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【リスキリング】コンフォートゾーンから抜け出せないミドル世代を動かすには?

ますます変革のスピードが加速するビジネス環境において、社員のスキルを高めるためにリスキリング施策を実施している企業は多いでしょう。組織全体でスキルの底上げを図り、古いスキルや知識を新しくアップデートし、競争力を高めていこうという動きの中で、いわゆる「コンフォートゾーン」から抜け出せない社員(特にミドル〜シニア世代)をどう動かすかが、組織にとって重要な課題といえるでしょう。企業に新しい価値・利益を生み出すために何をすべきか、リスキリングで確実な成果を出すために必要な事柄について考えていきます。
日本企業を支えているミドル世代
厚生労働省「厚生労働白書」によると、2022年度の労働者の平均年齢は、全体で43.7歳(男子44.5歳、女子42.3歳)となっており、今後もますます高齢化が進むと予測されています。特に、社員300人未満の中小企業ではその傾向が顕著で、総務省「就業構造基本調査」に基づく「2024年版中小企業白書・小規模企業白書」によると、中小企業の40歳以上の社員の割合は300人以上の企業で56.8%に対して、5〜19人で69.0%、4人以下で81.7%となっています。
参考:付2-(1)-9図 一般労働者の平均年齢の推移https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/23/backdata/fu02-01-09.html
参考:2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240510002/20240510002-1.pdf
国内のあらゆる産業で、40代、50代、60代、70代のミドル世代〜シニア世代が活躍している日本。従業員のさらなる高齢化が進む中、気になる傾向もみえてきました。
日本の社会人力は25歳で頭打ち?
2024年12月に公表された経済協力開発機構(OECD)による国際成人力調査(PIAAC)の結果によると、世界31か国のうち、日本は「読解力」など3分野全てで2位以内を獲得し、非常にレベルの高い成績となっています。この調査は16歳から65歳までの男女を対象に実施されていますが、調査結果からは、日本の好成績は主に20代の若年層がけん引していることが分かります。特に数字を使った品質管理や発注といったビジネスの実務に影響する「数的思考力」は25歳以降で右肩下がりに低下しています。リスキリングへの手厚い支援で知られる北欧諸国は、数的思考力が30〜40代まで伸び続けています。労働生産性が先進国の中でも低いと言われる日本。その一つの要因がこの結果を通して浮き彫りになっていると言えるのかもしれません。今後、日本の社会人に求められるのは、20代までに身に着けた高いスキルや能力を、年齢が高くなっても、さらに強化し、維持し続けることだといえます。これは、リスキリングにより、新しいビジネス環境にフィットするよう常に自分の力をアップデートし続けることに他なりません。
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新しいことが苦手なミドル世代が増えている?
現代のビジネス環境は、急速な変化と予測困難な状況とが当たり前となったVUCA時代といわれています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの頭文字をとった造語で、2010年ごろから徐々に浸透してきているビジネス用語です。IT化やグローバル化、そして近年のコロナ禍により、企業や組織にとって前例も成功例もない予測困難かつ複雑な課題を解決することが求められるようになりました。
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このような状況下で、企業を支えるミドル世代は、前例がない、大きなリスクを伴う決定や、マニュアルがない業務が増えています。40歳以上のミドル世代ともなれば、社会人デビューしてすでに20年余り経過し、様々なビジネス経験や知識が身につき、失敗や成功もある程度経験してきている人が大半でしょう。しかし、VUCAの時代では、これまでの延長線でものごとを考えることができず、ベテラン社員としての経験や知識を活用できないケースも多いのです。ミドル世代にとって、このような環境は、不安や、やる気ダウンを引き起こす要因になってしまいます。また、組織によっては、特にベテラン社員は失敗が許されない無言の圧力がある場合があります。このような状況下ですと、ミドル世代が新しいことにチャレンジしようとする前向きな気持ちが起きにくくなってしまうのも無理はないかもしれません。
コンフォートゾーンの心理学
ミドル世代が新規性の高い事柄に対して消極的になる傾向を、心理学的な見地からも考察してみたいと思います。
人間は、もともと変化を嫌い、いつもと同じ状態を心地よく感じる生き物であるといわれています。つまり、自ら意識して行動を変えない限り、ほぼ毎日同じことを無意識に繰り返し行いながら生活している場合が多いのです。これは、心理学では心理的ホメオスタシス(恒常性)と言われ、誰もが本能的に持っている特性です。このメカニズムにより、人は心地よく感じる行動や思考パターンを繰り返す「コンフォートゾーン」にいることを好み、その領域から出たくないと感じるようになります。※コンフォートゾーン(Comfort zone)とは、快適な空間、居心地のいい場所を意味します。
米ミシシッピ大学ビジネススクール教授のノエル・M・ティシー氏は、成長に関する環境として、コンフォートゾーン、ラーニングゾーン(ストレッチゾーン)、パニックゾーンという3つの領域を定義、ビジネスパーソンとして成長するためには、ラーニングゾーンに身をおくことが重要であると伝えています。ラーニングゾーンでは、新しい技術や知識を習得し、新しい行動様式や考え方を実行していくことが必要で、未知の世界への不安や、失敗するのではないかという恐れと戦いながら、それらを克服するための継続的な努力が求められます。
しかしながら、人は年を取ればとるほど保守的になる傾向があるため、40代以降のミドル世代になると新しいことに挑戦する機会も気力も減ってきてしまうのが現状です。そのため、慣れ親しんだやり方や考え方を繰り返し、コンフォートゾーンへの安心感がどんどん醸成されてしまうと、ますますそこから抜け出せなくなってしまうのです。次の章で詳しくみていきましょう。
なぜミドル世代はコンフォートゾーンから抜け出せないのか?
コンフォートゾーンから脱してラーニングゾーンに身を置くことは、絶え間ない努力や忍耐力、そして継続への強い意志が必要とされます。コンフォートゾーンから抜け出すことができないミドル世代は、以下のような特徴があると思われます。
(1)仕事より優先すべき事情がある
40〜50代のミドル世代は、家庭を持ち、子育てや家事に忙しく、日々の暮らしで精いっぱいという人も多いでしょう。「家庭のことは妻・母親が担当」というジェンダー格差の見直し、共働き世帯の増加などの影響で、学校行事やPTA活動における親の負担は増加、中学受験など、親が伴走しなければいけない場面が増えています。また、50代になってくると、介護の問題も視野に入ってきます。このように、仕事に全力を注ぎたい、新しいことにチャレンジしたい、と思っていてやる気はあっても、現実にはそんな余裕は無いという事情をもつ人が多くいるのが、ミドル世代の特徴の1つです。
(2)新しいことにチャレンジするのが面倒
一方で、余裕はあっても、新しいことにチャレンジするのを面倒に感じて、そのままコンフォートゾーンに居続ける人もいます。このような人は、楽なことだけしたいと考えがちで、面倒なことは避けて通ります。いつも同じ人と同じような話をして、仕事の仕方もいつも決まったやり方でやろうとします。慣れた手順や、これまでやってきた手法にこだわり、効率の良い新しい技術が導入されてもあまり関心を示さないのです。このような思考に陥る原因としては、新しい情報をインプットすることへの面倒くささや、おっくうさがあると思われます。
特に、新しいことを学ぶという点において、ミドル世代は、若者世代と比較すると、よりハンデがあると言わざるを得ません。視力の衰えや、筋力の衰えによる足腰の痛みなど体力面での衰えに加え、記憶力、認知機能は脳の老化とともに低下していくからです。
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(3)失敗がこわい・はずかしい
楽な環境から抜け出して新しい領域で自分の力を試したものの、うまくいかないことは必ずあることです。しかし、そのような失敗のリスクを許容できないと感じる人は、いつまでもコンフォートゾーンから出ることはできないでしょう。特にミドル世代では、失敗した責任をとるのがこわい、地位を奪われるのが嫌、ベテランのくせにと笑われるのではないかなど、様々な不安を持つ人もいるでしょう。しかし、その感情が、自分の潜在的な可能性を閉ざしてしまっています。
(4)変化することの必要性を感じない
そもそも現状維持が正義で、自分には変化は不要と考えている人は、今いる場所=コンフォートゾーンから出ることはないでしょう。40代以上のミドル世代には、長期間のビジネスパーソンとしての経験があります。特に、若い頃に成功体験を多く持っている人の中には、成功した当時と同じやり方をずっと続けることにプライドを持っており、周囲からも一目置かれているような場合、変化することを無意味なことと切り捨ててしまう思考を持った人もいます。このようなタイプの人が組織にいると、まさに「出る杭は打たれる」という言葉のとおり、新しいことにチャレンジする人を攻撃するような態度をとることもあり、組織の成長を阻害する要因にもなりかねません。
リスキリングを有効に活用するために
変化の時代、企業を支えるミドル世代を動かし、DXや新技術の導入等を進めていくことが重要な課題となっていますが、先述のように、ミドル世代は、様々な理由からコンフォートゾーンから抜け出せなくなっている場合があります。
せっかく企業がリスキリング施策として、有効な学びの場を提供したとしても、きちんと活用されなければ、リスキリングにかけたコストや時間は無駄になってしまいます。では、どのようなことに気を付けていけばいいのかについて、先述のタイプ別にみていきましょう。
1.キャリアより優先すべきことがある人向け
⇒限られた時間で集中して取り組めるものや、短時間で完結するような学習メニューを提案していくのがよいでしょう。期限を設けないで自分の好きなものをチョイスできるメニューも、体験のハードルが下がります。
2.新しいことにチャレンジするのが面倒な人向け
⇒リスキリングで学んだ新しい技術を習得したおかげで、結果的に仕事が楽になった、現状の業務効率がぐっと上がったというメリットの部分をしっかりと見える形で伝えていくことが重要です。先行的に始めたグループが、後発グループにその成果を伝えていくなど、組織内で情報共有していくことも有効です。例えばDXでミスが減り、作業効率が高まった等、良い変化の波が伝播していくと、リスキリングを面倒に感じていた人も動き出すでしょう。
3.失敗がこわい・はずかしい人向け
⇒失敗を認めない、許容しない組織風土である場合、このように感じる人は多いかもしれません。未経験の分野に関する学びは、一からスタートすることが多いので、いざ始めてみたものの、自分には合わない、どうしても続けられないといった場合も出てきます。そんな時は、また別の学びにトライすることを勧めるなど、個人のペースを尊重することも大切です。その人それぞれの強みや、興味関心のポイントに合わせてリスキリングメニューを幅広く提供することも重要です。
4.変化することの必要性を感じない人向け
⇒自分軸をしっかりと持っているため、行動を変えるのが最も難しいタイプといえますが、このタイプは、変化すべきであると自らが感じ取ったとき、いち早くリスキリングに取り掛かるタイプであるといえます。重要なのは周りからの働きかけではなく、自分の中での気づきにあります。このタイプの人には、社外の異業種セミナーやシンポジウム、海外企業も多く集まる展示会などに参加を促し、広い視野でビジネス環境を見る機会をつくると良いでしょう。そして、いつもと異なる視界、角度で自身を見つめた時に変化の必要性を感じる瞬間がきっと出てくることと思います。
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監修者情報
反町 雄彦 そりまち かつひこ
株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士
1976年 | 東京都生まれ | |
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1998年 | 11月 | 東京大学法学部在学中に司法試験合格。 |
1999年 | 3月 | 東京大学法学部卒業。 |
4月 | 株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。 |
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2004年 | 3月 | 司法研修所入所。 |
2005年 | 10月 | 弁護士登録(東京弁護士会所属)。 |
2006年 | 6月 | 株式会社東京リーガルマインド取締役。 |
2008年 | LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。 |
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2009年 | 2月 | 同専務取締役。 |
2011年 | 5月 | 同取締役。 |
2014年 | 4月 | 同代表取締役社長。 |
2019年 | 4月 | LEC会計大学院学長 |
2023年 | 東京商工会議所中野支部・情報分科会長に就任 | |
2024年 | 一般社団法人ラーニングイノベーションコンソシアムの理事に就任 |
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