人事・労務

リスキリングを通したキャリア支援とは?
キャリアコンサルタントの必要性について解説

リスキリングを通したキャリア支援とは?キャリアコンサルタントの必要性について解説イメージ

本コラムでは、企業の事業変革に合わせて従業員を成長分野・新たな職務へスムーズに移行・転換してもらうために必須となるリスキリング、そして、自律的なキャリア構築のために必要となるキャリアコンサルティングについて解説するものです。
2023年は人的資本経営元年と言えます。2023年3月期の決算開示(有価証券報告書)において、上場企業は、①人材育成方針、②社内環境整備方針、③女性管理職比率、④男性の育児休業取得率、⑤男女間賃金格差の5つを開示することが義務付けられます。特に、①については、人材育成の指標と目標の記載が求められ、具体的には研修時間・費用や研修参加率、人材確保・定着のために行っている施策やスキル向上プログラムの種類・対象など、ヒトへの投資の中身を開示することが必要となります。
OJT中心の企業研修は、現在従事している部署・業務の技能・生産性を高めることには向いていますが、今までとは異なる部署(場合によってはビジネスモデル自体が大きく異なる)・職務へ対応するためには、座学&Eラーニングも織り交ぜて、さらに学んだ知識・スキルを実践で試す機会も必要です。リスキリングの導入は唯一の正解があるわけではありません。企業の業種、規模、従業員の学ぶ姿勢など様々な要因を考慮して、自社に合った最適解を模索する際に本コラムが1つの参考になるよう願っています。

おすすめの方
・従業員へリスキリングを呼び掛けるよう経営陣から指示があったが、何から始めればよいか悩んでいる人事部社員
・社内でのキャリアコンサルティング(セルフ・キャリアドッグ)導入を検討している、もしくは検討は決まっていてその意義を社内でどのように周知するか検討している人
・セルフ・キャリアドッグで従業員のコンサルティングを担当している、もしくはこれから担当する予定となっているキャリアコンサルタント(資格保有者)
・ChatGPTをはじめとする生成系AIの発展や、破壊的イノベーションによる産業構造の転換によって、自身の雇用・職場が失われるのではないかと漠然とした不安を持っている方

1.リスキリングとは?

1-1 リスキリングとは?注目される背景

社内の人材を対象に、新たに必要となったスキルを学んでもらうことをRe-Skilling(リスキリング)と言います。

日経新聞でも「中高年の力 引き出せるか」という見出しで、コロナ禍でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中、DXの担い手となる人材を社外から獲得するだけでなく、社内で育成する研修が大企業を中心に増えているという記事がありました。

コロナ禍に伴うデジタル化の加速、そして、中高年社員の雇用維持のための再教育が背景にあります。

1-2 リスキリングとリカレントの違い

すでに働いている人の再教育・学び直しを指す概念として「リカレント」という言葉もあります。
リカレントの多くが、いったん職を離れて大学院などでまとまった期間、勉強に専念することが想定されているのに対して、リスキリングは在職のまま学び直しをします。

また、MBAに代表されるように、その人が今まで得てきた職務経験を基礎とした上で、より発展した、高度な幅広いスキルを学ぶのがリカレントです。
これに対して、リスキリングは、それまでの職務経験や得てきたスキルから離れた、まったく別の分野を学ぶため、過去を意識的に捨て去る発想が必要となります。

最後に、リカレントは学ぶ人が自主的に選択するのに対して、リスキリングは企業が従業員に対して新しい部署・業務への転換を促すために、「こういう分野を学んでほしい」「こういうコンテンツがお勧め」と方向性を示すことが一般的です

2.リスキリングの可能性、導入時の注意点

2-1 新時代のキャリア支援へ

前述のように、リスキリングは企業側が環境変化・事業構造の転換に対応するために、従業員へ呼びかけることが普通です。今までも技術の発展、機械の導入によって人間の雇用が失われることがありました。ものづくりの工場、特に食品加工や製薬、半導体のように清潔な環境が求められる場合には、製造工程の全てが機械によるオートメーションに代替されています。

これに対して、商品・サービスを売り込む営業の仕事、バックヤードや人事・経理・法務などの管理部門といったオフィスワーク、さらには経営者や士業のような高度な知識労働は、機械による代替は進みませんでした。パソコン・インターネット、クラウド化は、「できる」人の生産性・効率性を高めるように影響を与えはしたものの、一部のエリートが仕事を独占するような事態にはなりませんでした。そもそも技術の発展はゆっくりで、多くの人が使いこなせるようになるまで、3〜5年程度の時間的余裕がありました。その間にある程度のPCスキル、すなわちWord、ExcelやPowerPointの操作ができるようになれば、事務職としての雇用を守ることが可能でした。

しかし、2020年代に状況は一変します。大きな要因は2つです。1つはコロナ禍によって、リモートワークが急速に拡大し、オンラインを活用した時間短縮のデジタルツール(WEB会議システムなど)も増えたことです。ホワイトカラーの職場環境が変わり、企業業績に直結する業務は何か、付加価値を生み出す仕事とは何か、が改めて厳格に意識されるようになりました。もう1つは、ChatGPTに代表される生成系AIの発展スピードがあまりに急速であることです。知識労働とはいえ、データ入力や議事録作成、簡単な分析レポートなどの比較的単純な業務はAIに代替される可能性が高まりました。一部の優秀な人がAIを活用することによって普通の人の数十倍の成果を生み出し、その他大勢の人の雇用がなくなってしまう、という状況がすぐ目の前に到来しています。
とはいえ、企業としては、従業員の解雇は簡単にはできません。産業構造の転換、ビジネスモデルの変革へスムーズに対応するためには、外部コンサルに頼り切りではうまくいきません。自社の企業文化を知っており、商品・サービスの強み・弱みをよく知っている既存従業員の知恵(暗黙知)を活用するためにこそ、リスキリングが重要となります

2-2 リスキリング導入における課題

人的資本経営の核心は、全社戦略・事業戦略と人材戦略を連動させる点にあります。経営陣が人事部とのコミュニケーションによって定めるべき事項は以下の3つです。①自社の進むべき方向性・事業ポートフォリオを明確にすること(改革が必要な場合には2、3年スパンの工程表も)、②戦略実現のために現状の組織には何が足りないのか把握、③不足している能力について外から中途採用や派遣・外注で対応すべきものは何で、内部人材の再教育(リスキリング)によって対応すべきものは何なのか、の区分け。

世間では、「リスキリング=DX推進のためのプログラミングやデータ分析」と捉えられることが多く、デジタル人材育成の研修メニューをいかに多く準備し、気軽に受講できるよう従業員を促すか、に注力している企業も多くあります。しかし、リスキリングはDXに限ったものではありません。確かに、コロナ禍において日本企業のデジタル化の遅れは問題視されました。とはいえ、一部の業務においてリモートワークに適した仕組みが導入されたからといって、それだけで生産性が上がるものではありません。商品・サービスが顧客に届くまでのプロセス全体において迅速化・省力化が図られなければいけません。そうでないと、どこかの部署がボトルネックとなって、顧客目線では、全く改善されていない結果となり、逆に、社内でのデジタル・デバイドが生じて、部署間対立が生じることもあります。「新たな業務・部署へ対応できる人を増やす」ことが全社的な課題であることを多くの従業員に理解してもらって、新たな業務(その会社にとっての新規事業であって、必ずしもデジタル化やWEBサービスに限られません)に取り組む人を応援し、うまく行った人は表彰・評価しつつ、失敗しても温かく見守ることが導入のポイントです。

環境の変化が激しく、技術の発展スピードが速いために、社内改革も早急に進めなければならないと(経営陣や人事部は)焦ってしまうかもしれません。しかし、リスキリングに取り組むのは一人ひとりの従業員です。挑戦を奨励し、(前向きな)失敗を許容する心理的安全性を図るために、以下の3点を従業員へのメッセージとして明確に打ち出すことをお勧めします

  • ①会社として新しい業務・部署へ関わる人を増やす必要がある、という戦略的課題の共有
  • ②リスキリングで自身を高めることは、自社内の昇進・昇格だけでなく、転職や起業という場面でもプラスになる、という当該従業員自身のキャリアアップ上の恩恵があること
  • ③最後に、リスキリングは他者とスピードを競い合うものではなく、他の人よりも遅れがちであっても、前向きに取り組む姿勢があれば評価する、という余裕・度量の広さを示すこと(ただし、既存業務に固執して挑戦すらしない姿勢には厳しく対応)

最後の③を実現するためには、教育メニューをDX分野に絞るべきではありません。例えば、BtoB営業の分野に限っても、オンラインでの商談術、インサイドセールスの活用法、WEB広告・マーケティングの知識(外注先をうまく使う方法)などはプログラミング知識がなくても十分に学ぶことができます。最初の拒否反応をやわらげ、多くの人に前向きに挑戦してもらうためには、様々なメニューを用意すべきです。実践的な活用が可能なもの、すなわち、自社の顧客へ提供できる付加価値との結びつきがイメージしやすい業務知識を研修メニューに入れるべきです。

リスキリングイメージ

3.ますます高まるキャリアコンサルタントの必要性

以上、述べてきたように、リスキリング導入にあたっては、従業員一人ひとりが前向きな挑戦の姿勢を持つこと(マインドセット)です。企業の寿命よりも労働者のキャリアの方が長い、という話は1990年代からすでに言われ続けていました(企業の寿命は30年説)。しかし、依然として、大企業を中心に、新卒採用で入った会社で定年まで働き続け、自身のスキル向上は会社の研修(主にOJT)、定期的なジョブ・ローテーションや転勤にお任せ、という考え方が根強く残っています。
このような考え方では、いくら経営者や人事部が旗をふっても、リスキリングは広まりません。そこで、従業員のマインドセットを変えるために有効なのがキャリアコンサルティングです。

2016年の職業能力開発促進法の改正・施行により、従業員には自らのキャリアプランと能力開発について責任を持つように促され、企業には従業員に対するキャリアコンサルティングの提供と能力開発支援が求められるようになりました。そのための企業内の仕組みとして「セルフ・キャリアドック」が定められています。
セルフ・キャリアドック導入にあたって、企業側は自社内のキャリアステップ(昇格や昇進、異動の基準)や育成計画、求める人物像を明らかにすることが求められます。そして、キャリアコンサルティングを受ける対象者・実施時期などの実施計画を策定し、国家資格であるキャリコンサルタント資格を有する専門家によるカウンセリングを実施します。

入社後5年・10年・15年経過時、課長・所属長など職位変更があったタイミング、シニア社員など対象者を適切に定めることによって、このセルフ・キャリアドック実施が従業員のリスキリングを促す効果をも持つことになります

キャリアコンサルティングによって、従業員には以下のような気づきを得てもらうことが期待されます。
  • ・これまでの仕事・経験によって、どのような成長があったか振り返り
  • ・自分の働き方で大切にしているポイントや価値観
  • ・仕事に対する期待や不安
  • ・自身が企業から求められている役割と自身の能力が合っているか
  • ・現在から将来にわたって企業から求められる仕事・責任の見通し

これらの気づきが、企業から与えられる「受け身」ではなく、あくまで自身の中から自然と湧き出てくる主体的なものであるように、コンサルタントがうまく誘導(コーチング)するべきです。

4.時代の変化に合わせて進化するキャリアコンサルタントに

最後に、前述のようなキャリアコンサルティングを担当するコンサルタントの方へのメッセージです。人事部の方は、以下に書かれているような気概をもったコンサルタントを使う、という趣旨で読んでください。

社会人の学び直しに当たっては、それまでの職業経験を踏まえたキャリアコンサルティングが必須です。現在、政府内に設置されている「新しい資本主義実現本部/会議」の分科会である、「三位一体労働市場改革分科会」は、個々の企業の実態に応じた職務給の導入を提言しています。年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行によって、現在従事している職務・役職においてどのような知識・スキルが要求されているか、さらに、どのような知識・スキルを新たに身につければ、昇進・昇格、異動が可能となるかが明確となります。従業員一人ひとりは、すでに持っている技能を伸ばすのか、逆に、過去の知識・経験から離れて新しいスキルを身につけるのか(アンラーニング&リスキリング)、を決めることが求められます。これは人生の大きな分岐点となる決定です。

キャリアコンサルタントには、クライアントに寄り添ってその考え方・意向を尊重しつつも、外部環境の厳しさを踏まえた、現実的な助言をする役割が求められます。決してクライアントに迎合するものではありません。そのためには、世の中の動きにアンテナを高く伸ばして、勉強し続ける姿勢が重要です。キャリアコンサルタント資格の取得はゴールではなく、出発点です。試験合格後の継続教育が必須です。更新講習の履修はもちろん、資格者向けのオンラインセミナーを受講したり実践的な相談業務に就いたり、といった機会を積極的につかんでいきましょう。

5.まとめ

岸田首相は、2022年10月の臨時国会の冒頭、所信表明演説の中で人への投資をより一層進めていく方針を述べました。構造的な賃上げの実現に向けて「賃上げで企業が高度人材を呼び込み、生産性を高めてさらなる賃上げが生じる好循環」が必要であるとして、社会人の学び直し(リスキリング)への財政支援として「5年で1兆円規模の政策パッケージ」を実行するとしました。
現状でも、企業に対しては非正規から正社員登用した場合の助成金や社内研修に対する費用補助が、個人に対しては教育訓練給付金や自治体独自の助成金など、様々な助成金・補助金の制度がありますが、今後、対象講座や対象者が拡大していくものと予想されます。企業への給付ではなく、学び直し・リスキリングに取り組む個人への支給が中心となります。もっとも、金銭的な後押しだけでは足りません。課題意識を持つこと、定期的に勉強の時間・機会を作っていく計画性、そして、計画を実行していくモチベーション維持が必要です。従業員の学び直し・リスキリングを支援していく仕組みを企業が整えるようLECも様々な支援メニューを用意しています。お気軽にご相談ください。

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監修者情報

反町 雄彦 そりまち かつひこ

株式会社東京リーガルマインド 代表取締役社長/弁護士

1976年 東京都生まれ
1998年 11月 東京大学法学部在学中に司法試験合格。
1999年 3月 東京大学法学部卒業。
4月

株式会社東京リーガルマインド入社、以後5年間、司法試験対策講座の講義を行い、初学者向けの入門講座から中上級向けの講座まで幅広く担当し、多くの短期合格者を輩出した。

2004年 3月 司法研修所入所。
2005年 10月 弁護士登録(東京弁護士会所属)。
2006年 6月 株式会社東京リーガルマインド取締役。
2008年

LEC司法試験対策講座統括プロデューサーを務め、以後、現在に至るまで資格試験全般についてクオリティの高い教材開発に取り組んでいるほか、キャリアデザインの観点から、多くの講演会を実施している。

2009年 2月 同専務取締役。
2011年 5月 同取締役。
2014年 4月 同代表取締役社長。
2019年 4月 LEC会計大学院学長

反町 雄彦社長

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