計画を定めており、その計画内でも振興基準の遵守が謳われています。
主務大臣による勧奨によって、取引方針の改善、価格転嫁の実効性向上がより進むものと期待されています。
5.【まとめ】下請法・下請中小企業振興法の改正を踏まえた中小企業の適正取引と今後の課題
継続的な賃上げのためには、適正な価格転嫁が進むことが重要です。価格転嫁に関しては、
2024年1月29日付けのコラム【適切な価格転嫁とは?】の中で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(2023年11月29日)」を解説しました。
指針内では、発注者・受注者の双方が採るべき行動として、①定期的なコミュニケーション、②交渉記録の作成・保管の2つが挙げられています。
最後に、発注元の大企業の経営者や調達責任者、法務担当者に持ってほしいマインドセットを提案することで本コラムを締めます。それは「自動車王」ヘンリー・フォードの逸話です。
フォード社では、ベルトコンベア上に労働者を配置し、分業を徹底した大量生産方式を行いました。その結果、T型フォードの価格は当時の高級車の4分の1程度となりましたが、自動車が多くの国民の移動手段となったきっかけは、フォードが行った大幅な賃上げでした。
1914年当時、一般的労働者の最低賃金が1日2ドルであったところ、フォード社では、給料を1日5ドルに引き上げ、フォード社の労働者はT型フォードを購入できるようになったと言われています。
デフレから脱却してインフレ基調となった日本経済において、
個人消費を盛り上げるためには、労働者の7割以上を占める中小企業の賃上げが必須です。価格転嫁を適正に行って、中小企業でも従業員の賃上げを実現することは経済規模(パイ)そのものを大きくし、結果的に、大企業にも恩恵があるのです。
共助資本主義・公益資本主義は多様な意味を含みますが、「企業は短期的な株主利益の最大化だけでなく、従業員、取引先、顧客、地域社会といった幅広い利害関係者の利益に配慮して経営を行うべき」
との考え方が基本です。そして、そのような考え方を行政(事業所管省庁)が実現するために下請法・下請中小企業振興法は改正されたのです。
参考サイト
LEC東京リーガルマインドのおすすめ研修
下請法などコンプライアンスを理解したい方向け
価格交渉について理解を深めたい方向け
研修のラインナップ
講師派遣・オンライン法務・コンプライアンス研修
eラーニング法務・コンプライアンス研修
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監修者情報
反町 雄彦 そりまち かつひこ
株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士
1976年 | 東京都生まれ | |
---|---|---|
1998年 | 11月 | 東京大学法学部在学中に司法試験合格。 |
1999年 | 3月 | 東京大学法学部卒業。 |
4月 | 株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。 |
|
2004年 | 3月 | 司法研修所入所。 |
2005年 | 10月 | 弁護士登録(東京弁護士会所属)。 |
2006年 | 6月 | 株式会社東京リーガルマインド取締役。 |
2008年 | LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。 |
|
2009年 | 2月 | 同専務取締役。 |
2011年 | 5月 | 同取締役。 |
2014年 | 4月 | 同代表取締役社長。 |
2019年 | 4月 | LEC会計大学院学長 |
2023年 | 東京商工会議所中野支部・情報分科会長に就任 | |
2024年 | 一般社団法人ラーニングイノベーションコンソシアムの理事に就任 |
まずはお問い合わせください!
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