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2025年の崖
変化への挑戦と未来への準備 ②実現策

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本コラムは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の大きな障害になると指摘されているレガシーシステムの問題について、その背景・原因の分析、対策について解説します。 経済産業省は、2018年に<デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会>の中間取りまとめとして、『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』を発表しました。今回はこのレポート内で指摘された「2025年の崖」と呼ばれる課題について、背景や解決策を中心に解説します。

1.経済産業省が提言するDX実現策

1-1 DX推進指標が策定された経緯

レガシーシステムの問題は、企業におけるDXが進まない最大の障害として指摘されています。レガシーシステム刷新を「目的」として設定するのではなく、あくまで目的は「DXの推進」にある、という考え方をしましょう。
経済産業省が、『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』を出した後、どのような提言を行ってきたか、を見ていきます。まず、「DXレポート」の提言を受けて、『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』(DX推進ガイドライン)を策定しました。これは、DX の実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が押さえるべき事項を明確にする目的、取締役会や株主がDXの取組をチェックする目的で策定されたガイドラインです。
さらに、「DXレポート」、「DX推進ガイドライン」を踏まえ、「DX推進ガイドライン」の2つの柱である「①DX推進のための経営のあり方、仕組み」と「②DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」について、経営者や社内の関係者が、自社の取組の現状や、あるべき姿と現状とのギャップ、あるべき姿に向けた対応策について認識を共有し、DXの推進に向けたアクションをとっていくための気付きの機会を提供するものとして、2020年5月から7月にかけて約30社が試行版を活用し、そのフィードバックも踏まえて「DX推進指標」が策定されました。

1-2 DX推進指標の活用方法

DXについて何から始めればよいか分からない、という声をよく聞きます。身近な例から考えてみましょう。最近では、飲食店の多くで店員がお客さんから注文を聞く代わりに、お客さん自身が手元のスマホでQRコードを読み取って注文したり、備え付けのタブレットで注文したり、といったデジタル化が進んでいます。これは人手不足に対応したものですが、どんなメニューがいつ注文されたかデータが自動的に蓄積される結果、データ分析・活用も容易になるという副次的効果もあります。また、遠方からの注文も可能とすれば、UberEatsに代表される持ち帰り・出前の需要にも対応でき、ビジネスモデルの変革にも発展します。将来的には、お客さんの人数・年代や来店時間に基づいてAIがお勧めメニューを提案したり、来店を促すためのクーポンを配信したり、といった売上向上策も可能となります。バックヤードの業務においても、ペーパーレスから始まって、業務プロセスの見直し、テレワーク人材の活用、RPAの導入、さらには、社内システムでの自動化など、身近なところから始めたデジタル化が少しずつ発展・拡大していくことが理想的です。
こういったDX推進の原動力となるのは、業務を担当する現場に加えて、システム部門(もしくはDX推進の部門)、経営陣も含めた関係者すべてが現状や課題について認識を共有すること、です。DX推進指標は、DXについての理想像(あるべき姿)と現状とのギャップ、理想像に向けた対応策について認識を共有し、必要なアクションをとっていくための気付きの機会を提供することを目的に策定されています。そのため、外部のコンサルが第三者的に採点するのではなく、自己診断が基本です。各指標項目について、経営陣、事業部門、IT部門などが議論をしながら回答することを想定しています。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、自己診断フォーマットをExcelで配布しています(https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html)。ぜひ、活用しましょう。
さらに、DX推進指標に基づく自己診断を行うことによって、自社が取り組むべきアクションについてベンチマークを得ることもできます。IPAに対して自己診断フォーマットを提出すると、他企業や他の業界の取組状況と比較した自社の位置づけに関してベンチマークレポートを取得することができます。診断で終わるのではなく、具体的なアクションをとって、その達成度合いについて定期的および継続的に評価し、DX推進を継続していくことが期待されます。

1-3 デジタルガバナンス・コード

経済産業省は、DX推進に向けた企業の自主的な取り組みを促すために、経営者が取るべき対応をデジタルガバナンス・コードとして提示しています(2020年11月公開)。デジタルガバナンス・コードは、自社が抱えている課題を洗い出すことや、DX推進への取り組み状況を評価する際のガイドラインとして利用することが想定されています。
その後、コロナ禍を経て2022年に「デジタルガバナンス・コード2.0」に改訂され、同時に、中堅・中小企業等向けの「『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」が公開されました。さらに、2024年、DXセレクション2023、2024の受賞企業の事例などを追加した増補版として「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.1」が作られました。この手引きでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)って何?という方から、何から取り組めばよいか分からないという方までに向けて、全国各地のDXに取り組む企業13の事例の紹介やDXの進め方を4ステップで解説、またDX成功に向けた6つのポイントを記載しています。

⇒中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.1

1-4 ベンダー企業との関係見直し

DXレポート内では、レガシーシステム問題の解決策の一つとして、ベンダー企業との関係見直しが挙げられています。大規模なシステム開発においては、ウォーターフォール型の開発という流れが一般的でした(経済産業省もモデル契約として提示)。

<ウォーターフォール型開発の流れ>

STEP1 要件定義 

システムの機能や、開発に必要となる予算や人員を決める。

STEP2 外部設計 

ユーザーインターフェース(外見的な見た目のこと)を設計する

STEP3 内部設計 

システム内部の動作や機能、物理データ部分を設計する

STEP4 実装 

外部と内部設計に基づき、実際にプログラムを作成・実装する

STEP5 単体テスト 

実装したプログラムが、正しく機能するかテストをする

STEP6 統合テスト 

複数のプログラムを組み合わせ、正しく機能するかテストをする

STEP7 運用テスト 

完成したシステムが、実際の業務に使用できるかテストをする

STEP8 リリース 

テストが完了したシステムをリリースする

滝が流れるように上流工程から順番に下流工程へと開発が進められるもので、「何を作りたいか」を明確にしたうえで、事前に決められた手順どおりに開発が進むため、進捗管理が行いやすい、というメリットがあります。企画や要件定義をじっくりと行ってから開発を開始するので、開発期間が長期化しやすいものの、品質が安定するメリットもあります。
もっとも、開発途中での機能追加や仕様変更には対応しにくい、というデメリットがあります。例えば、開発の途中で「この機能は不要だった」「このデータは、当初の仕様とは違って、別の部署のあのデータと連携させたい」といった要望が出てきても、最初に要件定義が完成しているために簡単には変更できません。上流工程からやり直すための労力が発生します。コストや労力が捻出できないと、不具合があることが分かったままで、とりあえずシステムが完成、という事案もあり得ます。要は柔軟性に欠ける契約スタイルです。
このような問題を克服するために、DXレポート内では、アジャイル型の開発契約が提案されています。アジャイル=agileとは俊敏という意味で、「素早いシステム開発」を意味します。要件定義を細かく行うことにこだわらず、作りたいシステムの仕様を大まかに決めたら、「計画、設計、実装、テストの反復(イテレーション)」を繰り返し、とりあえず完了させます。ベータ版のような形で、ユーザーに実際にシステムを使ってもらった上で、改善意見を踏まえて改良を繰り返して行います。短期間でシステム開発ができ、臨機応変に計画を変更ができるので、WEBサービスやモバイル関連のように変化の速い分野の開発に向いています。 DXレポート内では、アジャイル開発における主な契約モデルとして、①ユーザー企業による内製のほかに、②基本/個別契約、③ジョイントベンチャー、④技術研究組合が提示されています。ベンダー企業への丸投げを減らしていこう、という考え方が背景にあります。

1-5 デジタル人材の採用・育成

我が国のシステム開発における根本的問題として、ITエンジニアがベンダー企業に偏在している点があります。欧米では、ユーザー企業内で、プログラミングやプロジェクト管理ができる人材がベンダー企業と同程度の質・量で働いている、と言われています。これは、欧米ではジョブ型の採用慣行・給与体系によって、専門人材に高い給与を支払っているという事情が影響している(最近では、大手金融機関において、IT人材について入社数年、20代でも年収1000万円以上を提示する、という話がニュースになりましたが、欧米では、ITエンジニアやDX担当者が経営陣と同程度の高い給与を得ていることが珍しくありません)ので、個々の企業だけで解決できる問題ではありません。もっとも、デジタル人材の採用・育成への取り組みで、個社でも可能なことはいくつかあります。
まず、外部から採用する際には、ターゲットを明確にすることが第一ステップです。「新しいプログラミング言語が分かる人であれば誰でもいい」「大規模システムの入れ替えに関与した経験があればいい」といった曖昧な基準ではなく、①客観的なスキル・資格、②実務経験として、過去に担当したプロジェクトの規模や中身、③自社の課題解決につながるマインドセットなど、必要条件を明確にすることが重要です。採用はもちろん自社内で育成する場合についても、システム刷新・DXの課題が明確になっていること、が第一ステップの前提です。 「現状のレガシーシステムの問題点」「5年先、10年先まで継続的にDX推進するための投資計画」「システム部門(ベンダー企業)が経営戦略に合致したデジタル活用の方向性について現状認識や課題を共有しているか」といった項目をチェックしましょう(これらはDX推進指標にも登場しています)。
次に、第二ステップは人材の定着です。採用した人材がすぐに他社へ転職してしまったり、メンタル不調で休職してしまったり、といったことを防ぐ取り組みです。IT人材に限らず、人手不足が大きな課題となっている会社では、従業員満足度やエンゲージメントを高めるために、ワークライフバランス(勤務時間を柔軟にしたり、テレワークを行いやすくしたり)、心理的安全性の確保(いわゆる「風通しの良い職場」として、意見を言いやすくする)、賃上げ・福利厚生の充実などの取り組みを継続的に行っています。また、新しい技術の学習支援、テスト環境を与える等、スキルアップの機会を提供することも大事です。
第三ステップとしては、正社員以外の活用です。最近では、大企業の従業員を中心に、副業が解禁されています。大企業のデジタル人材が中小企業のシステム刷新に関与するケースが多く見られます。DXコンサル会社の中には、副業人材のマッチングや、プロジェクトマネージャーやエンジニアをチーム編成してベンダー企業のように開発を請け負うサービスを提供しているものもあるので、外部人材の活用は以前よりもやりやすくなっています。
最後に、自社内でデジタル人材を育成するためには、前述したアジャイル型の開発を実践することが有効です。社内に開発手法の知識が蓄積されるためです。IT分野にはスキル認定・資格が多いので、資格取得支援のために研修参加や参考書・受験費用の補助などの制度も整備しましょう。

2.マインドセットの変革

DX推進が進まない理由として、経済産業省が2019年7月に発表した『「DX推進指標」とそのガイダンス』というレポート内で、以下のような問題点が指摘されています。

  1. 顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確でない。
  2. 号令だけでは、経営トップがコミットメントを示したことにならない。
  3. DXによる価値創出に向けて、その基盤となるITシステムがどうあるべきか、認識が十分とは言えない。

これらの問題点を克服するためのマインドセットについて、簡単に説明して、本コラムを終えたいと思います。まず、1.のビジョンについて。生成AIやVR、ブロックチェーンなどのツール(How)に着目して、「AIを使って何かやれ」という号令にとどまっている、という問題です。この問題の解決のためには、 経営陣が顧客への付加価値向上、さらにはビジネスモデルの変革までを視野に入れて、デジタルやデータ分析を使って何をするか(What)をあるべき姿(理想像・ビジョン)として提示するマインドセットが求められています。
次に、2.もDXを一過性のものではなく、継続的に、企業文化・ビジネスモデルの変革にまでつなげていく経営陣のコミットメントを指摘したものですが、変革を持続的なものとするためには自社のシステムを刷新・改善し続けることが必要となります。その意味で、レガシーシステムの問題がDX推進の大きな障害となっているのです。 システム部門としては、DX推進のための権限や予算が適切に配分されているか、投資計画が経営陣に承認されているか、そして人材確保の仕組みが採られているか、を自部署の課題として認識するマインドセットが必要です。
最後に、3.の「IT システムがどうあるべきか」に関する認識は、全社的・全体最適のマインドセットが求められます。一人ひとりの従業員が自部署の業務さえ円滑に回っていればよい、という個別最適の考えを捨てることが必要です。「自社のシステムがより良い商品・サービス開発に貢献しているか」という現状認識に基づいて「DX による価値の創出に向けて IT システムをどのように見直すのか」を システム部門への丸投げではなく、自分事として考える従業員・部署が少しずつでも増えていくよう経営陣がリードしていきましょう。

まとめ

基幹システムの見直しが十分に行われないまま長い年数を経ている企業ほど、システム刷新は困難になります。また、部署ごとの独立性が高く、カスタマイズが個別最適で行われて複雑・ブラックボックス化しているシステム下では、DXに時間がかかってしまいます。着手が遅れれば遅れるほど、解決が困難になってしまいます。 「いつやるか、今でしょ」という姿勢で、本コラムを読んだ皆さんが「2025年の崖」を乗り越えるための第一歩を踏み出すことを期待しています。

2025年の崖 変化への挑戦と未来への準備 ①背景の解説

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監修者情報

反町 雄彦 そりまち かつひこ

株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士

1976年 東京都生まれ
1998年 11月 東京大学法学部在学中に司法試験合格。
1999年 3月 東京大学法学部卒業。
4月

株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。

2004年 3月 司法研修所入所。
2005年 10月 弁護士登録(東京弁護士会所属)。
2006年 6月 株式会社東京リーガルマインド取締役。
2008年

LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。

2009年 2月 同専務取締役。
2011年 5月 同取締役。
2014年 4月 同代表取締役社長。
2019年 4月 LEC会計大学院学長

反町 雄彦社長

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