人事・労務

ISO30414とは何?人的資本の情報開示が求められる理由や背景、導入企業例について解説

ISO30414とは何?人的資本の情報開示が求められる理由や背景、導入企業例について解説イメージ

本コラムは、近年注目が高まっているISO30414について、注目される背景や各国の取り組み、導入メリットなども含めて分かりやすく説明します。近年、企業価値を判断するために、財務諸表の内容だけではなく人的資本のような無形資産をしっかりと把握することが非常に重要視されています。株主など外部のステークホルダーにとってだけでなく、企業自身にとってもISO30414の導入メリットは大変大きいものと考えられます。今後、ますます重要度が増していく内容です。

おすすめの方
・ISOおよびISO30414について理解したい方
・ISO30414の導入を検討している方
・投資家からの要望に応え、人的資産の情報開示を検討したい方
・社内の人的資本を把握し、戦略人事に取り組みたい方

1.ISO30414とは何か

1-1 ISOとは?

ISO とは、International Organization for Standardizationの略で、日本語で「国際標準化機構」と言います。 ISOは国際的な商取引をスムーズに行うための国際的に通用するルールを設定しており、そのルールをISO規格と言います。

ISO 規格には、製品や表示を対象にする「モノ企画」と組織の活動を対象にする「マネジメントシステム規格」があります。モノ企画で代表的なものに「非常口マーク(ISO7010)」や「ネジ規格(ISO68)」などがあります。また、マネジメントシステム規格で代表的なものに「品質マネジメントシステム規格(ISO9001)」や「食品安全マネジメントシステム規格(ISO22000)」などがあります。

1-2 ISO30414とは?

ISO30414とは、2018年12月にISOにより発表された、人的資本に関する情報開示のガイドラインです。こちらは先述した「マネジメントシステム規格」の一つにあたります。企業の透明性を確保するため、人事・組織・労務などの人的資本に関して、どのような情報を関係者に向けて開示するべきかを定めた国際的なルールがISO30414です。かつては各国で労働法の規制が異なりましたが、ISO30414が制定されたことにより、 世界のどの国の企業であっても 同じ基準で人的資本を把握することができるようになりました。

1-3 人的資本とは?

ISO30414で開示が求められている「人的資本」とは、人材を、投資することで価値を生み出す資本としてとらえた概念です。 経済協力開発機構(OECD)によると、「一般に、人的資本は個人の持って生まれた才能や能力と、教育や訓練を通じて身につける技能や知識を合わせたものとして幅広く定義される。」とされています。

経済産業省も、近年、「資本」である人材の価値を最大限に引き出すことによって中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を「人的資本経営」 と説明しています。このように、人的資本に関する注目が高まっています。

2.ISO30414記載の11領域49項目について

2-1 ISO30414の11領域とは?

ISO30414の項目は、以下の11領域となっています
  1. コンプライアンスと倫理
  2. コスト
  3. ダイバーシティ
  4. リーダーシップ
  5. 組織文化
  6. 組織の健康・安全・福祉
  7. 生産性
  8. 採用・異動・離職
  9. スキルと能力
  10. 後継者育成
  11. 労働力確保

以上の11領域の中に、それぞれ具体的に何項目か存在します。

1.コンプライアンスと倫理

企業のコンプライアンスと倫理に関する領域には、以下の5項目があります。

  • 提起された苦情の種類と件数
  • 懲戒処分の種類と件数
  • 倫理とコンプライアンスに関する研修を受講した従業員の割合
  • 第三者に解決が委ねられた係争
  • 外部監査で指摘された事項の数、種類および発生源とそれらへの対応

2.コスト

人事関係のコストに関係する領域には、以下の7項目があります。

  • 総人件費
  • 外部人材費
  • 平均給与と報酬の比率
  • 雇用に関する総コスト(給与や諸手当など)
  • 1人当たり採用費
  • 採用・異動にかかるコスト
  • 離職に伴うコスト

3.ダイバーシティ

人材の多様性に関係する領域には、以下の2項目があります。

  • 労働力のダイバーシティ(年齢・性別・障がい者の数など)
  • 経営陣のダイバーシティ

4.リーダーシップ

企業の中でリーダーシップを取る人材に関係する領域には、以下の3項目があります。

  • 経営陣やリーダー層に対する信頼度
  • 管理職1人あたりの部下数
  • リーダーシップの開発(リーダーシップ研修に参加したリーダーの割合等)

5.組織文化

従業員の満足度など組織文化に関係する領域には、以下の2項目があります。

  • ワークエンゲージメント/従業員満足度/コミットメント
  • 従業員の定着率

6.組織の健康・安全・幸福度

組織の健康・安全・幸福度に関係する領域には、以下の4項目があります。

  • 労働災害による損失時間
  • 業務上のアクシデント数(労働災害の件数やヒヤリハット件数など)
  • 労働災害による死亡者数
  • トレーニングを受講した従業員の割合

7.生産性

売上高や従業員一人当たりの収益など、生産性に関係する領域には、以下の2項目があります。

  • EBIT/収益/売上高/1人当たりの利益
  • 人的資本ROI

8.採用・異動・離職

従業員の採用・異動・離職に関係する領域には、以下の14項目があります。

  • 空きポストに対する候補者数
  • 入社後のパフォーマンス
  • 欠員補充までの平均期間
  • 将来的に必要となる人材の能力
  • ポストの社内登用率
  • 重要ポストの社内登用率
  • 重要ポストの割合
  • 全空きポスト中の重要ポストの割合
  • 社内異動率
  • 従業員層の厚さ(幹部候補が多いかなど)
  • 離職率
  • 希望退職率
  • 希望退職率(組織にとって致命的なもの)
  • 退職理由

9.スキルと能力

従業員のスキルや能力、人材開発に関する領域には、以下の3つがあります。

  • 人材開発にかける費用
  • 学習・開発(研修参加率、カテゴリ別の研修受講率、従業員一人あたりの研修時間など)
  • 従業員のコンピテンシー

10.後継者育成

経営陣や重要ポジションの人材の後継者育成計画に関する領域には、以下の3項目があります。

  • 後継者の内部登用率
  • 後継者候補数
  • 後継者の育成度合

11.労働力確保

企業が十分な労働を確保をできているかに関係する領域には、以下の4項目があります。

  • 総従業員数
  • 総従業員数(フルタイム換算)
  • 外部労働力
  • 欠勤率

3.ISO30414が注目を集める背景

人的資本情報開示イメージ

3-1 投資家からの人的資本情報の開示要求

近年、投資家からの無形資産の情報開示要求が高まっており、ISO30414が注目されています。背景としては、リーマンショックなどを経て、企業価値は財務諸表に現れる有形資産だけを見ても判断ができず、無形資産を把握することが重要であるとの考え方が広まってきたことがあります。すでにアメリカの上場企業の多くは人的資本の情報開示について対応を進めていますが、日本でも今後その対応が加速していくと考えられます。

3-2 ESG投資やSDGsへの注目

ESG投資やSDGsに対しても近年非常に注目が集まっています。ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を並べたもので、SDGsは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」のことです。環境問題や人権問題などに配慮をしている企業は、持続的に成長し続けるためのリスクマネジメントを行えていると捉えることができるため、そのような企業に積極的に投資をしようという動きが高まっています。

法務・コンプライアンス研修全体を見る

eラーニング「SDGS入門研修」の一部を無料でお試しいただけます。

3-3 コーポレートガバナンス・コードの改訂による人的資本への言及

コーポレートガバナンス・コードとは、東京証券取引所が設定する、実効的なコーポレートガバナンスの実現のための主要な原則を取りまとめたものです。2018年に改訂された内容では、人材投資について言及され、株主に分かりやすく説明するべきだとの内容が含まれました。さらに2021年の改訂では、上場会社が人的資本の情報開示について求められることになりました。

4.ISO30414の導入によって期待される効果

4-1 ISO30414の導入によって期待される効果やメリット

ここでは、ISO30414の導入によって期待される効果やメリットについて、いくつかご紹介します。

●戦略人事に取り組みやすくなる

ISO30414を導入するためには、企業は自社の人的資本についてデータを収集し、各項目を可視化する必要があります。そうすることで、企業自身が、自社にどのような人材がいてどのような人材が足りないのかがわかります。また、企業の成長に貢献しているのはどのような人かも把握できるようになります。そのため、企業の組織戦略野中で、どのような人を採用して育成すべきかを考えやすくなるため、戦略人事に取り組みやすくなります。

●ステークホルダーに対して透明性の高い人的資本情報を提供できる

ISO30414に沿って情報開示を行うことで、投資家や取引先などステークホルダーは企業の人的資本を定量的・定性的に把握することが可能になります。そのため、企業の状況や価値が正しく理解され、より公正な評価を受けることができるようになります。
さらに、労働市場においても差別化を図ることが可能です。人的資本情報を開示することで、企業を入社前からより深く理解してもらうことができるでしょう。そのため、採用においてもミスマッチを防ぐことが期待されます。

●人的資本の価値を高めていくことができる

人的資本情報について可視化をすることで、人的資本の問題点が自然と見えてきます。例えば業務上の事故はどのようなものが多いのか、空きポストを埋めるための時間は適切か、など現状が把握できるようになると改善策が打ちやすくなります。さらに、各項目について経年でデータを取ることによって改善状況なども分かり、効率的に人的資本の価値を高めていくことが可能になります。

5.ISO30414への取り組みの欧米と日本の現状

5-1 欧米の導入取り組みの状況は?

欧米各国では ISO30414に準じた人的資本の情報開示への取り組みが進んでいます。 アメリカでは、2018年12月にISO30414が出版されたことを機に、人的資本の情報開示に積極的な姿勢を示すようになりました。そして2020年11月にはSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に人材情報の開示を義務化しています。また、世界で初めてISO30414の認定を受けた企業は、ドイツ銀行グループのアセットマネジメント会社であるDWS社でした。イギリスでも、2020年1月に財務報告評議会(FRC)が「従業員の開示に関する報告書」を公表しました。

5-2 日本の導入取り組みの状況は?

日本においては、欧米ほどISO30414に対する取り組みが進んでいないのが現状です。しかし、2020年9月には経済産業省が「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の報告書(通称「人材版伊藤レポート」)を発表したり、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されたりなど、近年、人的資本の情報開示に対する注目度は急速に高まっています。現状ではアメリカのように人的資本情報の開示は義務化されてはいませんが、今後はどの企業でも開示が求められるようになる可能性はあるでしょう。

6.ISO30414の導入企業例

6-1 ドイツ:DWS社

2021年に、ドイツ銀行傘下のアセットマネジメント会社であるDWS社が世界で初めてISO30414の認証を取得しました。DWS社が2020年に発表した「DWS HUMAN CAPITAL」という人的資本に関する報告書は、簡潔に人的資本をまとめたものであり、ISO30414の認証を取得した内容として世界中から注目されています。

6-2 日本:リンクアンドモチベーション

株式会社リンクアンドモチベーションは、 2000年の創業以来、組織人事コンサルティングを行なってきた会社です。2021年よりISO30414の取得を目指して準備を始め、 2020年5月にアジアでは初のISO30414の認証取得企業となりました。

7.ISO30414の認証を取得するには?

7-1 ISO30414の認証を取得する方法

ISO30414の認証を取得するには、まずISO30414の項目にしたがって社内のデータを揃える必要があります。その後、 認証機関の審査をクリアすることでISO30414の認証を取得することができます。

まとめ

ISO30414の取得をすることは、外部から公正な評価を得ることができるだけでなく、企業自身が人的資本に関する課題を発見し、組織を発展していくことにも役立ちます。世界的に人的資本の情報開示の重要性が高まっているこの機会に、ぜひISO30414への取り組みを検討してみてください。

監修者情報

増澤 祐子 ますざわ ゆうこ

 保有資格等   経済産業大臣登録 中小企業診断士、TOEIC925点、中国語(ビジネスレベル)、日商簿記2級
 講師領域   経営法務、ビジネスマナー研修、プレゼンテーション研修、レジリエンス研修、ビジネスディベート研修
 プロフィール   京都大学大学院農学研究科を卒業後、外資系コンサルティングファームに入社し、大手企業に対する業務分析や改善提案など様々なプロジェクトに携わる。その後食品メーカーに転職。コールセンターのスーパーバイザー業務、商品企画、業務効率化を主導し、社長賞を受賞。その後、台湾支店に駐在し、業務全体の管理および現地スタッフのマネジメントを行う。帰国後は、本社経営企画室の課長として、他社の買収統合を含む新規事業の立ち上げを担当。様々な厳しい環境への適応力と、日本国内外でのマネージャー経験を強みとする。

増澤祐子

LECのおすすめ研修

eラーニング研修
講師派遣・オンライン

コンプライアンス・法務研修全体を見る

先ずはお問い合わせください!

LEC東京リーガルマインドは貴社の人材育成を成功させるため、集合研修・eラーニング研修・試験対策研修・ブレンディング研修まで、様々なプランをご用意しております。詳細資料のご請求やお見積りのご依頼は、お気軽に法人事業本部まで。

PAGE TOP