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個人情報保護法改正(令和8年)をわかりやすく解説:全体像・改正点・企業対応
令和8年(2026年)個人情報保護法改正によって、適正なデータ利活用を進めつつ、子どもの個人情報、顔特徴データ(顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状から抽出した特徴情報を、本人を認証することを目的とした装置やソフトウェアにより、本人を認証することができるようにしたもの)、特定の個人に対する働きかけが可能となる情報等を厳格に扱う方向で制度が再設計されます。
本記事では、改正の背景と施行スケジュール、改正の「4つの柱」の全体像、主要な改正点、そして企業が今から準備すべき実務対応を、順に整理します。
政省令・ガイドライン等で運用が具体化される領域もあるため、今後、これらの進捗にも注意が必要です。
令和8年・個人情報保護法改正への対応は万全ですか?
- 改正内容を把握したい
- 罰則強化への備えに迷う
- 子どもの情報管理を知る
- 委託先の管理方法に悩む
- 課徴金リスクを回避したい
本コラムでは、2026年施行の個人情報保護法改正を解説。子どもの情報や顔特徴データの規制、課徴金導入等の主要な改正点から、棚卸しや規程見直しなど企業が備えるべき実務対応まで分かりやすく整理します。
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1. 個人情報保護法改正の概要
まずは、今回の改正がなぜ行われ、どのような流れで制度改正が進んできたのか、そして施行がいつ頃になりそうかを押さえます。
今回の改正は、デジタル技術の急速な進展に伴い、企業がデータを活用して新しい価値を生む動きが加速する一方で、本人の知らないところでの追跡や名簿悪用、漏えい時の二次被害などが現実に起きていることを受け、利活用と保護のバランスを取り直すものです。特に、子どもの個人情報や顔特徴データのように、プライバシー侵害の影響が大きい領域は、ルールを明確にして実効性を高める方向が示されています。
改正は、法律だけで完結せず、施行令・施行規則・ガイドライン・Q&Aで要件や運用が具体化されます。そのため実務では、条文の文言だけで判断せず、委員会資料やガイドラインの更新を前提に、ルールの適用条件と例外の境界を押さえることが重要です。
企業側のポイントは、改正によって同意が不要になる場面が増える可能性がある一方で、使い方を誤ると不適正利用や提供規制違反として重い制裁につながり得る点です。利活用を進めるほど、データ分類、目的管理、委託管理、インシデント対応といった基本的な管理や運用が問われる改正だと捉える必要があります。
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改正個人情報保護法(2022年施行)のポイントは 企業が対応するべき内容
1-1 改正の背景と「3年ごと見直し」
デジタル技術の進展やAI活用の拡大で、個人データの利活用に対する需要が高まりました。その一方で、本人が想定しない目的での利用、名寄せによる追跡、漏えい後のなりすまし・詐欺といった権利利益侵害のリスクも増えています。改正は、こうした環境変化に制度を追随させる狙いがあります。
個人情報保護法には、施行状況を定期点検し、必要に応じて見直すための「3年ごと見直し」規定があります。これは一度決めたルールを固定化するのではなく、技術の進歩やその社会への普及の速度に合わせて、実効性と現実性を保つための仕組みです。
今回の改正は、その見直しサイクルの一環として位置づけられます。企業としては、今回の対応だけで終わりではなく、今後も数年単位でルールが更新され得る前提で、データガバナンスを継続的に改善する体制を作ることが求められています。
1-2 立法経緯と制度改正方針の位置づけ
検討はおおむね2023年後半から本格化し、個人情報保護委員会による論点整理や「考え方」(個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」)の公表、パブリックコメント等を経て、2026年1月に制度改正方針が示され、法律案の国会提出から成立へと進みました。時系列を追うことで、どのリスクが問題視され、どこが落としどころになったのかを読み解けます。
制度改正方針は、条文そのものではありませんが、どの論点をどの方向へ動かすかを示す設計図です。実務では、改正方針に書かれた意図を理解しておくと、ガイドラインで要件が細かく定められたときに、過剰対応や見落としを避けやすくなります。
特に今回の改正は、同意規律の合理化と規制強化が同時に進みます。片方だけを見て「緩くなった」「厳しくなった」と判断すると誤ります。利活用をしやすくする代わりに、誤用や悪用につながる領域は明確に止める、という二層構造として理解すると整理しやすいです。
1-3 施行スケジュールの見通し
施行日は政令で定められ、原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内において施行されます。法律が成立した瞬間に運用が変わるのではなく、企業が準備する猶予期間が設けられています。
ただし猶予期間中に、施行令・施行規則・各種ガイドライン・Q&Aが順次整備され、実務上の要件が具体化されていきます。「施行日」に対応するためには、企業にとっての実質的な締切は「施行日」のかなり前に来ることが多いということに注意が必要です。
準備の進め方としては、今ある情報に基づき、データと業務の棚卸しなど、準備できることから着手し、施行令等が整備され次第、追加で対応していくことが現実的です。
立法経緯と施行までのスケジュール
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2023年11月15日 | 個人情報保護委員会事務局が「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」を公表 |
| 2025年3月5日 | 個人情報保護委員会が「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」を公表 |
| 2026年1月9日 | 個人情報保護委員会が「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」を公表 |
| 2026年4月7日 | 改正法案が閣議決定・国会提出 |
| 2026年5月26日 | 衆議院で可決 |
| 2026年7月10日 | 参議院で可決・改正法成立 |
| 2026年7月17日 | 公布 |
| 公布~2年以内 | 政令で定める日から施行(施行令・施行規則・ガイドライン等が順次整備される見込み) |
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2. 改正の4つの柱(整理)
改正点は多岐にわたるため、全体を「4つの柱」に分けて俯瞰し、どこが自社に影響しやすいか整理します。
改正内容は大きく、1.適正なデータ利活用の推進、2.リスクに適切に対応した規律、3.不適正利用防止、4.規律遵守の実効性確保のための規律の4領域に整理できます。まずは自社の個人情報に関わる業務を、マーケティング・広告配信、顧客管理・問い合わせ対応、本人認証、データ分析・AI開発、外部事業者との連携(第三者提供・委託)といった利用場面ごとに分解し、どの柱と接点があるかを確認するのが近道です。
1つ目の柱は「同意が要らない場面を増やす」ことが中心に見えますが、実際は条件付きの合理化です。特例や例外の適用には、目的限定、一定事項の公表、提供元・提供先間の合意、第三者提供禁止などのガードレールがセットになるため、運用設計が伴わないと使えません。
2~4つ目の柱は、事故や悪用が起きたときに被害が大きい領域を明確にし、止める力を上げる内容です。経営目線では、法務だけの課題ではなく、商品・サービスの設計部門、マーケティング部門、外部委託先対応をする部門、顧客対応部門までを巻き込んだ、横断プロジェクトとして扱う必要があります。
4つの柱と改正項目の一覧
| 柱 | 改正項目 |
|---|---|
| 1. 適正なデータ利活用の推進 | ① 統計作成等目的による同意取得義務の免除 ② 同意取得に係る例外規定の新設・要件緩和 |
| 2. リスクに適切に対応した規律 | ③ 子どもの個人情報に係る規制の明確化・厳格化 ④ 顔特徴データ等に係る規律の新設 ⑤ 委託を受けた事業者の規律の整備 ⑥ 漏えい等発生時の本人通知義務の緩和 |
| 3. 不適正利用等防止 | ⑦ 特定の個人への働きかけが可能な情報への規制強化 ⑧ オプトアウトによる提供先の身元・利用目的の確認義務化 |
| 4. 規律遵守の実効性確保のための規律 | ⑨ 勧告・命令の行使の柔軟化 ⑩ 違反行為を補助等する第三者への措置の法定 ⑪ 罰則の強化・拡大 ⑫ 課徴金制度の導入 |
2-1 適正なデータ利活用の推進
本人同意を前提としたルールを維持しつつ、リスクが低い形での分析・連携や、本人意思に反しない取扱いについて、同意規律を合理化する方向です。
データ利活用を阻む要因の一つは、目的外利用や第三者提供などの局面で同意が必要となり、現場が「同意を取れないならやめる」か「解釈で押し切る」の二択になりやすい点です。改正は、前者の停滞を減らしつつ、後者の逸脱を生まないよう、要件を明示して安全な道を作る発想です。
ただし、個人情報を利用する目的を適切に管理し、「本人の期待を裏切らない範囲」に収めることが必要です。同意が不要になるための要件を満たさないのに例外を使うと、単なる違反になるだけでなく、改正で強化される命令や課徴金のリスクにつながります。例外を使う業務ほど、事前に根拠と判断記録を残す運用が必要です。
【統計作成等目的の同意取得義務の免除】
統計作成等を行う目的に限って利用される場合、一定の条件のもとで、本人同意なしに取得や提供が可能となる場面が広がります。狙いは、特定の個人との対応関係を排斥し、傾向や性質を把握する分析にデータを回せるようにすることにあります。
実務上は「統計作成等を行う目的のみに使う」ことが核心です。提供を受けた情報を、個人に紐づく施策やスコアリング、個別のターゲティングに転用すると、特例の前提が崩れます。特例を使えば、データを取り込みやすくなりますが、一方で、取り込んだデータを本来の目的以外に使ったり、外部に渡したりすることは厳しく制限されるので、取り込んだデータが目的外の業務に流用されない仕組みを作る必要があります。
また、条件として一定事項の公表や提供元・提供先間の合意など、統計作成等を行う目的に限って利用されることを担保する仕組みが求められます。特例を活用する企業は、プロジェクト開始時点で、個人情報の利用目的、対象データ、提供先、再提供禁止、保管期間等を文書化し、後から監査できる形にしておくことが有益です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 統計作成等の目的であっても、個人データの第三者提供や要配慮個人情報の取得には原則として本人同意が必要。 |
| 改正後(改正法) | 統計作成等目的にのみ利用することが担保され、公表等の条件を満たす場合は、本人同意なしに個人データの第三者提供や要配慮個人情報の取得が可能。 |
| 改正法の条文 | 改正法30条の2、31条の3 |
【同意取得の例外規定の新設(本人の意思に反しない等)】
取得状況から見て本人の意思に反せず、権利利益を害しないことが明らかであると個人情報保護委員会規則で定める場合の取扱いについて、同意不要とする例外が新設されます。典型は、本人が求めたサービスを提供するために必要なデータ連携で、本人にとって合理的に予測可能な範囲の提供です。
例えば、ホテル予約サイト経由で宿泊予約が成立した際に、ホテルへ必要情報を提供するケースは、本人の期待に沿っており、本人の意思に反せず、権利利益を害しないことが明らかです。
- 例外の解釈に注意
- 例外を広く解釈してしまうことは危険です。「本人の意思に反しない」を事業者都合で判断すると、本人の不意打ちになりやすい広告目的の連携や名寄せまで正当化してしまいかねません。具体的な対象範囲は個人情報保護委員会規則で定められますが、適用可否は、本人の合理的期待、データの性質、提供先の利用目的、拒否の機会の有無まで含めて慎重に評価し、判断根拠を残すことが重要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 取得状況から見て本人の意思に反せず権利利益を害しないことが明らかな場合でも、同意取得義務が免除される規定はない。 |
| 改正後(改正法) | 契約履行のためやむを得ない場合など、本人の意思に反しないことが明らかな取扱いについて、同意取得義務を免除する例外を新設。 |
| 改正法の条文 | 改正法18条3項7号、20条2項7号、27条1項8号 |
【同意取得の例外規定の要件緩和(生命・公衆衛生等)】
生命・身体・財産の保護や公衆衛生の向上などのために必要がある場合に、個人情報の目的外利用や個人データの第三者提供について本人同意が不要になる例外規定について、これまでは「同意取得が困難」という要件を満たす場合に限られていました。改正後は、「同意を得ないことに相当の理由がある」場合も例外規定が適用されるようになります。緊急性だけでなく、現実の運用上の妥当性を踏まえた拡張といえます。
例えば、公衆衛生の向上のために特に必要である一方で、本人のプライバシー等の侵害を防止するために必要かつ適切な措置(氏名等の削除、提供先との守秘義務契約の締結等)が講じられているため、当該本人の権利利益が不当に侵害されるおそれがない場合が想定されます。事業者側は、代替措置でプライバシー侵害のリスクを最小化したことを説明できるようにしておくために、個人データの提供範囲の限定、匿名化、提供先との守秘義務契約、提供記録の保存などを組み合わせて、同意を得ない取扱いを正当化できる状態を作ることが重要です。例外は便利な抜け道ではなく、本人保護を別の手段で確保したときにだけ許される手続きだと理解すると運用がぶれにくくなります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 生命・身体・財産の保護や公衆衛生向上等の例外は、「同意取得が困難であるとき」に限られていた。 |
| 改正後(改正法) | 「同意取得が困難であるとき」に加え、「同意を得ないことについて相当の理由があるとき」も例外に追加。 |
| 改正法の条文 | 改正法18条3項2号・3号、20条2項2号・3号、27条1項2号・3号 |
【学術研究機関等に医療の提供を目的とする主体が含まれる旨の明示】
学術研究を目的とする場合に、個人情報の目的外利用や個人データの第三者提供について本人同意が不要になる例外規定について、これまで当該例外が適用される主体は「学術研究機関等」のみで病院等は含まれていませんでしたが、「学術研究機関等」に、病院等の医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることが明示されます。医学・生命科学の研究において、研究対象となる診断・治療の方法に関する臨床症例の分析が必要不可欠ですが、病院等の医療の提供を目的とする機関又は団体による研究活動が広く行われている実態があるので、学術研究にかかる例外規定が適用される主体に病院等が含まれることを明らかにしました。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 学術研究を目的とする場合の例外は、「学術研究機関等」のみで病院等は含まれていなかった |
| 改正後(改正法) | 「学術研究機関等」に、病院等の医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることを明示。 |
| 改正法の条文 | 改正法16条9項 |
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2-2 リスクに適切に対応した規律
プライバシー侵害の影響の大きいリスク領域(子どもの個人情報・顔特徴データ・委託・漏えい対応)を中心に、より明確で実効性の高い規律へ更新されます。
この柱は、ルールが曖昧だったために運用が割れていた領域や、被害が大きいのに統制が追いついていなかった領域を、はっきり線引きする改正です。業務フローに直撃しやすいので、法務だけでなく商品・サービスの設計部門、マーケティング部門、外部委託先対応をする部門、顧客対応部門が同じ前提で動けるように整理する必要があります。
共通する考え方は、本人が気づきにくい収集、弱い立場の本人、外部委託で見えにくい取扱いといった、情報の非対称性が大きい場面ほど、事業者側に適切な対応を求めることです。事業者は、こうした場面における社内の管理・チェック体制を整えて、本人へ必要な説明を尽くすことが必要です。特に委託をする場合は、委託先のミスが委託元の信用を直撃するため、契約で定めるだけでなく、実際の運用まで管理することが求められています。
【子どもの個人情報の規制の明確化・厳格化】
子どもの個人情報について、年齢基準や同意の相手方がより明確になり、厳格化されます。年齢が低いほど判断能力や交渉力が弱いという前提に立ち、保護者(法定代理人)関与を制度として組み込む狙いがあります。
16歳未満の者の個人情報を取り扱う場合においては、原則として、「本人」とあるのを「本人の法定代理人」と読み替えて個人情報保護法の規定を適用するので、実務への影響は、子どもが利用する可能性のあるサービス全般に及びます。会員登録時に年齢を確認していない状態だと、同意取得や通知の相手方を誰にするかが不安定になります。
本人が16歳未満であることを事業者が知らないことについて「正当な理由」がある場合は、「本人の法定代理人」へ読み替える特例が適用されないので、いかなる方法により年齢確認を行うかが実務上重要なポイントになります。本人の自己申告以外の方法による年齢確認は事業者にとって大きな負担となり得るので、年齢確認の強度はサービスの性質に応じて設計する必要があります。
また、保護者からの開示や削除、利用停止の問い合わせを想定し、本人確認、代理権確認の進め方を整備しておくことも必要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | ガイドラインやQ&Aで12~15歳を目安とする記載があるが、子どもの同意取得年齢は法令上定められていない。 |
| 改正後(改正法) | 16歳未満の本人については、原則「本人」を「本人の法定代理人」に読み替えて適用。ただし、本人が16歳未満であることを事業者が知らないことについて「正当な理由」がある場合は読み替えない。 違法行為の有無を問わない利用停止等請求を可能にする。 個人情報取扱事業者は、未成年者の年齢及び発達の程度に応じて、その最善の利益を優先して考慮した上で、未成年者の権利利益を害することのないように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 法定代理人は、本人の最善の利益を優先して考慮しなければならない。 |
| 改正法の条文 | 改正法35条9項・10項、40条の2、58条の3 |
【顔特徴データ等(生体情報)に係る規律の新設】
顔識別機能付きカメラシステム等のバイオメトリック技術の利用が拡大する中で、顔特徴データ等の生体情報は、本人が気づかない形で取得されやすく、不変性が高く特定の個人を識別する効果が半永久的に継続するため、漏えい・転用時のダメージが大きい情報です。この特性を踏まえ、取得や利用にあたり周知を求めるなど、新たな規律が設けられます。
重要なのは、同意を取るかどうか以前に、本人が認識できる状態に置くことです。店舗の入退館で顔認証を使うといったケースでは、カメラがあるだけでは足りず、取得する情報の内容・利用目的・問い合わせ先などを周知する設計が求められます。また、顔特徴データについては利用停止等請求の要件が緩和されたため、違法な取扱いがなくても本人が利用停止等を請求できるので、利用停止等請求に対応できる準備が必要です。
さらに、顔特徴データ等の生体情報はオプトアウト提供(あらかじめ本人の同意を得ることなく、一定の事項をあらかじめ本人に通知するか本人が容易に知り得る状態に置き、かつ個人情報保護委員会に届け出たうえで、本人が求めれば提供を停止することを前提に、個人データを第三者に提供する方法)の対象から外れるので、第三者提供の設計はより慎重さが必要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 顔特徴データ等は個人識別符号(個人情報保護法2条2項)に該当し得るが、顔特徴データ等の固有の要求事項の定めはない。 |
| 改正後(改正法) | 顔特徴データ等を想定した「特定生体個人識別符号」「特定生体個人情報」の定義を新設し、「特定生体個人情報」の取扱いの周知義務、利用停止等請求権の強化、オプトアウト提供の対象外になることを規定。 |
| 改正法の条文 | 改正法16条5項、21条の2、27条2項但し書、35条7項・8項 |
【委託先(委託を受けた事業者)の規律整備】
デジタルトランスフォーメーションの進展で、データ処理を委託先が実質的に担う構造が増えたため、委託先の実態に応じて規律を整理する改正です。具体的には、委託業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない義務を委託先に明文で課す一方、委託元の指示どおり機械的に処理するだけの委託先については、契約でデータの取扱い方法等を合意することを条件に一部の義務を免除する、という双方向の整理を行っています。
委託元の実務では、契約書に義務を定めるだけで安心せず、実際に守られているかの運用確認が重要になります。委託業務の内容・目的、取り扱う個人データの項目・範囲、目的外利用の禁止、取扱いを行う場所、委託先が講ずべき安全管理措置の水準、秘密保持義務、再委託の可否、委託先による定期・随時の報告義務、委託元による監査権、漏えい発生時の対応、契約終了時のデータ返還・消去などを契約書で具体的に定めた上で、監査や報告を通じて運用状況を把握します。
委託先側も、委託元から受けた指示の範囲内で処理し、逸脱を早期に検知して報告できる体制が求められます。委託を受けた個人データは勝手に活用できないという原則を社内に徹底することが必要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 委託先固有の規律は定められておらず、委託元の監督義務(個人情報保護法25条)のみが定められている。 |
| 改正後(改正法) | 委託先による目的外利用を明文で禁止。一方で、一定の契約要件を満たせば、委託先への一部義務の適用を免除する規定も新設。 |
| 改正法の条文 | 改正法30条の3、58条の2 |
【漏えい等発生時の本人通知義務の緩和】
個人データの漏えい等が起きた場合の本人通知について、一定の場合に例外が追加され、通知義務が緩和されます。本人への通知が行われなくても本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合があるので、個人の権利利益侵害が発生するリスク等に応じて、漏えい等報告や本人通知の範囲・内容を合理化することが狙いです。
「本人への通知が行われなくても本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合」は、個人情報保護委員会規則で定められますが、例えば、サービス利用者の社内識別子(ID)等、漏えいした情報の取得者において、それ単体ではおよそ意味を持たない情報のみが漏えいした場合が想定されます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 通知が困難で代替措置を講じた場合を除き、漏えい等が生じた際は原則一律に本人への通知義務を負う。 |
| 改正後(改正法) | 「本人への通知が行われなくても権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合」という例外を追加し、通知義務を合理化。 |
| 改正法の条文 | 改正法26条2項但し書 |
2-3 不適正利用等防止
個人情報に限らず、特定個人への連絡・働きかけに使える情報や、名簿流通に結びつきやすい提供スキームに対し、規制を強めます。
この柱の本質は、個人情報かどうかという形式よりも、実質的に個人への働きかけができるか、権利侵害の導線になっているかで規制する点にあります。近年の被害は、電話番号やメール、Cookie ID(ウェブサイトを閲覧したときに閲覧者のブラウザに保存されるCookie に含まれる固有の文字列)などを起点に、詐欺や強引な勧誘につながるケースが増えており、制度もその現実に合わせにいっています。
【特定の個人への働きかけが可能な情報への規制強化】
電話番号、メールアドレス、Cookie IDなど、単体では個人情報に当たらなくても特定の個人への連絡や追跡に使える情報が悪用されると、個人のプライバシー、財産権等の権利利益の侵害が発生します。例えば、メールアドレスを用いて、有名企業をかたったメールを個人に送信し、当該メールの本文に記載したフィッシングサイトの URL にアクセスさせて認証情報やクレジットカード情報等を窃取する事例です。このようなリスクを踏まえ、「個人を識別できるか」だけでなく、「個人に到達できるか」に着目して、規制が強化されます。
対象は「連絡可能個人関連情報」と定義され、住所、電話番号、メールアドレス、Cookie ID、その他特定の個人に対する連絡その他の情報の伝達に利用することができる記述等として個人情報保護委員会規則で定めるものが含まれます。単体では氏名が分からなくても、メッセージ配信やターゲティングができるデータです。
この規律で新たに禁止されるのは、偽りなどの不正な手段で連絡可能個人関連情報を取得すること(不正取得の禁止)、違法・不当な行為を助長・誘発するおそれのある方法で利用すること(不適正利用の禁止)です。そのため、実務の要点は、①こうした情報を適正な手段で取得しているか(取得元・取得経路の適法性)、②その利用や第三者への提供が、詐欺的な連絡や名寄せによる権利侵害を助長する形になっていないかを確認することです。
また、電話番号、メールアドレス、Cookie IDなどの情報が含まれる仮名加工情報(他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報)及び匿名加工情報(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたもの)についても同様の趣旨が当てはまるので、「連絡可能個人関連情報」と同様の取扱いになります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 個人関連情報(個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの。特定の個人を識別できる情報と結びついていない電話番号、メールアドレス、Cookie IDなど)、個人情報でない仮名加工情報、匿名加工情報には、不適正利用の禁止や不正取得の禁止に相当する規定がない。 |
| 改正後(改正法) | 電話番号、メールアドレス、Cookie ID等を含む「連絡可能個人関連情報」を新設し、不適正利用・不正取得を禁止。仮名・匿名加工情報にも準用。 |
| 改正法の条文 | 改正法2条8項、31条の2、42条4項、46条の2 |
【オプトアウト提供:提供先の身元・利用目的の確認義務化】
オプトアウト届出事業者である名簿屋が、法に違反するような行為に及ぶ者にも名簿を転売する悪質な名簿屋に名簿を提供する事案が発生しており(いわゆる「闇名簿」問題)、2025年5月には、個人情報保護委員会が、オプトアウト届出事業者である名簿屋が特殊詐欺グループに個人情報を販売したことを理由に、個人情報保護法19条(不適正な利用の禁止)に違反する個人情報の提供の即時中止を求めて、緊急命令および勧告を行いました。このようなオプトアウト制度に基づいて提供された個人データが「闇名簿」作成の際の情報源の一つとなっているという現状を踏まえて、オプトアウトによる第三者提供について、提供先の身元と利用目的の確認を義務化します。個人データが誰に渡っているか分からない状態を減らし、流通の入口で止める狙いがあります。
提供先の身元と利用目的の確認は、形式的なチェックでは足りません。提供先の法人情報(実在)を確認するだけでは不十分で、どのような目的で個人データを利用するのかを特定・確認し、その過程で、違法・不当な行為や転売・再提供を行うおそれのある相手ではないかを見極めるところまで踏み込んで初めて、実効的なリスク低減につながります。確認結果の記録を残すことも求められているので、提供先への問い合わせから記録作成までの確認業務の手順を設計しておくことが必要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | オプトアウトによる第三者提供を行う際、提供先の身元や利用目的の確認は義務付けられていない。 |
| 改正後(改正法) | 提供先の氏名・名称・住所・代表者名および利用目的の確認を義務化。確認を行った場合、確認記録の作成義務も新設。確認を求められた第三者に、確認事項を偽ることを禁止。 |
| 改正法の条文 | 改正法27条7項・8項、29条1項 |
2-4 規律遵守の実効性確保のための規律
ルールを作るだけでなく、違反を止め、再発を防ぐための手段が強化されます。具体的には、勧告・命令の実効性を確保し、悪質事案に対応するための刑事罰を強化し、個人情報保護法として初めて課徴金制度を導入します。
- 最もインパクトが大きい改正点
- 今回の改正で最も経営上のインパクトが大きいのは、課徴金制度が導入されたことと思われます。課徴金納付命令の対象になる場合は限定されているものの、仮に何らかの手違いで違反行為を行ってしまった場合に、金銭的な損失が発生し、レピュテーションにも影響します。違反行為を行わないように、改めて個人情報の取扱いの運用や体制を確認することが必要です。
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【勧告・命令の行使の柔軟化】
例えば、名簿の販売先が、法に違反するような行為を行う者にも名簿を転売する転売屋だと名簿販売業者が認識していたにもかかわらず、当該販売先に対し、意図的にその用途を確認せずに名簿を販売する事案では、当該名簿に掲載された本人は、当該名簿が販売されることで特殊詐欺等の被害に遭うおそれが高まります。このような事案において、個人の権利利益の侵害を防ぐためには、重大な権利利益の侵害が切迫している段階において速やかに緊急命令を発出して違反行為を是正させる必要があります。そこで、勧告・命令の要件が見直され、より迅速に是正を求められるようになります。重大な被害が現に発生してから動くのではなく、被害が拡大するおそれがある段階で、止めるための手当てがしやすくなります。
また、犯罪者グループへ名簿が提供された場合、当該名簿に掲載された本人は、これを利用した特殊詐欺の被害等を受けるおそれがありますが、そのような状況に置かれていることを認知しなければ、特殊詐欺等から自らを守るための対策を講ずることができません。そこで、是正措置にとどまらず、本人への通知や公表など、権利利益の保護に必要な措置まで命令対象になります。
実務的な備えとしては、日頃から適正な取扱いを徹底したうえで、その判断過程を記録として残し、適正な運用を「説明できる状態」にしておくことが重要です。どのデータを、どの根拠で、誰が判断して取り扱ったかを示せる企業は、当局からの照会や本人対応にも的確に応じることができ、万一問題が生じた場合でも、対応までの時間を短く、影響を小さく抑えられます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 勧告を経ることなく直ちに緊急命令が出せるのは、個人の重大な権利利益が既に侵害されている場合に限られている。 勧告・命令の内容は、違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置に限定されている。 |
| 改正後(改正法) | 個人の権利利益の侵害が切迫している場合において、勧告を前置することなく緊急命令を発出できるようにする。 本人に対する違反行為に係る事実の通知又は公表その他の本人の権利利益の保護のために必要な措置を勧告・命令の内容とすることができることとする。 |
| 改正法の条文 | 改正法148条 |
【違反行為を補助等する第三者への措置の法定】
例えば、官報に掲載されている破産手続開始決定を受けた個人の氏名や住所等の個人データが、地図データとひも付けられる形でウェブサイト上にて公表された事案において、当該ウェブサイトの運営者に対して、当該ウェブサイトの停止等を命令し、さらに刑事告発を行っても、当該運営者が命令に従わない場合、個人の権利利益の侵害を排除できません。このような事案において、当該ウェブサイトの配信に用いられているサーバのホスティング事業者が当該運営者による当該サーバの利用や当該サーバ自体の機能を停止することや、検索エンジンサービス事業者が当該ウェブサイトのドメイン名等の情報表示を停止することができれば、個人の権利利益侵害のおそれを減少させることが可能になります。そこで、違反行為を補助する関係第三者に対して、停止要請などを行う枠組みが明確化されます。
任意の要請を受ける第三者は、個人情報等の保存に用いるためのクラウドサービスを提供する事業者、個人情報を公開するためのサーバのホスティング事業者、検索サービス提供事業者等が想定されています。
自社が個人の権利利益を侵害する違反行為をしないとしても、自社がクラウドサービス事業者、サーバのホスティング事業者、検索サービス提供事業者などの役務提供者であれば、役務提供先が違反行為をした場合、任意の要請を受ける可能性があるので、受付窓口、応じるか否かの判断基準、停止の手順、顧客への連絡、記録・ログの保全など、要請を受けたときに速やかに対応ができる準備をしておく必要があります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 勧告・命令は違反事業者自身に対してのみ発出可能。クラウドサービス事業者等の関係第三者への停止要請の根拠規定はない。 |
| 改正後(改正法) | 「取扱関係役務提供者」(クラウドサービス事業者等)と「特定電気通信役務提供者」(検索サービス提供事業者等)に対し、違反行為の中止に必要な措置を要請できる規定を新設。要請に応じた場合の免責規定も整備。 |
| 改正法の条文 | 改正法148条の2 |
【罰則の強化・拡大】
個人情報データベース等の不正提供等罪・保有個人情報の不正提供等罪について、不正な利益を図る目的での提供行為に限られていましたが、加害目的での提供行為であっても本人の権利利益を害するので、「損害を加える目的」に基づく提供行為についても、刑事罰の対象行為となります。利益目的に限らず、報復目的等の悪質な動機による情報の持ち出しも捕捉できるようになり、内部不正や委託先不正に対する抑止効果も高まります。
また、他の罰則規定との均衡を踏まえ、法定刑も引き上げられます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 個人情報データベース等の不正提供等罪・保有個人情報の不正提供等罪の罰則は「不正な利益を図る目的」のみが対象。法定刑は1年以下拘禁刑・50万円以下罰金で、取得行為自体は対象外。 |
| 改正後(改正法) | 「損害を加える目的」も処罰対象に追加し、法定刑を2年以下拘禁刑・100万円以下罰金に引上げ。詐欺・不正アクセス等による個人情報の不正取得罪を新設。 |
| 改正法の条文 | 改正法178条〜180条 |
【課徴金制度の導入】
大量の個人情報を収集し、その悪質な利用や提供を通じ、相当の経済的利益を獲得する事業者に対しては、命令や刑事罰では抑止力に限界があるので、こうした事業者に対する十分な抑止力を持つことを目的として課徴金制度が導入されます。課徴金は、行政上の措置として機動的に賦課されるものであり、違反行為の経済的誘因を小さくすることにより、違反行為を抑止することを目的として導入されるものです。違反で得た経済的利益を剥奪し、悪質な違反が「儲かる」状態をなくすので、抑止効果が期待されます。
課徴金対象行為は、①一定の類型の不適正利用・提供(違法行為又は不当な差別的取扱いを行うことが想定される第三者への提供・当該第三者のための利用)、② 第三者提供の制限違反、③統計作成等の特例違反(統計情報等の作成以外の目的で利用、特例に依拠せず第三者提供)、④適正取得条項違反(偽りその他不正の手段により取得)です。
法改正で認められた統計作成等の特例が対象になっていることは注意が必要です。具体的には、取得者が、統計情報等の作成のみを目的として取得した要配慮個人情報を、統計化等せずにそのまま第三者に販売していた場合や、統計化等せずにそのまま顧客企業に対する広告配信サービスの提供のために用いて利益を得ていた場合です。また、提供先が、統計情報等の作成を目的として提供を受けた個人データを、統計化等せずにそのまま第三者に販売していた場合や、統計化等せずにそのまま顧客企業に対する広告配信サービスの提供のために用いて利益を得ていた場合も課徴金の対象です。
仮に課徴金対象行為に該当した場合でも、例外として、本人の数が1,000人を超えない等権利侵害の程度が大きくない場合や、個人情報取扱事業者が対象行為を防止するための相当の注意を怠っていない場合(主観的要素)には課徴金納付命令の対象になりません。
課徴金対象行為が限定され、権利利益侵害の大規模要件及び主観的要素によってさらに限定されるので、課徴金納付命令の対象になるのはこれらの要件を全て満たす悪質な行為だけです。課徴金対象行為に当たる違反行為を行わないように改めて個人情報の取扱いの運用や体制を確認するとともに、仮に何らかの手違いで違反行為を行ってしまったとしても、「対象行為を防止するための相当の注意を怠っていない場合(主観的要素)」にあたるように、注意を尽くしたといえる仕組みを整えて、その記録を残しておくことが重要です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正前(現行法) | 個人情報保護法違反への金銭的制裁は刑事罰(罰金)のみで、行政上の課徴金制度は存在しない。 |
| 改正後(改正法) | 違法な第三者提供等で対価を得た場合等に課徴金納付を命令。10年以内の違反歴があれば1.5倍加算、自主的な報告があれば50%減額するリニエンシー制度も導入。 |
| 改正法の条文 | 改正法148条の3〜148条の17 |
3. 企業が今から準備すべきこと
事業内容によっては、施行日を待ってからでは間に合わない可能性があるため、いまのうちに、法改正の影響を把握し、優先順位付けをして、可能な範囲で運用整備に着手します。
法改正の影響を把握するためには、自社の個人データの把握と、自社の業務の現状の把握が必須です。
優先順位は、自社の収益に関連するデータ連携ほど高く、また被害が大きいデータほど高く設定します。子ども向けサービス、顔特徴データ等の生体情報、統計作成・AI開発でのデータ利用、オプトアウト提供等がある企業は、影響が広いので早めの着手が必要です。
内容によっては、法務だけではなく、商品・サービスの設計部門、マーケティング部門、外部委託先対応をする部門、顧客対応部門までを巻き込んだ、横断プロジェクトとして扱う必要があります。
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3-1 個人情報の棚卸しとデータフローの可視化
最初にやるべきは、取り扱う個人情報の棚卸しです。個人情報、個人データ、要配慮個人情報、個人関連情報、生体情報などの分類を整理しておくと、法改正による規制の対応の判断がしやすくなります。
また、個人情報の収集から利用、保管、提供、削除までの自社の個人情報の各段階の取扱い(データフロー)を整理することも有益です。データがどこで複製され、どこで加工され、どこで共有されるかが見えると、特例や例外を使うときの設計が速くなります。
3-2 プライバシーポリシー・利用目的・同意文言の見直し
法改正に対応して、利用目的の特定と公表を準備することも重要です。同意取得の例外を使う場面でも、本人にとって予測可能な説明ができていないと、利用停止や問い合わせ対応が増えるかもしれません。
本人の同意が必要な場面と不要な場面を切り分け、同意が必要な場面では、誰に提供するのか、何に使うのか、どの範囲かを明確に説明できるように整理します。
3-3 契約書の確認と委託先管理
個人データの委託契約は、委託業務の内容・目的、取り扱う個人データの項目・範囲、目的外利用の禁止、取扱いを行う場所、委託先が講ずべき安全管理措置の水準、秘密保持義務、再委託の可否、委託先による定期・随時の報告義務、委託元による監査権、漏えい発生時の対応、契約終了時のデータ返還・消去などを具体的に定めます。改めて契約内容を見直して、法改正に合わせて改定が必要な事項を整理します。
重要なのは、契約書で合意することだけでなく、実際の運用が契約書の内容に追いついているかを点検することです。委託先側に、目的外利用をしない仕組みなど、契約書で合意した内容を遵守できる体制になっているかをチェックする必要があります。
3-4 漏えい対応(報告・本人通知)の手順更新
漏えい対応は、検知と封じ込め、証拠保全、影響評価、当局報告と本人通知の判断、再発防止までを一連の手順として整備します。誰が最初に動くか、どの情報を集めるか、どこで経営判断が入るかが決まっていないと、初動が遅れ被害が拡大します。机上の手順だけでは機能しないこともあるので、事故が起きたと想定して訓練を行っておくことで、実際の事故時に対応が変わります。
3-5 安全管理措置と社内体制(教育・監査)の強化
安全管理措置は、アクセス制御、外部からの不正アクセス等の防止等の技術面とともに、組織体制の整備、個人データの取扱いに係る規律に従った運用、漏えい等事案に対応する体制の整備等の組織面も必要です。法改正に対応するにあたり、改めて安全管理措置を見直しておくことが有益です。
社内教育は、法務担当だけでなく、商品・サービスの設計部門、マーケティング部門、外部委託先対応をする部門、顧客対応部門までを巻き込んで、実施する必要があります。
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4. よくある質問(FAQ)
改正内容が多いため、実務で特に問われやすい“何が変わる/誰が対象/いつまでに何を”を短時間で確認できるQ&Aをまとめます。
4-1 「何が変わるのか」を把握する方法は?
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案(概要)」(令和8年4月)の法改正の4つの柱のうち、自社の業務に当てはまりそうなものがあるか確認します。子どもユーザーがいるか、顔特徴データ等の生体認証を使うか、統計作成・AI開発でのデータ利用があるか、オプトアウト提供があるかなど、順番にあてはめていき、該当する柱から優先的に検討します。
一次情報としては、個人情報保護委員会の資料のうち、個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律案について」(令和8年4月)で全体像を把握し、詳しく検討する必要があれば、改正法の条文を読みます。今後、施行令・施行規則・ガイドライン・Q&Aで要件や運用が具体化されるので、新たに公表される資料にも注意が必要です。
4-2 どの企業が影響を受ける?個人情報・個人データの範囲は?
原則として、個人情報を取り扱う企業の多くが影響を受けます。特に影響が大きいのは、子どもユーザーがいるサービス、顔認証など生体認証を扱う事業者、統計作成・AI開発でのデータ利用をする事業者、広告配信事業者などです。
今回の改正で注意が必要なのは、個人情報に当たらなくても個人への連絡や働きかけが可能な情報が規制対象になり得る点です。扱っている情報が「個人情報」なのか、それとも個人情報には当たらない「連絡可能個人関連情報」なのかを整理しておく必要があります。
4-3 いつまでに何を対応すべき?
2026年7月17日の公布から2年以内に施行されますが、それまでの間に施行令・施行規則・ガイドライン等が順次整備される見込みです。企業の現実的な計画としては、下位規範が出そろう前でも、自社の個人データの把握と、自社の業務の現状の把握をした上で、法改正の影響を把握し、優先順位付けをして、可能な範囲で運用整備に着手することが合理的です。
ロードマップ例は、1)現状把握(個人情報の棚卸し、データフローの可視化) 2)法改正の影響を把握、優先順位付け 3)プライバシーポリシー・利用目的・同意文言の見直し、契約書の確認と委託先管理 4)漏えい対応(報告・本人通知)の手順更新、安全管理措置と社内体制(教育・監査)の強化の順です。
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講師派遣により、自社の業務フローや取り扱うデータの特性に即した最適な運用ルールと社内体制づくりを支援します。
研修プログラムのカスタマイズや日程など、お気軽にご相談ください。
5. まとめ
令和8年改正は、データ利活用を進めるための合理化と、子ども・生体情報・名簿流通のような高リスク領域の規制強化を同時に進める内容です。
企業が優先して取り組むべきは、個人情報の棚卸しとデータフロー可視化、同意や周知の設計見直し、委託先管理の実効化、漏えい対応の整備などです。
課徴金制度が導入されましたが、注意を尽くしたといえる仕組みを整えて、その記録を残しておくことが重要です。何をどの目的で、どの根拠で扱い、事故時にどう判断したかを記録として残せる体制を作ることが、コンプライアンスと事業成長を両立させる現実的な解になります。
「リスクマネジメント研修」で組織の危機対応力を強化する
個人情報の漏えいやコンプライアンス違反など、事業活動に潜むリスクを未然に洗い出し、組織的にコントロールする実践スキルを習得します。
自社の安全・健全な経営基盤づくりに役立つ研修内容をご確認ください。
6. 参考文献・引用元リンク
本記事の作成にあたり、以下の個人情報保護委員会およびe-Govの公的資料を参照しています。制度の詳細や最新の審議状況は、各リンク先でご確認ください。
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案』の閣議決定について」(令和8年4月7日)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案(概要)」(令和8年4月)
- 個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律案について」(令和8年4月)
- 個人情報保護委員会「法律案要綱」
- 個人情報保護委員会「法律案・理由」
- 個人情報保護委員会「新旧対照条文」
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」(令和7年3月5日)
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針」(令和8年1月9日)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(現行法条文)
監修者情報
友成 実(ともなり みのる)

| プロフィール |
広島大学法学部法学科を卒業後、司法研修所での研修を経て、第一中央法律事務所に入所し、現在に至ります。 約18年にわたり、弁護士として、様々な業種の企業の民事再生や私的整理などの事業再生案件に携わってきました。経営革新等支援機関として認定されています。 また、使用者・労働者双方の労働問題に積極的に取り組んでいます。東京弁護士会の労働法制特別委員会に所属し、社会保険労務士の登録もしています。 その他、企業の契約、訴訟、M&Aなど企業法務全般、個人の債務整理の業務にも従事しています。 |
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