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グローバルビジネスリスクとリスクマネジメントの戦略
企業が急速に変化しているグローバル市場で成功するためには、グローバルリスクについて理解するとともに、リスクに対処するための戦略が必要となります。本コラムでは、グローバルリスクの主な種類をご説明をするとともに、リスク管理のポイントについてご紹介をしていきます。
- おすすめの方
- グローバル展開する企業の経営陣や次世代リーダー層の方
- 企業内でリスク評価と対策を担当するリスクマネジメント担当者の方
- グローバルな市場でビジネスを展開する担当者の方
1.グローバルビジネスリスクはなに?
「グローバルビジネスリスク」というと少し難しそうですが、要は国際ビジネスをしているときに遭遇する様々なリスクのことを指します。ここで言うリスクとは、世界の異なる国や地域でビジネスを展開する際に出くわす、政治的、経済的、文化的、法的な環境の違いから生じる予測不可能な状況や潜在的な問題・課題のことです。これらは、会社の収益や運営に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、ある国での突然の政治変動が外国企業に対する規制を強化し、その国での事業運営が困難になることがあります。また、通貨の急激な変動により、輸出入価格が予期せぬ形で変化し、企業の収益に大きな影響を与えることもあります。このように、グローバルビジネスリスクは多岐にわたり、企業がグローバル市場で成功するためには、これらのリスクを理解し、適切に対処する必要がありますね。次の章以降で詳しく見ていきましょう。
2.グローバルビジネスリスクの主要な種類は?
グローバルビジネスリスクには、政治リスク、経済リスク、法規制リスク、グローバルマーケットに関するリスクなどがあります。
2-1 政治リスクってどんなもの?
政治リスクとは、政府の方針が変わったり、政治が不安定になったり、紛争や戦争などによって生じる地政学リスクのことです。これらは企業にとって、投資の安全性や市場アクセス、さらには従業員の安全にまで影響を及ぼす可能性があります。例えば、ある国で急に外国企業に対する規制が厳しくなったり、政治的な緊張が高まったりすると、ビジネスにも大きな影響が出ます。2010年代に中国での政治的リスクが高まったことを受け、日本企業の一部が工場の立地をベトナムに移すことで、政治リスクを避ける対策を取ったというグローバル戦略は有名な事例です。
2-2. 経済リスクとは?
経済リスクは、通貨の価値が大きく変動したり、インフレが起きたり、経済全体が不景気になることによって生じるリスクです。また、サプライチェーンに関するリスクも、経済的なリスクの一部です。これらは、企業の利益やコスト構造、さらには市場の需要に直接的な影響を与えることがあります。例えば、急激な為替レートの変動は、輸出入ビジネスに大きな影響を与えることがありますよね。1997年に発生したアジア通貨危機は、経済リスクの典型的な例です。この危機は、タイのバーツが急激に切り下げられたことから始まり、他のアジア諸国の通貨にも波及しました。
2-3. 法規制によるリスクというのは?
法規制によるリスクとは、法律や規制が変わったり、法制度が不透明だったり、法的な紛争が起きたりすることによるリスクです。これにより、企業の日々の運営や将来の拡大計画が大きく制約されることがあります。突然の法改正でビジネスモデルが成り立たなくなることもあり得ます。2018年に施行されたGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)は、個人データの保護とプライバシーに関する厳格な規制を欧州連合(EU)域内で導入しました。企業は個人データの取り扱いに関してより責任を持たなければならなくなり、データプライバシーに対する重要性が高まりました。また、企業は法的コンプライアンスを確保するためにプライバシーに関するポリシーや手続きを改善し、データセキュリティに対する投資を増加させる必要が出ました。
2-4. グローバルマーケットに関するリスクとは?
グローバルマーケットに関するリスクもあります。グローバルマーケットを理解するって、ただ外国で商品を売るということではありません。その国の市場の特性を把握し、消費者の行動や競争状況を理解することが大切です。例えば、ある国ではある商品が大ヒットするかもしれませんが、別の国では全く受け入れられないこともあります。また、各国の消費者の嗜好やニーズが異なるため、製品やマーケティング戦略がその市場に適応していない場合、失敗するリスクがあります。文化的な違いや市場の嗜好を理解することが重要です。
3. グローバルリスクマネジメントとは何ですか?
グローバルリスクマネジメントとは、グローバルな事業活動において遭遇する様々なリスクを特定、評価、監視、および軽減するプロセスのことです。経営戦略の一環で、守りの側面とも言われます。このリスクマネジメントは、企業が世界各地での事業を成功させ、持続可能な成長を達成するために不可欠なことです。
3-1. 政治リスクに対してのマネジメントは
政治リスクは、政府の変更、政策の変動、政治的不安定性、紛争などによって生じるリスクです。このリスクを管理するには、政治的状況の継続的なモニタリング、リスク分散戦略(例えば、複数の国に事業拠点を持つ)、政治リスク保険の利用などがあります。
自動車メーカーのD社は、ある新興国に進出した際、政治的な不安定要因に直面しました。国内の政府が予想外の政策変更を行い、外国企業に不利な状況を作り出しました。これに対処するため、D社は政府との対話を強化し、リスクヘッジのための法的措置を講じました。さらに、地元のパートナーシップを築くことで、政治リスクを軽減しました。
3-2. 経済リスクに対してのマネジメントは
経済リスクは、経済状況の変化、通貨価値の変動、インフレーション、経済政策、サブライチェーンの変更などによって生じるリスクです。サプライチェーンに関するリスクは経済的なリスクの一部です。このリスクに対処するためには、経済動向の分析、為替リスクヘッジ戦略、多様な市場への展開などが重要です。
アパレルメーカーのY社は、通貨の価値の急激な変動により、国際的な収益に影響を受けました。この問題に対処するため、企業Yは通貨ヘッジ戦略を採用し、為替リスクを最小限に抑えました。さらに、国際的な生産拠点の分散化を図り、経済的なリスクを分散しました。
3-3. 法規制リスクに対してのマネジメントは
法規制リスクは、法律や規制の変更によってビジネスに影響が出るリスクです。各国の法律や規制の最新情報を把握し、コンプライアンス体制を確立することが重要です。また、法律変更に迅速に対応するための戦略も必要です。
グローバルテクノロジーカンパニーのG社は、異なる国々でのデータプライバシー法規制の変更に直面しました。これに対処するため、G社は法的専門家と連携し、各国の法的要件に適合するための戦略を策定しました。また、データセキュリティの強化と顧客情報の保護に投資し、法規制リスクを軽減しました。
3-4. グローバルマーケットに関するリスクマネジメントとは
グローバルマーケットに関するリスクは、文化的違い、市場の特性の理解不足、競争状況の変化などから生じるリスクです。文化的感度を持ち、市場調査に基づく戦略策定、適応性の高いビジネスモデルの開発が求められます。
国際的な食品メーカーA社は、異なる国々での消費者の嗜好の多様性に対処しました。A社は市場リサーチを活用し、各国の文化的な違いに合わせた製品ラインを開発しました。また、地元のパートナーシップを通じて、地域市場に適した商品を提供し、市場のリスクを軽減しました。
4. 経営リスクに対する戦略策定は?
経営リスクに対する戦略を策定することは、企業の存続にとって非常に重要です。これには、市場分析、リスク評価、そして対応策の準備が含まれます。たとえば、新しい市場に進出する際には、その市場のリスクを事前に分析し、万が一の場合に備えて対策を立てておくことが大切です。経営リスクに対する戦略策定は、企業の長期的な成功に向けて不可欠なプロセスです。
4-1. 市場分析
まず、企業は市場を徹底的に分析します。これは、市場のトレンド、サプライチェーン、競合他社の動向、および消費者の需要と行動パターンを理解することを意味します。この段階では、市場の特性や潜在的なリスク要因を把握します。
4-2. リスク評価
次に、特定のリスクを評価します。例えば、新市場への進出に際しては、政治的、経済的、法的なリスクを考慮することが重要です。リスクの深刻度や影響を評価し、優先順位付けを行います。
4-3. 対応策の準備
リスクが特定されたら、それに対処するための具体的な戦略やアクションプランを策定します。これには、リスクヘッジ戦略の設計、リスク軽減のためのプロトコルの確立、および必要なリソースの確保が含まれます。
4-4. シナリオプランニング
シナリオプランニングは、未来の不確実性に備える重要な要素です。異なるシナリオに対する対策を検討し、実行可能な計画を立てます。これにより、突発的なリスクにも迅速に対応できます。
4-5. モニタリングと調整
一度戦略が実施されると、定期的にモニタリングと調整が必要です。市場や環境の変化に対応し、戦略を最適化し続けることが、リスク管理の一環です。
経営リスクに対する戦略策定は、企業の安定性と成長に向けた重要なプロセスであり、計画的なアプローチと柔軟性を備えることが成功の鍵です。
5. 具体的なリスク対策について
リスク対策は、企業がビジネス環境の変化や予測不可能な要因に対処し、安定性を確保するために不可欠なプロセスです。以下では、政治リスクと経済リスクへの対策例を見てみましょう。
5-1. 政治リスクへの具体的な対策とは
グローバル政治リスクに対処するための対応策は、企業が国際的な状況や政治的な変化に適切に対応するために重要です。
- ・情報収集と分析
- 政治リスクを理解するために、世界中の政治的な出来事を監視し、定期的な情報収集と分析を行います。これにより、潜在的なリスク要因を事前に把握できます。
- ・リスク評価とシナリオプランニング
- 状況が悪化した場合に備え、さまざまなリスクシナリオを評価し、対応策を計画します。異なる状況に対応するための柔軟性を持つことが大切です。
- ・政府との協力
- グローバルなビジネスを展開する企業は、政府と連携し、政治的なリスクに対処するためのサポートを受けることがあります。政府との協力を強化することで、安定性を確保できます。
- ・地域のカスタマイズ
- 各国や地域において、政治的なリスクは異なります。したがって、地域ごとにビジネス戦略をカスタマイズし、リスクに対応します。地元の文化や法規制に適合することが不可欠です。
- ・ダイバーシフィケーション
- リスクを分散するために、異なる国や市場に展開します。特定の国や地域に依存しない多様な収益源を持つことがリスクを軽減する手段となります。
- ・コンプライアンスと法的対応
- 地域ごとの法規制に対するコンプライアンスを確保し、法的な問題に対処します。法的トラブルを最小限に抑えることが重要です。
- ・危機管理プラン
- 緊急事態に備え、危機管理プランを策定します。社内での連絡体制や外部の支援を確保し、危機時に効果的な対応を行います。
5-2. 経済リスクへの具体的な対策とは
経済リスク対策方法は、企業が経済リスクに対処し、ビジネスの安定性を維持するのに役立ちます。企業はリスク管理のプロセスを組織内で統合し、変化に適応する文化を築くことが不可欠です。
- ・経済動向の分析
- 経済リスクを管理するためには、世界中の経済動向を注意深くモニタリングし、将来の変化を予測する必要があります。経済指標や市場トレンドの分析を通じて、リスク要因を洞察します。
- ・為替リスクヘッジ戦略
- 為替リスクは国際ビジネスにおいて特に重要です。通貨価値の変動からくるリスクを最小限に抑えるため、為替ヘッジ戦略を採用します。これには、フォワード契約や通貨オプションの利用が含まれます。
- ・多様な市場への展開
- 単一の市場に依存せず、多様な市場に展開することがリスク分散の面から有効です。多様なサプライチェーンも構築しておくことも大事です。異なる地域や国でのビジネス展開は、地域経済の変動に対する保険となります。
- ・資本効率の最適化
- 資本効率の最適化は、経済リスクに対抗するための重要な要素です。効果的な資本配分戦略を採用し、資本をリスクに対するバッファとして活用します。
- ・リスク評価とシナリオプランニング
- 経済リスクに備えるために、異なるシナリオに対するプランを事前に策定します。リスクの影響度を評価し、対応策を検討します。
- ・リーダーシップと意思決定
- 経済リスクに対処するためには、経営陣のリーダーシップと迅速な意思決定が不可欠です。リスクが発生した際には、迅速かつ適切な対応が求められます。
6. 組織風土とそのグローバルリスクマネジメントへの影響は?
企業の組織風土がリスクマネジメントに大きな影響を与えることもあります。ガバナンスが利いていて、オープンで柔軟な組織風土は、従業員がリスクを共有しやすく、より効果的なリスクマネジメントが行えます。一方で、閉鎖的な風土ではリスクが見過ごされやすく、組織全体のリスク対応能力が低下することがあります。コンプライアンスに問題が発生します。2001年に破綻したE社は、アメリカのエネルギー会社で、経営破綻時には巨大な企業でした。E社の崩壊は、組織風土とリスクマネジメントの失敗が引き起こした典型例として知られています。
7. グローバルビジネスにおけるリスクマネジメントの将来展望
グローバルビジネスの世界は常に変化しており、それに伴いリスクマネジメントのアプローチも進化しています。現代では、ESG経営への世間から見方、新型コロナウイルスなど新型ウイルスの影響、またサイバーセキュリティリスクが増加しています。ESG経営という観点では、企業や投資先に関する持続可能性と責任ある経営を評価され、これに反していることによる企業価値が下がるリスクも内在します。新型ウイルス(特にCOVID-19パンデミック)は、世界中の企業と組織に対する大きな影響をもたらしました。また、デジタル技術の普及と共に、サイバー攻撃も巧妙化し、企業や組織にとって重大な脅威となっています。このリスクに対処するため、多くの企業が積極的に対策を講じています。
金融業界のリーダーであるJ社は、サイバーセキュリティリスクに対抗するためにAIを活用しています。AIを使用して大量のデータを監視し、不正行為やセキュリティ侵害の兆候を検出するシステムを運用しています。将来的には、より高度な技術の活用、データ分析の強化、ビッグデータや人工知能(AI)などのテクノロジーを利用することで、リスクの予測や管理がより効率的かつ精度を高めることができます。
8. グローバルビジネスリスクマネジメントのまとめ
グローバルビジネスにおけるリスクマネジメントは、単にリスクを回避するだけでなく、ビジネスの持続可能性と成長を支えるための重要なプロセスです。各種のリスクを効果的に管理することで、企業は不確実性の高い国際市場での成功を目指すことができます。
まとめのポイント
グローバルビジネスリスクマネジメントは、守りの側面ですが、それをすることによって、同時に攻めという観点で、企業の成長と革新に大きな機会をもたらします。リスクをうまく管理し、グローバルな市場での機会を最大限に活用・実践することで、企業は長期的な成功を実現することができます。
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監修者情報
荒澤 文寛(あらさわ ふみひろ)
プロフィール | 現在、xWINグループの代表を務め、日本、シンガポール、マレーシアでブロックチェーン開発事業とコンサルティング・研修事業を展開しています。過去には東南アジアの5社で経営者を務め、13年間務めた日系大手コンサルタント会社ではグローバル事業の責任者・グローバルコンサルタントとして経験を積みました。日本人・企業のグローバルプレゼンスの向上を後押しするために、コンサルティングと研修を行っています。コンサルティングに関しては、グローバル進出支援、組織開発、ビジネスディベロップメント、マーケティングなどです。また、研修に関しては、15年以上にわたりグローバル人材育成・駐在員研修・リーダーシップ開発・グローバル戦略・グローバルマーケティング研修などを熱意を持って行っています。 |
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