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【2026年施行】取適法(旧下請法)を徹底解説!企業が備えるべき実務対応まで

【2026年施行】取適法(旧下請法)を徹底解説!企業が備えるべき実務対応まで

2026(令和8)年1月1日から施行される中小受託取引適正化法(旧下請法。略称は「取適法」)は、多くの企業にとって取引条件の見直しが必要となる重要な改正です。 約50年ぶりの大きな法改正となりますので、もし違反事例として公正取引委員会から勧告などを受けると、大きく報道される可能性が高く、企業イメージが損なわれることはもちろん、売上減少、取引先の離反など、大きなリスクがあります。 この記事では、取適法の概要と、企業が実務上どのように対応すべきかを分かりやすく解説します。早めの対策が、企業の信頼性を高めるカギとなります。

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目次

取適法(旧:下請法)対応で疑問や課題を抱えていませんか?

  • 「旧下請法では対象外だったから大丈夫」と思い込んでいる
  • 何から手をつければ良いか分からない
  • 取引先からの要求(価格交渉、支払条件見直しなど)対応に困っている
  • 対応コストに見合う効果が見えにくい
  • 担当者任せで、全社的な理解が進まない

2026年1月1日から施行される中小受託取引適正化法(取適法)は、約50年ぶりの大改正です。本コラムでは、取適法対応の最初の一歩と、費用対効果の高い具体的な実践方法についてご紹介します。

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1.取適法とは?下請法改正の背景と狙い

そもそも、なぜ下請法が改正され、取適法へと名前が変わったのでしょうか。
改正の背景には、取引の透明化と中小受託事業者の保護という大きな目的があります。 既存の下請法の枠組みではカバーできなかった業種や取引形態を取り込むことで、より包括的に公正な取引環境を整備する狙いがあります。
また、法律の名称変更は、委託事業者と中小受託事業者という上下関係を連想させる構図から、委託側と受託側が互いに対等な立場で契約を結ぶ姿勢へ、意識変化を促す狙いがあります。 これによって中小受託事業者の権利を守りつつ、取引慣行の改善を促進していくことが期待されています。

法律の概要と目的

取適法の目的は、中小受託事業者と委託事業者との間で公正な競争環境を築き、不当な代金設定や支払猶予等を排除することにあります。 特に資金繰りに余裕のない中小受託事業者にとっては、支払サイト(取引の締め日から実際に代金が支払われる日までの期間のこと。)の遅延や不公平なリスク負担が経営を圧迫しやすいため、今回の改正でより強い保護が図られています。

2.主要な改正ポイント<6点>

特に重要視される改正ポイントを、6つ挙げて解説します。
内容を把握しやすいよう、用語の定義変更から支払期日の設定まで、従来の下請法にはなかった新しい視点や強化された規制を中心に紹介します。 これらを理解することで、企業は具体的な対応策を考えやすくなり、取引先とのトラブルを未然に防ぐことが可能となるでしょう。

①用語の定義変更:「委託・受託」への統一
下請法で用いられていた『親事業者・下請事業者』という区別は、取適法施行後に廃止され、新たに、『委託事業者・中小受託事業者』という呼称に統一されます。
②価格協議の義務化:一方的な代金決定の禁止
従来のように一方が代金を決めるのではなく、両者が協議の上で公正な価格を設定することが求められます。契約段階では交渉のプロセスを記録しておくことが重要であり、後々の紛争防止にもつながります。
③禁止行為の追加と不当要求への対応
委託事業者が優越的地位を濫用し、中小受託事業者側に過剰なリスク負担を押し付けるような行為が、新たに明確に禁止されました。これにより、従来グレーゾーンとされてきた不当に重い品質責任や納期調整の負担は、違反事例として取り締まりの対象となる見込みです。
④支払期日の明確化と支払手段の制限
取適法では、代金支払のタイミングや具体的な手段が更に明確化されます。支払日をあいまいにしたり、特定の支払手段を強制したりすることは、中小受託事業者の手元資金を圧迫させる可能性が高いため、厳しく規制されることになりました。
⑤対象範囲の拡大:従業員数基準・運送業の追加
これまで下請法の対象外とされてきた業種や、従業員数の観点で適用範囲から外れていた企業にも、取適法が適用されます。特に運送業は支払サイトの問題が深刻化しやすいため、新たに明確な規定が設けられたことは、注目すべき変更点といえます。
⑥違反リスクと罰則・監督体制の強化
違反行為への監督や制裁が従来以上に強化され、公正取引委員会の調査権限も拡充されています。意図的な違反だけでなく、価格協議プロセスの記録における不備のように、過失的な違反もペナルティの対象となる可能性があるため、慎重な体制整備が必要です。

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手形支払の禁止と振込手数料負担廃止の影響とは?

取適法への大きな変更点の一つに、手形支払の禁止や振込手数料負担の取扱いがあります。手形支払は資金の流れを不安定にさせる要因となり得るため、特に中小受託事業者が資金繰りに苦しむケースが見られました。 こうした背景から、取適法で規制の対象が拡大されました。

手形やファクタリングが規制される理由

手形やファクタリングは資金調達の手段として一般的でしたが、中小受託事業者側の手元資金に大きな影響を及ぼします。 不当に長期の支払サイトを設定されたり、ファクタリング※の手数料負担が過度になったりすることは、中小受託事業者の事業継続を脅かすリスクがあります。このため、取適法により、手形支払いは禁止となります。
※ファクタリングとは、企業が販売した商品やサービスの代金を購入した側が支払っていない時点で生じる売掛債権(売掛金)を、特定の業者に買い取ってもらい現金化を図るサービス、又は、売掛債権に保険をかけて回収を保証してもらうサービスです。

振込手数料の取扱いと実務上の注意点

取適法施行後は、中小受託事業者側が振込手数料を負担する慣行に対しても、より厳しい目が向けられることになります。 契約書や請求書で振込手数料の取扱いを明確に定め、曖昧さを残さないようにすることが、法令違反リスクを回避するうえで重要です。

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3.委託側・受託側それぞれが注意すべきポイント

委託側・受託側の立場によってチェックすべき内容は異なります。
取適法のもとでは、企業規模や業種を問わず、委託者と受託者の双方が、それぞれの視点で法令遵守の責任を負います。 特に価格交渉や支払サイトに関する見直しは、どちらの立場からも慎重に取り組むことで、長期的な信頼関係が築かれやすくなります。

委託側:コンプライアンス体制強化と誠実な価格交渉

委託側に当たる企業は、まず、従来は適用対象となっていなかった取引が法改正によって対象となっていないか、検証する必要があります。 資本金要件に加えて従業員数の基準が追加となりました。したがって、例えば、委託先企業の従業員数が300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)を超える企業(委託事業者)から、 300人又は100人以下の事業者(中小受託事業者)に委託をする場合には、取適法の適用対象となります。よって、受託側の企業(中小受託事業者)の従業員数が300人又は100人以下であるか、の確認が必要です(以下の図の赤字部分をご参照ください)。

① 製造委託・修理委託・特定運送委託及び一部の情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラムの作成に関する情報成果物作成委託と運送・倉庫での物品保管・情報処理に関する役務提供委託)の場合

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② 上記①「以外」の情報成果物作成委託・役務提供委託の場合

【2026年施行】取適法(旧下請法)を徹底解説!企業が備えるべき実務対応まで

受託側(中小受託事業者)との取引条件をこれまで以上に透明化し、適正な交渉のプロセスを社内でルール化する必要があります。特に、支払期日の明示や契約書面の整備が不十分だと、不当な契約条件を強要していると判断されかねないため、要注意です。

受託側:コスト転嫁と支払条件の確認

受託側(中小受託事業者)は、仕入れ原価や人件費といったコストをどの程度、価格交渉で転嫁できるかを常に検証しておく必要があります。 また、支払サイトや遅延利息の取り扱い、振込手数料の負担など、自社に不利な条件が設定されていないかを契約書や請求書で確認し、必要に応じて、委託側の企業(委託事業者)と交渉する姿勢が求められます。

4.よくある違反事例とそのペナルティ

実際にどのような行為が法令違反とみなされるのか、代表的な事例とそのペナルティを紹介します。
違反事例は、公正取引委員会のホームページで公開されています。

2025(令和7)年の代表的な事例を3つ紹介します(下請法の規定が施行中の事例)。

【金型の無償保管】
トラックやバスの製造業を営む会社が、部品の製造を委託していた下請事業者に対して自社が所有する金型を貸与していたところ、当該金型を用いて製造する発注を長期間行わないにもかかわらず、 下請事業者に対し、自己のために無償で、合計5,694個の金型を保管させるとともに、当該金型等の現状確認等の棚卸作業を1年間当たり1回行わせていた。
【代金の不当減額】
全国で家電量販店を営む企業が、店舗等で販売する家庭用電気製品等の製造や修理などを委託していた下請事業者6社に対して、リベート等の名目で、下請代金の額に一定率を乗じて得た額又は一定額を下請代金の額から差し引くことにより、 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。減額した金額は、6社合計で総額1,349万2,930円にものぼった。
【製品の受領拒否、不当なやり直し】
カーテンウォール、ビル用サッシその他の建築材料の製造・販売を営む企業が、アルミサッシ等の製品を構成する部品の製造を委託している下請事業者に対し、 ①下請事業者から部品を受領した後、当該部品に係る(品質についての)受入検査を行っていないにもかかわらず、当該部品に瑕疵があることを理由として当該部品を引き取らせ、 ②一部の下請事業者に対しては、①の部品を引き取らせるに当たって返品に係る送料を負担させた。返品した部品の下請代金相当額及び送料の額は、総額421万6,930円にのぼった。

取適法では、不当な代金の減額や納期調整の押し付けだけでなく、取引のプロセスにおける記録の作成や管理が不十分なことも違反行為になり得ると明記されています。 こうした行為が発覚した場合、是正指導や勧告のみならず、より厳しい制裁措置も考えられるため、企業にとって法令遵守の重要性が一段と増しています。

行政による監督・是正措置の強化

公正取引委員会などによる監督体制が強化されており、これまで十分にチェックされて来なかった取引記録の作成・管理に対し、厳格なチェックが実施されます。 勧告や是正指導を遵守しない場合には、更なるペナルティが科される可能性がありますので、早い段階で適切な対応策を講じることが賢明です。

5.企業が取るべき実務対応5ステップ

取適法施行後に求められる実務対応を、5つのステップに分けて整理します。
これまでの小規模な下請法改正と全く異なる大幅な変更であるため、企業は計画的かつ段階的に対応することが大切です。 あらかじめ社内で必要な課題を洗い出し、適切な順序で対策を進めていくことで、リスクを最小化しながら持続的な取引関係を築くことができます。

ステップ1:対象拡大に伴う中小受託事業者の洗い出し

取適法により適用が広がる業種(特定運送委託)や委託側・受託側企業の従業員数をまず確認し、取適法の対象となる取引をリストアップします。抜け漏れがあると後日トラブルに発展する恐れがあるため、徹底した洗い出しが必要です。

ステップ2:支払手段の現状調査と改善:早期の現金化を目指す

手形支払や長期にわたる支払サイトが常態化していないかを確認し、必要があれば早急に支払条件を見直します。中小受託事業者側の資金繰りを踏まえた合理的な支払方法を採用することで、取引先との関係をより健全に保つことができます。

ステップ3:価格協議の社内フロー整備と記録管理

価格協議を行う際の社内フロー(手続)を整備し、結果を整理した書面やメールをしっかりと保管しておきます。こうしたドキュメントは後々のトラブルの際に客観的証拠として役立ち、紛争リスクを大きく減らすことができるでしょう。

ステップ4:契約書・書面のアップデートと用語変更への対応

親事業者・下請事業者という下請法の用語を『委託事業者・中小受託事業者』に統一するだけではなく、禁止行為や支払期日に関する社内規程等の条文も、取適法の規定に合わせて改定する必要があります。 特にテンプレート化している契約書類は、下請法施行時の古い文言が残っていないかを入念にチェックすることが大切です。

ステップ5:改正法対応マニュアルの作成と社員教育

社内全体で取適法の内容を正しく理解し、実際の業務に反映させるためのマニュアルを作成します。さらに、担当社員への研修や定期的な振り返りの機会を設けることで、法令に即したコンプライアンス運営を実現しやすくなります。

補足:支払サイト短縮に伴う資金繰り対策は必要?

支払サイトが短縮されることで、委託事業者側と中小受託事業者側の双方にとって、資金のやり取りのタイミングがこれまでとは異なる可能性があります。 自社の資金繰り計画や金融機関との間での借入条件などを見直し、必要に応じて資金調達先の確保や運転資金のシミュレーションを行うと安心です。

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6.よくある質問(FAQ)

取適法に関して多くの人が疑問に思う点を、Q&A形式で解説します。
取適法の施行は大きな社会的影響を及ぼすため、企業からの質問も多岐にわたります。 特に名称変更や具体的な支払手数料の負担、施行タイミングなどについては、注意深く確認しておくことが推奨されます。

取適法はいつ施行される?
取適法は令和7(2025)年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。また、施行は令和8(2026)年1月1日からと明記されており、このタイミングに合わせて、企業は対応を進める必要があります。
『下請け』という用語は廃止されるの?
取適法施行後は『委託・受託』に統一されます。しかし、現時点では、取適法以外の法令の整備が追い付いていない状況であるため、まだ『下請け』という言葉が残るケースも考えられます。 最終的には、取適法上の新しい呼称が定着していく見込みであるため、契約書などの公式文書では、なるべく、『委託・受託』という文言を使うようにしましょう。
振込手数料はどちらが負担すべき?
取適法では、当事者の合意がないまま、振込手数料を中小受託事業者に負担させることは、委託事業者の禁止事項である「代金の減額」に当たると解釈されています。 ただし、契約書で当事者双方が合意できる場合は、別の取決めをすることも可能ですが、あいまいなままにしておくと法令違反のリスクが高まる点に注意が必要です。

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7.まとめ:取適法への早めの対応で企業の信頼を守る

早期に対応策を講じることで、ビジネスパートナーとの関係を良好に保ち、リスクを最小限に抑えることが可能です。

取適法施行により、中小受託事業者の保護や取引条件の透明化が進み、安全なビジネス環境が整備されることが期待されます。その一方で、取適法の規定に即した社内ルールの整備や教育が遅れると、厳しいペナルティの対象となる恐れもあります。 企業は早めの段階から取適法の内容を正確に理解し、適切な実務対応を進めることで、委託側(委託事業者)と受託側(中小受託事業者)がお互いに信頼し合える健全な取引関係を築くことができるでしょう。

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監修者情報

反町 雄彦 そりまち かつひこ

株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士

1976年 東京都生まれ
1998年 11月 東京大学法学部在学中に司法試験合格。
1999年 3月 東京大学法学部卒業。
4月

株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。

2004年 3月 司法研修所入所。
2005年 10月 弁護士登録(東京弁護士会所属)。
2006年 6月 株式会社東京リーガルマインド取締役。
2008年

LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。

2009年 2月 同専務取締役。
2011年 5月 同取締役。
2014年 4月 同代表取締役社長。
2019年 4月 LEC会計大学院学長
2023年 東京商工会議所中野支部・情報分科会長に就任
2024年 一般社団法人ラーニングイノベーションコンソシアムの理事に就任

反町 雄彦社長

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