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価格転嫁とは? 基礎知識と、実施する上で押さえておきたい成功のポイントを分かりやすく解説!

価格転嫁とは? 基礎知識と、実施する上で押さえておきたい成功のポイントを分かりやすく解説!

近年、原材料やエネルギー、人件費など、様々なコストが上昇しています。こうした変化の中で、企業が健全に経営を続けていくためには、コストに見合った価格設定、いわゆる「価格転嫁」がとても大切になっています。価格転嫁というと、顧客に対して「値上げをお願いすること」としてネガティブに捉えられがちですが、実態はそうではありません。適切な価格転嫁は、単にコスト増を吸収するための“防御策”ではなく、企業が持つ価値を正しく伝え、市場において正当な評価を得る“攻めの戦略”です。
今こそ、自社の価値を見つめ直し、価格にきちんと反映していくことを考えてみませんか?価格転嫁に踏み出すことは勇気が要る決断ですが、それは自社の未来を守り、強くする第一歩です。
以下では、価格転嫁を実践していくために必要な基礎知識及び実践のポイントをお伝えしていきます。

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価格転嫁とは

①価格転嫁の定義・読み方

まず、価格転嫁の定義からみていきましょう。「価格転嫁(かかくてんか)」とは、原材料などのコスト(費用)が増加した分を、自社の商品やサービスの価格に上乗せして(値上げして)反映させることを言います。つまり、かかったコストの増加分を、自分達だけで負担せず、顧客に一部ご協力いただくということを意味します。もし、仮に会社がコスト増分を上乗せせず事業を続けた場合、利益を出せなくなる可能性があり、その結果、以下のような問題が起きてしまいます。

  • 従業員の給与を上げられない
  • 品質の維持や改善ができない
  • 新しい投資やサービス向上が難しくなる

だから、「コスト増分を適正に反映した価格をきちんと支払っていただく」ことが、企業にとっても、お客様にとっても大事なことであるといえます。以下に、主な価格転嫁の事例を見ていきましょう。

②価格転嫁事例 原材料費

世界情勢や為替、供給不足、気候変動などの影響で、小麦・鉄・石油・半導体・木材などの原材料価格が上がることがあります。原材料費が高くなると、その材料を使って作る製品やサービスの製造原価が上がることになります。身近な例では、スナック菓子やパン等の小売価格の上昇、外食チェーン店の一斉値上げ、建築商材の値上げによる戸建てやマンション価格の上昇などがあります。

③価格転嫁事例 物流費

商品を「作る場所」から「届ける場所」まで移動させるためには、物流コストがかかりますが、近年このコストが上昇しています。具体的には、トラックの燃料費(ガソリン・軽油)、ドライバーの人件費、倉庫代(保管料)、荷役作業費(積み降ろし)などがあります。これらの費用は、昨今の燃料費の高騰、ドライバー不足・賃上げ影響、ドライバーの働き方改革、2024年問題によるドライバーの労働時間の規制、高速道路料金・車両維持費の増加など、実に様々な要因により従来価格を維持できず、全面的に上昇傾向にあります。あらゆる商品において物流コストの上昇は無視できないものですので、価格転嫁につながる要因となっています。

④価格転嫁事例 人件費

企業が従業員に支払う、給与・賞与・社会保険料・福利厚生費などの総コストを人件費といいます。社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員なども含まれます。 近年、少子高齢化で労働者不足の問題が深刻化している中、国や自治体が毎年、最低賃金を引き上げるなど、人件費が上昇する要因がますます大きくなっています。 また、企業は、他社よりも良い人材を確保するためにより高い給与・条件を提示する必要があり、競争は激化しています。これらが重なり、企業全体で「人を雇うコスト」が上がっており、特に建築業界、飲食業界、介護業界、物流業界ではこの傾向が顕著です。

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成功する価格転嫁 5つの基本フローとは

価格転嫁を円滑に進めていくためには、取引先や顧客との「値上げ交渉」を成功させていく必要がありますが、以下では、そのための5つの基本フローについてご案内します。

①事前準備(情報整理)

価格転嫁交渉で一番大切なのは、準備段階で「説明の根拠」を固めることです。

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準備すべき内容:
  • 原材料費、人件費、物流費などの具体的な上昇データ
  • 自社がすでに行ったコスト削減の努力
  • 値上げせざるを得ない理由と利益確保の必要性
  • いつから、いくらに変更するか(※価格表や影響シミュレーション)

★ポイント:客観的な数値やグラフがあると説得力アップ!

②タイミングと相手の見極め

価格転嫁の話は、相手の都合・事業サイクル・繁忙期などを考慮して進めるのがベストです。

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タイミングの工夫例:
  • 四半期・期初・契約更新時期に合わせる
  • 相手の価格改定や新商品投入と連動させる
  • 相手企業の担当者の裁量範囲を事前に確認しておく

③説明・交渉(=本番)

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いよいよ交渉の場では、以下のような流れが効果的です。

交渉の場での議題の例:
  • 背景説明(コスト上昇の事実と影響)
  • 自社努力の説明(具体例とともに説明)
  • 具体的な価格改定案(改定額・対象・実施日など)
  • 今後の品質・安定供給への貢献を約束する

★ポイント:相手への影響や配慮も含めた提案姿勢

例文(柔らかいトーン)
「原材料費の高騰に加え、物流費や人件費の上昇が続いておりまして、大変心苦しいのですが、○月出荷分より一部製品の価格改定をお願いせざるを得ない状況です。これまで内部努力で吸収してきましたが、今後も安定的に品質を保って供給するための判断ですので、何卒ご理解くださいますようお願い申し上げます。」

④相手の反応への対応

交渉では、相手から「理解はするがすぐには応じられない」「金額を抑えてほしい」といった反応があることも想定されます。

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反発への対応例:
  • 価格改定を段階的に行う提案
  • 条件付き値上げ(取扱量や契約期間で調整)
  • 値上げに見合う付加価値の提案(納期対応・品質保証・専用対応など)

★ポイント:交渉では方針の一貫性が大事ですので、簡単に引き下がらず、「原則」と「例外」を整理しておくとよいでしょう。

⑤文書による正式通知・同意書の取り交わし

交渉がまとまった後は、書面での通知と確認が必要です。

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用意する文書例:
  • 価格改定通知書
  • 合意内容の覚書
  • 契約条件の再確認(必要に応じて)

これはトラブル防止にもなりますし、社内的にも交渉結果を共有する上で大切です。

参考資料:価格交渉ハンドブック〜価格転嫁の実現に向けた交渉準備〜(初級編) 令和5年6月[経済産業省]

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価格転嫁でやってはいけない!5つのNG行為

価格転嫁は慎重に進めないと、取引先との信頼関係を損なったり、顧客離れを招いたりするリスクもあります。以下に、代表的な5つのNG行為をお伝えします。

  • ①値上げの理由・根拠の説明があいまい
  • ②対話の場を設けず一方的に通告だけする
  • ③相手の状況を考慮せず、自社都合で値上げのタイミングを決める
  • ④交渉時に感情的・強引な態度をとる
  • ⑤価格転嫁後のフォローや、商品・サービスの改良を怠る

上記のような行為は、取引先や顧客、ひいては社会全体からの信用を失墜させることにつながります。企業ホームページなどで価格転嫁に関する告知を行う場合も、十分に配慮した内容にしていく必要があります。
しかし、慎重にステップを踏まえて計画的に交渉を行っているにも関わらず、うまくいかないケースがあるのも現実です。以下で、そのような事例と対処法を見ていきましょう。

価格転嫁が難しいケースと対処法

価格転嫁が難しい代表的な事例と、それぞれに応じた具体的な対応策を一覧でまとめました。

難しい事例 背景・課題 内容等
大手取引先(強い交渉力) 売り手が立場的に弱く、拒否されやすい コスト上昇の根拠をデータで丁寧に説明公正取引委員会のガイドラインを活用(※)品質維持・安定供給の重要性をアピール
消費者向け商品(価格感度が高い) 少額の値上げでも売上に影響しやすい
  • 小刻みな段階的値上げ
  • 仕様変更やサービス強化とセットで提示
  • 値上げの理由を丁寧に告知(POP・HPなど)
契約で価格が固定されている 契約期間中の価格改定が難しい
  • 契約更新時にあわせて交渉
  • 次回契約時の見直しを事前に予告
  • 長期契約時は価格変動条項を盛り込む
差別化が難しい商材 汎用品で代替が容易、価格競争が激しい
  • 品質・対応・供給体制など非価格価値を強調
  • 他社比較表や実績で優位性を示す
  • 納期・ロット調整などで付加価値提案
業界全体で転嫁が進んでいない 横並び意識が強く、声を上げづらい
  • 同業者との情報共有・業界団体の活用
  • 原価上昇の具体的数値で説得力を出す
  • 自社だけでなく「業界全体」として説明
(※)参考資料:「適正な価格転嫁の実現に向けた取組」令和6年3月[公正取引委員会]

価格転嫁は、「ただ値上げをお願いする」だけでなく、相手との信頼関係を築きながら、納得してもらうプロセスが不可欠です。難しい交渉になる場合もあるかと思いますが、どのような場合でもしっかりと「事前準備」を行うこと、顧客への「丁寧な説明」と「誠実な姿勢」が重要になります。そして、企業の持続性を保つための健全な取り組みである「価格転嫁」の正当性を伝えるには、数字に基づいた説明、相手を思いやる姿勢、交渉後の信頼構築に留意して慎重に進めていくことが成功のカギとなります。

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監修者情報

志野 こと葉(しの ことは)

プロフィール コンサルティング企業や大手教育系企業にて25年にわたり商品開発・マーケティング・広報業務などに携わる。 特にWeb開発やデジタルマーケティング領域の業務を数多く経験。マネジメント職を経験後、産業カウンセラー、ハラスメント相談員等の資格を取得。 その後、公務員に転向し、企業の雇用問題や採用、人材育成、働き方等におけるさまざまな課題解決に携わる。 働く人に向けた幅広いテーマでビジネスコラムの執筆を行っている。

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