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地域金融機関(地銀・信金・信組等)が抱える経営課題とは?今、求められる『人的資本経営』と人材育成のポイント
昨今、地域の有力企業、地域金融機関を取り巻く環境はより厳しくなっています。加速する少子高齢化、都市機能のコンパクト化・過疎化地域の更なる人口減少が相まって有力企業といえども、従来のやり方では通用しなくなっています。 その中で、地域金融機関がとるべき経営戦略の一つとして注目されている「人的資本経営」と人材育成のポイントについて解説していきます。
1.地域金融機関をとりまく状況
大手新聞各社によると、上場している地方銀行に限っても赤字の割合は約6割に達している(2023年4〜9月期)との報道がありました。
地方銀行の赤字の要因としては、取引先の経営悪化による不良債権処理費用の増加や、企業倒産件数の増加に伴う融資先の経営悪化や破綻に備えた貸倒引当金などの与信費用の計上が挙げられています。
また、地域金融機関のうちの信用金庫・信用組合といった非営利金融機関でも、同様の理由による経営悪化が進み、地域によっては金融機関同士の経営統合が進んでいる例もあります。
2.地域金融機関が抱える3つの課題
地域金融機関は、地方経済の縮小化、業務範囲の拡大、事業者の減少といった複雑で多様な課題に直面しています。これらの課題は、単なる経済的な問題にとどまらず、地域社会全体の活性化にも大きな影響を及ぼします。 少子高齢化が進む中、地方の人口減少とともに、地元の金融機関の顧客基盤も縮小し、地域経済は一層厳しい状況に追い込まれています。しかし、これらの課題を乗り越えるためには、問題を正しく理解し、適切に対応することが、地域社会の未来を左右する重要な鍵となります。
2-1.地方経済の縮小化
国土交通省の調査報告書(2010年)によると、一般病院が80%以上の確率で立地するためには、通院可能な地域に27,500人以上の人口規模が必要という調査結果が出ています。 少子高齢化が進行している現代の日本において、特に地方では、人口減少によって、スーパーや病院など生活関連サービスの縮小や、保育園・学校・学童保育施設などの教育機関、公共交通機関などの行政サービスの統合・廃止が進み、住む場所としての魅力が低下している場所が多く存在します。 もっと快適に暮らせる場所を求め、若年層やファミリー層が地域外に転出してしまうため、若手が入らずに既存従業員の高齢化・マンネリ化が進行し、人手不足がより深刻化する事態に陥ります。その結果、 赤字経営に転落したり、事業継続そのものが難しくなり廃業したりする企業も増えています。このような事態が地域経済縮小・衰退の大きな要因となっており、地方金融機関の経営悪化につながっていると考えられます。
2-2.業務範囲の広がり
かつて、地域金融機関(地方銀行、信用金庫、信用組合等)の業務といえば、地域の企業や地元の人々へのきめ細やかな金融サービスや金融商品の情報提供が重要な柱となっていました。しかし、近年の環境変化から、地方金融機関に期待される役割が変化しています。単に融資や資産形成の支援だけでなく、 広く経営課題の解決を支援することが求められてきている点があります。特に人材確保、取引先の拡大、広告宣伝等のマーケティング活動などに課題感を強く感じている地方企業が多く、 地域金融機関にはこうした期待に応え、非金融分野を含めたコンサルティングを行う機能が求められています。職員は金融の専門家であることに加え、コンサルタントとしてのスキルや経験が重要になってきています。
2-3.地方の事業者減少
超売り手市場と言われる昨今の新卒採用においても、金融業界は学生の人気が高く、比較的就職難易度が高い業界です。ただし、地域金融機関は特に大都市圏においてメガバンク等に押され、新卒採用は年々厳しくなっているのが現状です。 また、信用金庫、信用組合においては、より小さな組織となるため、福利厚生や待遇面で大手銀行と比較すると、どうしても見劣りする場合が多いことも採用難の要因になっています。 これは若手だけでなく、30代・40代の働き盛り層も同様で、特に待遇面でメガバンクとの格差が大きいと言われています。 ベテラン高齢職員の大量退職が続く中、次世代を担う若手の確保が難しい中、現場での人材不足感が高まっています。
3.2021年銀行法改正で変わったこととは
2021年に施行された改正銀行法では、業務範囲規制の見直しが明示されています。 もともと銀行業務とは、経営の健全性を保つために「固有業務(預金又は定期積金等の受入れ、資金の貸付け又は手形の割引、為替取引)」「付随業務」「他業証券業務」「法定他業」に限定されており、これ以外の業務に参入することは制限されていました。 しかしながら、あらゆる経済活動において、デジタル化が進み、資金調達手法が多様化していること、さらには、地方創生・地産地消・再生可能エネルギー活用など、持続可能な社会の実現に向けた動きが不可避となっており、特に地方の金融機関においては地域活性の重要な役割を担っています。 金融機関の役割拡充は、地域の金融機関であればあるほどより強く求められていると言えます。
銀行本体が認められた参入業務 ※信用組合、信用金庫を含む |
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2-2でお伝えしましたが、非金融分野におけるコンサルティング業務へのニーズが高まる中、法改正の後押しがあり参入可能な業務が増えたことは、地方金融機関にとって、大きなビジネスチャンス になっていると考えられます。
4.地域金融機関がとるべき戦略とは
近年、異業種の金融業界への参入が増加しており、特にIT企業がフィンテック分野で台頭し、ネットバンクのすそ野が広がってきています。ネットバンクは低コストで、オンラインなど遠隔地でも利用しやすい環境を武器に成長してきています。
地方金融機関においては、強みである地域とのネットワークを活用し、積み上げてきた情報収集力を生かし、地域に合った独自のソリューションを提案できるようにすることが今後ますます重要になっていきます。
例えば、人手不足で困っている地元の部品メーカーに、製造ラインの一部を自動化するシステムの導入を提案したり、地元でおいしいと評判の和菓子の商品を専用のECサイトで紹介したりするなど、さまざまな先例がすでに広がり、成功例を積み上げている地方金融機関も増えてきています。
このような新規ビジネスを立ち上げて軌道にのせていくには、これまでと同じ組織、同じメンバーでは不十分です。新しいビジネス戦略を進めるには、そのための専門組織や専門人材が必要となってきます。もっとも、2-3で先述したとおり、
専門的な人材を新たに確保するのはそう簡単なことではありません。であると定義されています。2023年に実施された経済産業省 人的資本経営コンソーシアム事例集の中で、以下のように説明されています。
5.人的資本経営とは
人手不足・採用難を克服する手段として注目されているのが、人的資本経営という経営手法です。経済産業省の発信によると、 人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方 であると定義されています。2023年に実施された経済産業省 人的資本経営コンソーシアム事例集の中で、以下のように説明されています。
人材は使えばなくなる「資源」ではなく、適切な環境を整備・提供するかどうかで、その価値が伸び縮みする「資本」である。 だからこそ「人的資本」への投資、そしてその効果を最大化することが重要だ。これは、人事部門に閉じる話ではなく、企業価値創造のため、「経営」というもっと大きな視点で取り組まれるべきものである。
https://hcm-consortium.go.jp/pdf/topic/2023_soukai03_GoodPractice_v3.pdf
人手不足・採用難の時代、新しい人材を求めることに注力しすぎず、それよりも、今いる従業員を大切に育成し、新しいスキルや知識を身に着けてもらうことで、 個々の成長を促し、その結果、企業全体の価値向上や成長につながることが期待できます。
6.人材育成を進めるためのポイント
では具体的に、地方金融機関で必要とされる人材をどのように育成していくのか、そのポイントについてみていきましょう。
①従業員へのマインドセット
改革のためには、日々慣れ親しんだ業務手順や、顧客との対話スタイル、物事のとらえ方や考え方を抜本から変えていく必要があります。そのために まず経営陣が考える問題式を従業員にも共有してもらい、変革に向けた意識を醸成することが必要になります。
②育成プラン立案
①のマインドセットと並行して、具体的な人材育成プランを立案していきます。ゴールを決め、それに合わせたスケジュール、予算、そしてどのような育成メニューを提供するかを検討 していきます。解決すべき課題にフォーカスし重要度が高い順に選定していきます。以下に育成ポイントとして重要な観点をお伝えします。
【マーケティング】
新規ビジネスに積極的にチャレンジできるよう発想力、アイデアの出し方、柔軟性、先見などマーケティングスキルを総合的に備えていく ことで、これまでのビジネス経験の上に新たな力が追加されます。顧客とのコミュニケーションスキルを上げる技や傾聴力を鍛えることもおすすめです。
【国家資格等への挑戦】
宅建やFP(ファイナンシャルプランナー)、ITパスポートや基本情報技術者試験などのIT関連の資格を保有することにより業務の幅がぐんと広がります。 さらに、地域特性や顧客対応用に必要な資格を洗い出し、希望する従業員に取得してもらうなどして資格取得の機会を増やしていきましょう。例えば、お年寄りが多い地域で福祉介護施設等と取引が多い金融機関であれば、福祉関連の資格を取得することも業務に役立ちます。
【IT知識】
すべての従業員が一定以上のIT知識・スキルを保有していることが経営上重要な
要素となりますので、基礎から応用までレベルに合わせて学べる機会を作っていきましょう。IT分野に特に適性のある従業員には、さらに高度な専門教育を受けてもらうような研修の用意もしておくとよいでしょう。
人材育成プランを始動させる場合、従業員は、現業を行いながら平行して育成研修などへ参加していくことになるため、業務プラスアルファの負担感が増えることが予想され、育成計画への反発が起きることも少なくありません。
そのための施策として、リモートワークの推進やフレックス制度の拡充、有給休暇取得推進など、ワークライフバランスをよりよくする施策も同時に進行させることが重要になります。
③企画チェック・計画の調整
企画が整ったところで現場リーダークラスの従業員へのヒアリングをおこなって内容を調整 していきます。納得感を高めるためにも複数のリーダーたちに意見を聞き、現場の課題感とミスマッチな部分があるかどうか、取り組みの成果が期待できそうかどうかなどをチェックしていきます。
④実行
育成計画の調整が終了したら、組織内で開示し、実行フェーズに移行していきます。
ここからは、各個人に割り当てられた育成プランのメニューをスケジュール通りこなせているか、何か問題が起こっていないか等、円滑な進行をサポートしていきます。
ここで重要なのは、部門やグループにおけるリーダー(中間管理職)の推進力です。組織と経営との結束点となるリーダーには、旗振り役として従業員のモチベーションを維持・向上させ、全員がやり遂げるところまで目を配る必要があります。
この役目を担う人材は、目的遂行力が高い・課員との対話に積極的・改革への前向きなマインドセット等の適性が必要ですので、あらかじめ適任者を選定する必要があるといえるでしょう。
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監修者情報
反町 雄彦 そりまち かつひこ
株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士
1976年 | 東京都生まれ | |
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1998年 | 11月 | 東京大学法学部在学中に司法試験合格。 |
1999年 | 3月 | 東京大学法学部卒業。 |
4月 | 株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。 |
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2004年 | 3月 | 司法研修所入所。 |
2005年 | 10月 | 弁護士登録(東京弁護士会所属)。 |
2006年 | 6月 | 株式会社東京リーガルマインド取締役。 |
2008年 | LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。 |
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2009年 | 2月 | 同専務取締役。 |
2011年 | 5月 | 同取締役。 |
2014年 | 4月 | 同代表取締役社長。 |
2019年 | 4月 | LEC会計大学院学長 |