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【事例あり】カスタマー・ハラスメント(カスハラ)への正しい対処法と今後、企業に求められる対応策とは

【事例あり】カスタマー・ハラスメント(カスハラ)への正しい対処法と今後、企業に求められる対応策とは

近年、顧客からの不当な言動――いわゆるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)によるトラブルが深刻化しています。クレームの域を超えた執拗な要求や暴言、威圧的な態度は、従業員の心身に大きな負担を与えるだけでなく、 企業の業務運営にも影響を及ぼすリスクをはらんでいます。こうした背景を受け、行政の動きも加速しています。東京都では、「東京都迷惑防止条例」(2022年4月)を改正、厚生労働省も、2024年にカスハラに該当する行為を規制の対象とし、 企業に対してカスハラ対策を求める指針を出しています。本コラムでは、カスハラの事例を踏まえながら、企業および従業員が日常的に取り組むべき予防策や組織的対応の在り方について述べていきます。ハラスメントに強い組織文化を育て、 従業員が安心して働ける環境構築の一助になれば幸いです。

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本コラムでは、こうした課題に向き合うヒントとして、カスタマー・ハラスメント対策や、実際の研修導入に活かせる具体的な展開方法をご紹介します。

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1.カスタマー・ハラスメント(カスハラ)とは

カスハラとは、顧客や取引先など、サービスの受け手が提供側の従業員に対して、社会通念や業務上の合理性を超えた不当な言動や要求を行うことです。
厚生労働省が2022年に発行した「カスタマー・ハラスメント対策 企業マニュアル」(※注1)では、カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と位置付け、企業に対して対応体制の整備や従業員の保護を求めています。 さらに、2024年12月の発信では、「カスハラ」の定義として、以下の3つの要素を全て満たすものとし、企業にカスハラ対策の義務付けの方針を定めました。

  • ⑴顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと
  • ⑵社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
  • ⑶労働者の就業環境が害されること

また、企業がこの問題に取り組む際には、カスハラを「個人と個人のトラブル」としてではなく、「組織が管理すべき労働環境上の課題」として認識することが不可欠となります。

※注1:厚生労働省「カスタマー・ハラスメント対策 企業マニュアル」2022年4月

カスハラが増えている理由

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和6年3月)※注2 によると、近年パワハラは増加傾向にあります。その背景にある理由として、まず顧客の「サービスに対する過剰な期待感」があるといえます。 ネット通販やオンデマンドサービスの普及により、消費者が即時性・柔軟性・完璧さを当然とする風潮が強まり、少しの不備や遅延に対しても強い不満を抱くケースが増えています。
また、SNSやレビューサイトなどの「発信力の一般化」により、顧客は、企業に対して自由に意見を発信できる立場になりました。評価経済のもとでは、企業が評判を恐れるあまり、 顧客の過剰要求に対応せざるを得ない場面が生まれやすくなり、この構造が、カスハラを誘発・助長しているとも考えられます。

※注2:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和6年3月)

クレームとカスハラの違い

次に、クレームとカスハラの違いについても押さえておきましょう。

まずクレームは、商品やサービスに対して「こうしてほしい」「ここが不満だった」という正当な意見や要望です。多少厳しい口調であっても、それがサービス改善や誠実な対応を求めるものであれば、 企業としても真摯に耳を傾けるべき大切なフィードバックです。

一方、カスハラに該当するケースは、その「言い方」や「行動」が常識や節度を超えたときです。たとえば、何度も繰り返し電話をかけて怒鳴り続ける、長時間従業員を拘束する、土下座や過剰な補償を要求する、 人格を否定するような暴言を浴びせる――こういった行為は、サービス改善とは関係がなく、従業員の心身を傷つけるハラスメントになります。

クレームとカスハラの“境目”は、簡単に言えば、「相手の立場や人権を無視していないかどうか」といえるのではないでしょうか。たとえ不満を伝える内容であっても、それが業務として対応可能な範囲で、 冷静にやりとりができるものであればクレームといえます。一方、従業員が、「怖い」「辛い」「耐えられない」と感じるほどの圧力や執拗さがある場合は、カスハラに近付いています。

カスハラによるダメージは深刻化している

カスハラが増えることで、対応に追われる従業員のメンタルヘルスにも悪影響が及んでいます。先述の厚生労働省の資料によると、カスハラを受けた従業員の90%は、何らかのマイナスの影響を受けており、 中には不眠症状(13.6%)を訴えたり、メンタル不調の治療のために通院・服薬(4.6%)などの深刻な対応を必要とする場合も出ています。
企業側には、カスハラの対応を従業員任せにせず、問題を共有し、「ここから先は対応しなくてよい」 「これは本部にエスカレーションしてよい」などの明確な判断基準を持たせることが重要です。現場の一人ひとりが、理不尽な要求に疲弊せずに働けるよう、対応方針をしっかり整備することが企業に求められています。

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2.【事例集】こんなときどうすれば? カスハラ事例と対応策

ここからは、筆者がこれまでコンサルティングや調査等に関わった職場で実際に目の当たりにしたカスハラの事例と、その時どのように対処したかについて述べていきます。

コールセンターに毎日クレーム電話をかけてくる

衣料ブランドのコールセンターに、毎日同じ時間に決まって電話をかけてくる高齢者のケース。商品の色が気に食わない、生地が良くない等一方的にまくしたてるが、返金や返品交換の要求はなく意見を聞いてほしいという主訴でした。 30分ほど我慢して話を聞いていた女性オペレーターを気に入り、その後は、オペレーターを指名して同じ話を繰り返すようになりました。ほぼ毎日入電があり、徐々に話も長くなり、暴言も出るようになりました。

対処法 ⇒ 男性の上長が対応し、連日に及ぶ長時間の電話は、オペレーターの業務時間を拘束しており、業務妨害行為であることを告げたところ電話は止みました。

【カスハラ事例】コールセンターに毎日クレーム電話をかけてくる

アポなし来社、長時間居座り続ける訪問者

動物に関する専門書を扱う出版社。雑居ビルの一角の編集部に、ある日突然アポなしで研究家を名乗る男性が入って来ました。「編集長を出せ!」と威圧的な態度で声を上げましたが、編集長は不在、代わりに対応した営業部員と編集部員(2人とも女性)を相手に、 自身の主張(特定の動物に関する表記に誤りがあるとするもの)を語り、4時間以上も居座りました。記事は複数の動物学者の監修によるもので、適切なファクトチェックを実施していることを伝えましたが、終始威圧的な言動で自身の主張の正当性を繰り返し、 訂正文の掲載を要求して来ました。

対処法 ⇒ 当日は、相手の言い分に反論せず、傾聴する形で対応しました。後日、編集長から出版社としての見解を文書化し、配達記録郵便で送付しましたが、返答はなかったため、訂正文の掲載は行っていません。この出版社のビルの入口は、受付も無く、 セキュリティ対策もなされておらず誰でも入れる状態であったため、事案発生後は、来客が自由に入室できないようセキュリティを強化しました。

【カスハラ事例】アポなし来社、長時間居座り続ける訪問者

態度豹変、突然大声で暴言を吐く客

対面型で転職支援やキャリアカウンセリング・サービスを行う企業での事例です。希望する職種に応募してもうまくいかず落ち込む利用者に対して、女性のベテランカウンセラーが優しく対応していました。 初めのうちは丁寧な口調で返答していましたが、カウンセラーが、別の職種にもチャレンジしてはどうか?と促したとき、突然利用者がキレて、「お前らのせいで不採用になったんだ!」と叫び、書類等を破ってばら撒きました。 その後も、机をげんこつで激しく叩き大きな音を出したりしたため、カウンセラーは身の危険を感じ、個室を出て助けを求めました。

対処法 ⇒ 複数人で対応しました。これ以上暴力的な行為が出る場合は、速やかに警察を呼ぶことや、今後はサービスを提供できないことを告知し、退室してもらいました。
キャリアカウンセリング面談は個室で行っていましたが、事案発生後は、簡易的なパーテーションで区切ったブースで相談を行い、完全な密室にならないようレイアウトを変更しました。

【カスハラ事例】態度豹変、突然大声で暴言を吐く客

対応した店員の名前をSNSにあげる

キャラクターグッズなどを扱う小売店で発生した事案です。店長がたまたま目にしたSNSで、「○○○ショップに嘘つき店員がいる。名前は●●」と、アルバイト店員の苗字を実名で表記し、批判するコメントを見つけました。 品切れしている人気グッズの再入荷日を正確にお客様に伝えることができなかった点を批判している内容で、アルバイト店員に確認すると、記載内容はほぼ事実でした。アルバイト店員は体調を崩し、退職してしまいました。

対応策 ⇒ 小売店の本部から、SNSの投稿主に、店員の不慣れにより不快な思いをさせてしまったことへのおわびを伝えたうえで、投稿主に、投稿内の個人名を削除するよう依頼しました(店名と苗字で個人が特定されるのを防ぐため)。 もし応じない場合は、SNS運営会社に削除要請を出すことも検討しましたが、ほどなく投稿主によってコメントは削除されました。その後、小売店では、店員の名札の着用を廃止しました。

【カスハラ事例】対応した店員の名前をSNSにあげる

実際にこんなカスハラが起きた現場では、従業員のストレスやモチベーションの低下、最悪の場合は退職につながることも。マニュアルだけでは対応しきれない今、現場で本当に使える「対応力」を育てる研修が求められています。

集合研修「カスタマーハラスメント研修(外国人向け英語対応可能)」では、現場の課題に合わせた柔軟なカスタマイズが可能。オンライン実施にも対応しています。

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3.今、企業に求められるカスハラ対策とは

企業がカスハラ対策としてすべきことについて、述べていきます。
上述したカスハラ事例にもありますが、理不尽な顧客対応によりストレスや精神的ダメージを受ける従業員が増えており、そのままにしておくと、 メンタル不調や離職、職場の士気低下に直結してしまいます。ですので、まずカスハラが発生してしまった場合、企業側が従業員の心身の健康を守るしくみを提供し、従業員の心身の安全に十分配慮することが不可欠といえます。 カスハラを放置することは、労働安全衛生法上の「安全配慮義務違反」に該当する可能性があります。実際に、カスハラを受けた従業員が労災認定を受ける事例も出ており、企業には法的リスクへの備えも求められます。

行政によるカスハラ対策の強化も進んでいます。東京都では2022年に迷惑防止条例を改正し、悪質な言動を規制対象に追加しました。国も、企業に方針整備や研修を求める指針を公表しており、今後の法制化に備えた準備が不可欠 になってきています。

カスハラは、店舗や医療等の現場で起こることが多いですが、現場任せの対応には限界があります。カスハラへの対処を一人ひとりの判断に委ねてしまうと、対応にばらつきが生じるだけでなく、従業員の負担も増大します。 組織としての共通ルールや支援体制の構築が、長期的な信頼と持続可能な職場づくりにつながるといえるでしょう。

4.カスハラはなくならない?予防と対処法を正しく知ろう

では、国や行政、企業が啓蒙活動を行えば、カスハラはなくなるのでしょうか?
残念ながら、答えはNOと言わざるを得ません。その背景には、いくつかの根深い要因が存在します。1つには、日本社会に長く根付く「お客様は神様」という価値観の影響で、サービス提供者は常に謙虚であるべきとされ、顧客側の理不尽な要求であっても、我慢や謝罪で応じるべきだという空気が、今なお多くの職場に残っています。

第2に、社会全体に広がるストレスの増大も無視できません。経済的不安、情報過多、孤立、コロナ禍などが重なり、多くの人が日常的にフラストレーションを抱えており、そのはけ口が、相手(お客様)に反撃しにくい立場にある店員やサービス提供者に向けられやすくなっているといえるでしょう。

さらに加害者側の性格や心理的傾向も関係しています。他者に強く当たる「他罰的性格傾向」や、感情のコントロールが難しい精神疾患などを抱える人は一定数存在しますので、これらは制度や教育では完全に防ぎ切れず、今後も発生する可能性があるものとして理解していくしかありません。
このように、文化・社会・個人の問題が重なり合っている以上、カスハラを完全に無くすことは容易ではありません。しかし、この現実を踏まえたうえで、カスハラを予防する方法や、カスハラ被害に遭ったときの具体的な対処法等を正しく知ることが重要です。企業には、正しい知識・スキルを、適切な研修を通して、全ての従業員に繰り返し伝達していくことが求められます。

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監修者情報

志野 こと葉(しの ことは)

プロフィール コンサルティング企業や大手教育系企業にて25年にわたり商品開発・マーケティング・広報業務などに携わる。 特にWeb開発やデジタルマーケティング領域の業務を数多く経験。マネジメント職を経験後、産業カウンセラー、ハラスメント相談員等の資格を取得。 その後、公務員に転向し、企業の雇用問題や採用、人材育成、働き方等におけるさまざまな課題解決に携わる。 働く人に向けた幅広いテーマでビジネスコラムの執筆を行っている。

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